王族の子【4】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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赤毛の王妹

15、発火事件

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王都国立で、最近流行りだしたことがある。
本来の髪色を、好きな色に染めるのだ。
色味を変えると雰囲気もがらっと変わる。校則は髪色を変えることを想定しておらず、学生たちはこぞって好きな色に染め始めた。

最近の人気の色は、男も女も黒であった。
染料はヘナに藍を混ぜて使う。
紺色の染料で昔からあったが、髪に使われるのはこの流行からだった。
染め方や、元々の地色の具合で染め上りは黒と言えども色々である。
赤めの黒から、青味がかった黒まで、さまざまな黒が王都国立の敷地内に溢れることになった。

このブーム、ひそかに喜んでいたのはリリアスだった。
今まで、誰一人被ることのない黒髪だったので、どこにいても悪目立ちをしていたのだが、色んな黒が氾濫することになり、目立たなくなったのだ。
もっとも、リリアスの黒は特別な黒だった。

闇夜の黒。
艶のあるぬばたまの黒は、どんなに染めかたを工夫しても、リリアスの黒にはならなかったのだ。

男も女も、リリアスのような黒い髪になれば、王族に見初められると期待した!


赤い髪のガーネリアンの同室はアンジェラである。
アンジェラの趣味は小さな手仕事で、ガーネリアンは一度もやりたいとも思わなかったが、真っ白いシルクのハンカチにひと針ひと針、花のような飾り文字のイニシャルを刺繍する。
毎晩ちくちくと針を刺すその顔は、恋する乙女。
ガーネリアンは、出来上がったイニシャルに気がついた。

アンジェラのAとL?
Lは誰だろう?

アンジェラは、ガーネリアンのような激しさのない、野に咲く花のような笑顔の可愛らしい、気立ての優しい娘だった。
取り立てて美人でもないのに、アンジェラは非常に男子にもてる。
付き合ったという話は聞かないので、そのハンカチからして、誰か心に秘めた好きな人がいるのかもしれなかった。
彼女に愛されるひとは、穏やかな人なんでしょうね、家庭もきっと円満!
なんてガーネリアンは思うのである。


ガーネリアンは、100人は入る講義堂の、上の階からなんとなく眺めていた。
今日の女子クラスは、リリアスが参加する日だった。
リリアスは教室に入ってくるなり、周りを見回しながら目をバチバチさせていた。
女子の華やかさに目がびっくりしたようだった。
少し息もあがっている。
男子クラスの後の着替えての女子クラスなので、急いだのだろう。
暇なことをする、とガーネリアンは思う。
リリアスの女服は、普段はスッキリとしたワンピースが主だ。きっとあまり持っていないのだろうと、ガーネリアンは想像する。
そのワンピースはリリアスの凛とした雰囲気にとても似合っていた。

見ていると、同室のアンジェラがリリアスにさりげない風を装いながら近づき、声を掛ける。
今日は暑いですねとかなんとか。

「走ってこられたのですか?」

アンジェラは、リリアスの額から頬に流れる粒の汗に気がついた。
リリアスは指先で汗を払おうとした。

「まあ、リリアスさま、汗はハンカチで押さえるようにぬぐうのですよ。お化粧が落ちてしまいますから」

アンジェラは、あのハンカチを取り出し、リリアスの額を優しく押さえた。
花のような笑顔を添えて。

ハンカチのLはリリアスのLだとガーネリアンは気がついたのだった。


そんなころ事件が起きた。
些細なものが発火するのだ。
はじめはアンジェラのハンカチだった。
授業中に机の上に置かれていたそれは、突然、発火したのだ。

近くの席にいたリリアスは、悲鳴をあげるアンジェラをかばい、落着きながら自分の勉強バックをどんと被せた。
火は重く固い鞄に燃え移れず、鎮火する。
アンジェラはがくがくと、リリアスの背中にしがみついていた。

「大丈夫ですよ。消えましたから」

騒然とした教室の中、リリアスが一番落着き頼りになった。
この場にいた全ての女子がリリアスの中に、紛れもない男を見たのだった。


次に燃えたのは、誰かからのプレゼントの小箱だった。
女子たちの間ではささやかなもののプレゼントの贈り合いが良く行われていた。
リリアスは贈ったこともないが、最近では頻繁に、リリアスに足りなさそうな、髪飾りや胸飾り、中には男性用のタイなどが贈られていた。
燃えたその箱は黒いリボンがかかり、リリアスの机に置かれていたものだった。

リリアスへのプレゼントには黒髪を連想させる、黒いリボンが添えられるようになっていた。

「ガーネリアン?最近調子はいかがですか?」

リリアスはガーネリアンに声をかけた。
リリアスの黒曜石のような眼が、優しく覗きこんでいた。

「あなたの髪は豪奢な燃える赤ですね!素敵です」

ガーネリアンはリリアスが誉める練習を普段からしていることを知っている。
皆が憧れて、黒い髪に染めてもリリアスの黒にはならないように、リリアスの黒曜石の瞳は誰も持ち得ない宝石のようだった。

「あ、ありがとうございます。そんな風に言っていただいて、、」

リリアスは少し照れていた。
ガーネリアンは自分が声に出して、リリアスに言ってしまっていたことに気がついた。

今度の合同練習のためのリリアスの特訓に、ガーネリアンは付き合っている。
男性のパートはガーネリアンがする。
ダンス歴が長いので、男性のパートも踊れるようになっていた。
すっと、リリアスは顔つきを改めた。

「ガーネリアンは王族の、加護の力を持っているのですか?」
リリアスは聞いた。

「まさか。バラモンの火の加護は王族男子の赤毛だけにしか現れたことがないわ!
末のスティルは赤毛だけど加護はなさそうだし。
加護の力は失われてしまったのではないのかしら?」

「え?バーライトもムハンマドも持っていますよ?」

ガーネリアンはリリアスに足を踏まれた。

「ご、ごめんなさいっっ」
リリアスは平謝りに謝る。

「大丈夫!気にしないで!もう少し練習に付き合ってあげるからすぐに上手になるわ!素敵に踊って、皆の視線を集めましょう!!」

ガーネリアンはリリアスが、血の繋りのある自分より、二人のことをよく知っていることを悲しく思ったのだった。


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