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第3節 バラモンの王都アルゴン

16、リリー、マッサージ師になる2

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リリーはバーライトの一番目の妻、シーラの元に呼ばれていた。
マッサージのお客さまだ。

最近は高名な師匠の弟子ということで、あちこち呼ばれるようになっている。
貴族の妻や町の裕福な商人の妻など、バーライト以外は女性専門で承ることにしていた。

バーライトも親衛隊をひとりつけるなら、と離宮から出ることを許されている。

今回は、そのバーライトの後宮からの依頼だった。
後宮だと男性は入れず、護衛はつけることはできない。

この数か月の間、護衛は結構役にたっているようだった。
リリーに声をかけようとする若者たちを見事にシャットアウトしている。
グロッシュは口にするものすべてに気を付けるのです、と念を押す。

「バーライトの妻がとうとう探りから行動に移りました。気を付けて!」

後宮にはグロッシュがつく。
一番目の妻シーラは10年前に結婚したという。
甘色の髪と胸が豊かな美人だった。

「あなたが、バーライトの専属のお上手なマッサージ師さん?
かわいらしいのね!」
マッサージの依頼だった。

リリーはどきまぎする。

シーラの妖艶な美しさもあるが、そんなに頻繁ではないが、リリーもバーライトと情を交わすこともあるので、罪悪感を感じながらも、こんな美人な妻がありながら、へちゃむくれな自分を相手にするなんて!と少し腹が立つ。

三人の妻に自分、多すぎではないか??

シーラは言われるまま横になる。
リリーは道具を使わずマッサージする。
丁寧に体の声を、サインを読みながら、滞りをほどいていくのだ。
シーラの内腿から、冷たい冷気を感じる。

(子宮から冷気が??)

「シーラさま、お腹が冷えていますね。冷たいものなどお好きですか?」

「最近熱くて。シャーベットは毎日たべてますよ」

足を終えて、お腹に移る。
へそを中心にほぐし、充分ほぐれると、下腹も念入りにマッサージする。
しばらくすると、冷たく強張っていたお腹も少しほぐれたようだった。

「毎日、お湯に使って体をあたためるとよいですよ。シーラさまはご自分が感じているほど、体は熱くありません。
むしろ冷たいです。心と体をあたためると、お子はできますよ」

「なんですって!?」
シーラは仰天した。

彼女の悩みはまさしくそれだった。
政略結婚とはいえ、結婚して10年。
女も盛りで、最近は少なくなったとはいえ、定期的に渡りはある。
それなのに子ができない。
深刻な悩みで、様々な薬を試してはいたのだった。

「お湯につかるのね!わかったわ。
すっかり体が楽になったわ。バーライトが気に入るのもわかるわ。
また明日もきて」

翌日リリーは、マッサージにハーブをぎゅっと凝縮させてボール状にしたハーブボールを温めて、シーラのお腹を中心にマッサージする。

大変気持ちよく、そのハーブボールを使ったマッサージはシーラのお気にいりになった。

そして、体質が改善されたのかシーラはほどなくして懐妊したのだった。
待望のバーライトの息子が生まれることになる。

シーラはリリーのバーライト以外の最大の庇護者になる。
リリーとバーライトの関係は不問になった。


黒髪のマッサージ師の評判は急速にアルゴン中に広まっていったのだった。

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