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第8話 勝負
77、勝負 剣と体術
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剣の勝負は圧倒的にルーリクが有利だった。
両手で柄を握りにぶい切っ先をルーリクに向けるユーディアの姿勢はいかにも素人である。
「前回の敗北を取り戻せ!」
ルーリクにとっては屈辱以外の何物でもないような、からかいが混ざる声援が飛ぶ。
案の定、親友のクロードはにやにや笑っている。
ルーリクは気持ちを引き締めた。
あり得ないほどの早いスピードで馬を走らせ、両手を手綱から離して、動いている標的を打つ。
並外れた動体視力と運動神経がなければできない芸当だった。
見かけは女のように細くて小さいからだではあるが、蛮族の野性味は侮れないと思う。
木刀の先をルーリクもユーディアに向け間合いをはかる。
先に仕掛けてきたのはユーディア。
大きく振りかぶって斜めに切り下ろす。
一度下がってよけたところを今度は真横から大きく振ってくる。
素人でさえもしないような、思い切りのいい大振りである。
ルーリクが攻めに転ずれば、とたんにユーディアは受け一方になる。
たった3度の打ち合いで、ユーディアの手から木刀がはじけとんだ。
ユーディアは手首を抑えて顔を痛みに歪ませた。
「よくやった!」
クロードたちはルーリクの勝利に歓声を上げるが、ルーリクはあっけない勝利に肩透かしを食らう。
たとえれば、体と心を許したはずの女が、ベッドに入る直前に気をかえルーリクを拒絶したかのようだ。
ルーリクは悪態をついた。
この一勝は、小姓からのお情けで与えられた勝利のようではないか。
ユーディアに駆け寄ったのはブルースとサン。
体にケガがないか確認している。
「ふざけるな。情けない勝負をしやがって」
ユーディアはルーリクを見て笑った。
「いつも取り澄ました貴族さまも、そんな顔できるんだね」
「なに!?」
いら立ちに任せてつかみかかろうとするが、ユーディアの前にはサンが体をねじりこみ盾になる。
ルーリクの肩をクロードが押さえた。
「おい、熱くなるな、らしくないぞ」
「くそっ。素人相手に一勝しても馬鹿にされたような気になるだけだ」
「あんただって、初めての馬上の弓術だったから同じでしょう」
ユーディアがサンの腕越しに顔を出した。
「一勝と一敗だけど、次は僕の得意の体術だから今度は負けない」
「俺も得意だ」
そして、次の勝負は体術。
ルーリクはブルースと体術の取り組みをしたことを思い出す。
ブルースの動きは常に速い。
ベルゼラの体術に沿いながら、予測を裏切る動きをする。
モルガン族の体術は、ベルゼラと違うのだ。
むしろその外しに、彼らの体術の本質があるのだろう。
「おい、大丈夫か?」
念入りに体をほぐしているルーリクにからかおうとしたクロードの手を取り頭の上にあげて引っ張りながら体の側面を伸ばす。
「本気だな」
クロードに、念入りにストレッチを初めたルーリクの意気込みが伝わった。
観戦するだけでは物足りなくなってきたほかの者たちも、体を動かしていた。道着を着るものもいる。
「今度も圧勝できるだろ。あいつは体ができていない。むしろけがをさせないように気を付けておく方がいいんじゃないか?王子のお気に入りなんだし」
実際に戦わない奴は気楽なものである。
最初の試合さえなければ、ルーリクは自分の勝利を疑うことなかった。
だが今は、慎重にならざるをえなない。
体術の勝負は、サニジンの合図ではじまった。
白い道着のルーリクに対して、ユーディアは薄青の制服のウエストを黒帯で結んでいる。
その黒帯はユーディアのものでもないのだろう。
体勢は腰が低く遠い。
対戦相手として帯を非常に取りにくい。
一息に間を詰めて、帯を掴んで足を払って横へ引き倒すか、横でなく背後の床に突き落とすか、足裏で腹を蹴って後ろへ転ばすか。
ルーリクが距離を詰めればその分だけ、後ろに逃げられた。
見えない空気の壁があるようだった。
「にらみ合わないで取り組みなさい!」
審判のサニジンから二人に指導が飛ぶ。
仕掛けたのはルーリク、ユーディアに合わせてかがみ手を伸ばして腰ベルトを掴もうとした。
体をよじられ、ベルトがつかめない。
ユーディアの足払いが残った足を狙う。
寸でのところでルーリクはすかした。
いきなり汗が噴き出した。
体格差があるからといって油断できない。
運動神経は極めていいし、足の伸びが尋常ではない。
柔軟性が高い証拠だった。
すかした足が床につくところをもう一度狙われる。
とっさに前に飛んでユーディアの低い態勢を飛び越え、一回転する。
ドン。
大きな振動が床を伝わり、ユーディアの攻撃を防ごうとしたルーリクは音がした方向に目をやった。
クロードが床に背中をうちつけていた。
対戦相手はサン。
サンは、クロードを見降ろし、呼吸を整え次の相手を探している。
両手で柄を握りにぶい切っ先をルーリクに向けるユーディアの姿勢はいかにも素人である。
「前回の敗北を取り戻せ!」
ルーリクにとっては屈辱以外の何物でもないような、からかいが混ざる声援が飛ぶ。
案の定、親友のクロードはにやにや笑っている。
ルーリクは気持ちを引き締めた。
あり得ないほどの早いスピードで馬を走らせ、両手を手綱から離して、動いている標的を打つ。
並外れた動体視力と運動神経がなければできない芸当だった。
見かけは女のように細くて小さいからだではあるが、蛮族の野性味は侮れないと思う。
木刀の先をルーリクもユーディアに向け間合いをはかる。
先に仕掛けてきたのはユーディア。
大きく振りかぶって斜めに切り下ろす。
一度下がってよけたところを今度は真横から大きく振ってくる。
素人でさえもしないような、思い切りのいい大振りである。
ルーリクが攻めに転ずれば、とたんにユーディアは受け一方になる。
たった3度の打ち合いで、ユーディアの手から木刀がはじけとんだ。
ユーディアは手首を抑えて顔を痛みに歪ませた。
「よくやった!」
クロードたちはルーリクの勝利に歓声を上げるが、ルーリクはあっけない勝利に肩透かしを食らう。
たとえれば、体と心を許したはずの女が、ベッドに入る直前に気をかえルーリクを拒絶したかのようだ。
ルーリクは悪態をついた。
この一勝は、小姓からのお情けで与えられた勝利のようではないか。
ユーディアに駆け寄ったのはブルースとサン。
体にケガがないか確認している。
「ふざけるな。情けない勝負をしやがって」
ユーディアはルーリクを見て笑った。
「いつも取り澄ました貴族さまも、そんな顔できるんだね」
「なに!?」
いら立ちに任せてつかみかかろうとするが、ユーディアの前にはサンが体をねじりこみ盾になる。
ルーリクの肩をクロードが押さえた。
「おい、熱くなるな、らしくないぞ」
「くそっ。素人相手に一勝しても馬鹿にされたような気になるだけだ」
「あんただって、初めての馬上の弓術だったから同じでしょう」
ユーディアがサンの腕越しに顔を出した。
「一勝と一敗だけど、次は僕の得意の体術だから今度は負けない」
「俺も得意だ」
そして、次の勝負は体術。
ルーリクはブルースと体術の取り組みをしたことを思い出す。
ブルースの動きは常に速い。
ベルゼラの体術に沿いながら、予測を裏切る動きをする。
モルガン族の体術は、ベルゼラと違うのだ。
むしろその外しに、彼らの体術の本質があるのだろう。
「おい、大丈夫か?」
念入りに体をほぐしているルーリクにからかおうとしたクロードの手を取り頭の上にあげて引っ張りながら体の側面を伸ばす。
「本気だな」
クロードに、念入りにストレッチを初めたルーリクの意気込みが伝わった。
観戦するだけでは物足りなくなってきたほかの者たちも、体を動かしていた。道着を着るものもいる。
「今度も圧勝できるだろ。あいつは体ができていない。むしろけがをさせないように気を付けておく方がいいんじゃないか?王子のお気に入りなんだし」
実際に戦わない奴は気楽なものである。
最初の試合さえなければ、ルーリクは自分の勝利を疑うことなかった。
だが今は、慎重にならざるをえなない。
体術の勝負は、サニジンの合図ではじまった。
白い道着のルーリクに対して、ユーディアは薄青の制服のウエストを黒帯で結んでいる。
その黒帯はユーディアのものでもないのだろう。
体勢は腰が低く遠い。
対戦相手として帯を非常に取りにくい。
一息に間を詰めて、帯を掴んで足を払って横へ引き倒すか、横でなく背後の床に突き落とすか、足裏で腹を蹴って後ろへ転ばすか。
ルーリクが距離を詰めればその分だけ、後ろに逃げられた。
見えない空気の壁があるようだった。
「にらみ合わないで取り組みなさい!」
審判のサニジンから二人に指導が飛ぶ。
仕掛けたのはルーリク、ユーディアに合わせてかがみ手を伸ばして腰ベルトを掴もうとした。
体をよじられ、ベルトがつかめない。
ユーディアの足払いが残った足を狙う。
寸でのところでルーリクはすかした。
いきなり汗が噴き出した。
体格差があるからといって油断できない。
運動神経は極めていいし、足の伸びが尋常ではない。
柔軟性が高い証拠だった。
すかした足が床につくところをもう一度狙われる。
とっさに前に飛んでユーディアの低い態勢を飛び越え、一回転する。
ドン。
大きな振動が床を伝わり、ユーディアの攻撃を防ごうとしたルーリクは音がした方向に目をやった。
クロードが床に背中をうちつけていた。
対戦相手はサン。
サンは、クロードを見降ろし、呼吸を整え次の相手を探している。
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