王族の子【4】~古き血族の少年の物語

藤雪花(ふじゆきはな)

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パリスの第一王子

25、暗殺未遂事件

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「どちらにいらっしゃったかと思いましたわ!カルサイト殿下」

涼やかな声が呼び掛けた。
バーライト王の第一の妻シーラだった。
甘い色の豊かな髪をまとめていた。
カルサイトはシーラに向き合う。

「これは王妃殿下、わたしを探しにきてくださったのですか?」

「パリスからの視察の皆様を接待するのはわたくしの役目ですから。本当に、今日はこちらで宿泊されますの?」

「この学校は王族の子も沢山通われていると聞いています。わたしが宿泊するのに、何の問題もありません」

シーラはちらりと、固まっているリリアスを見る。

「もう、あちこち見られまして?」

「学舎と体術の練習場につい先ほど。学生に本場の体術を手合わせしていただいきました」

シーラは目を丸くする。
「まあ、それは見逃してしまいましたわ!わたくしも、カルサイト殿下が戦っているお姿を拝見したかったですわ!」

ひとしきり会話をして、ようやくリリアスに気がついたようにいう。

「まあ、リリー。お久しぶりですわ!元気になさっているの?ムハンマド王弟もつつがなくて?」

リリアスは声を絞り出した。
「お久しぶりです。シーラ様!元気にしております」

「まあ、良かったわ。少しは王宮に顔を出すようにいっておいてね、、、あなたともまたお話をしたいわ」

二人はにこやかに会話をしながら宿舎の方へ歩いていく。
リリアスはシーラからカルサイトに自分の事が伝わるだろうと思う。それで諦めるだろうと期待する。
風がリリアスの横をすり抜ける。

(リリー、カルサイトの周囲は危険だ、気を付けろ)

風が耳元でささやきながら流れる。
リリアスはバードの声を聞いたような気がした。



学園祭の当日、ムハンマドは朝一番にバラモン王都公立学校へ行く。
ま白い王族の準礼装である。
リリアスは白ジャケットの制服を着る。
学校中がお祭騒ぎだった。
屋台もでている。
リリアスは見たことのないものばかりだ。
生徒が運営し彼らの父母や兄弟たちにも、学園祭は解放されていた。
その分、学校は外は警察兵団、内は、学校の自警団で守る厳戒警備体制である。
今年は隣国のパリスの次期王カルサイトも学校の視察に訪れ、学園祭にも参加しているという。
例年にない盛り上がりを見せていた!

リリアスは今日はムハンマドを独り占め予定である。オープニングは、2000人は入れる会場に、生徒と来賓などが一同に会して行われる。
事前に選ばれた生徒が行う競技体術と競技剣術だ。

競技体術はアルマンとトム。
競技剣術は寮長のセージと、ハンクス。

きゃー!!の歓声から幕を開ける。
その後は、体術、剣術でそれぞれ勝ち抜き戦である。
一番良い場所に貴賓席が設けられ、バーライト王に二人の王妃、パリスのカルサイト王子にその二人の側近とムハンマド、そしてムハンマドの連れとしてリリアスがいる。


「おはようございます」
リリアスは既に全員と知り合いである。
一年世話になったのにもかかわらず、リリアスがバーライト側にいないのには、深い訳がある。(「二人の王子」参照)

今は、リリアスは公の場でバーライトと共に立つことはない。
たまに、図書館で偶然出会うだけだ。
そのときでも、軽い会話しかすることはない。
バーライトの密かに愛した黒髪の娘はもう存在しないのだ。
バーライトは軽く笑顔で会釈。
シーラはにっこり妖艶なほほ笑み。
カルサイトはリリアスを見ると、人の良い笑顔で挨拶をする。
ムハンマドの横にいても、驚く素振りをみせないので、昨日あの後、シーラから色々聞いたであろうに、そんな素振りを全く見せない。

「昨日はありがとう!」
といっただけだった。


「ムハンマド、今日はものものしいね」
リリアスは会場の警備体制のものものしさを感じていた。

「今日は王に、わたし、パリスの次期王候補と揃っているから、誰もが狙われうるからな。昨日、カルサイトと何かあったのか?」

「学内を案内していただけだよ」
ムハンマドは少し不機嫌モードに入っている。

「それでか?カルサイト王子は交換留学生の話を持ちかけてきたが。お前を指名していたぞ。後見人として丁重にお断りをしておいたがな」

「交換留学生!?」

リリアスは聞き慣れない言葉に反応した。
何か楽しげな響きだと思う。

「バーライトにパリス、本当にわたしからあなたを、引きはなそうとする圧力は半端ない。あの手この手だ」

(ムハンマド、遅かれ早かれ、僕はいちどパリスにいかなくてはならないんだ。それはわかってね!)
リリアスは口に出したくてもだせない。
ムハンマドの反応が怖いのだ。


そして、恐れていたそれは、カルサイトがふと、立ち上がったときに起こった。

ひゅんっ。
風を切る音と共にどこかで弓が引かれた。
むかいの観客席からだ。
普通は狙えない距離だ。それを、矢はまっすぐねらいをすまして飛んでくる。
狙いはカルサイトの左胸だった。
気がついたバーライトとムハンマド。
彼らの加護の力では防ぎようがない。
カルサイトの護衛のうち一人は瞬間に剣を抜き、はたき落とそうと構えたが間に合わない。
襲撃者は矢に風の加護の力を乗せている。
咄嗟にリリアスは上昇気流を客席の自分達の前に作り上げた。
矢は押されカルサイトの左肩のすぐ上をかすめた。

その矢は砂漠の遊牧民の西のジャンバラヤ族のものだった。
リリアスは一目でわかる。
まさかと思う。
西のジャンバラヤ族はパリスの王子を暗殺する理由などなかった。

ムハンマドの対応は早かった。
ただちに出口が封鎖される。学校の門も閉じられた。ほとんどの観客や学生は気づいていない。
学園祭はこのまま何事もなかったように進行する。
リリアスはひとつのことにとらわれていた。

矢に風の力を利用したものがいる。

リリアスの知る風の加護を使える人は一人しかいない。

(まさか、バード!?)

昨日の警告も、空耳ではなかったのかもしれなかった。

カルサイト王子はその後も平然と学園祭の出し物を見続ける。女子の出し物も楽しみという。
あんなことがあっても平然としているところに、彼にとって暗殺をしかけられることが、日常茶飯事なのだと教えてくれる。

「ムハンマド、少し席をはずすよ」
リリアスは席を立った。
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