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楊 飛龍
#5
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進んだ先にあった世界は、命の価値が対等に扱われることのない魔都だった。
ボンヤリとした暖色の照明が取り付けられた天井、間口の見た目以上に広い室内、展示される奴隷の奥に見える立派な螺旋階段──。その全てが異様でありながら、それをものともしないゲスト達は、思い思いに悪趣味なイベントを楽しんでいた。
「……空気が淀んでいやがる」
早々に会場の全てを鼻で笑った俺が吐き捨てるように皮肉ると、ランクを振り分けられた商品達が縋るように媚びた目付きで俺らを求める。
「チッ……」
舌打ちがほぼ無意識に出るほど機嫌が悪い俺は、その全てに対して平等に冷たい視線を投げ返す。コイツらからしても新しい主人選びは自身の人生に関わる大事なイベントだろうが、残念ながら人に従わされるだけの無能な連中に興味は無い。
「Aランクは観賞用、Bは雑用、Cから下はまとめ売りしてこのお値段……やっぱり人口が世界一の国だけあって、此処らの人身売買とはスケールが違うね」
手枷足枷首枷……と3つの首を鎖に繋がれた奴隷達は、楽しそうに見て回る未来の飼い主に恐怖が滲んだ表情でもてなす。
「掃いて捨てるほどの価値って事だろ……そういえばマーク、プラを用意したのも江華貿易商だったよな?」
「記録ではそうなっているよ」
「……ソイツもこうやって売られていたのか?」
「それは……どうだろう」
──『『プラ』は僕が5歳の頃にやってきた、たったひとりのお友達だった。同い年で、明るくって、優しいお友達』
決して衛生的とは言えない密度で押し込まれた商品を睨みながら、俺はアリーシャが語ったプラの評価を思い浮かべる。いくら可愛い天使の代わりとは言え、こんな場所で売られては買われた先で無残な散り方をした影武者は、一体どんな気持ちで門扉から俺らを見下していたのだろうか──?
思考の海に沈み掛ける俺に「アラン?」と眉を顰めて耳打ちしたマークは、心配そうな表情で新緑の瞳を覗かせる。
「あぁ、何でもない」
深く酸素を吸ってから逃すように息を零すと、突然会場の照明が落とされた。僅かな光も許さないその暗闇は、目の前に立てた指の輪郭すら捉えることができないほど深い。
「えぇ、お集まりの皆様……我が江華貿易商の感謝祭にお越し頂き、誠にありがとう御座います」
さっきまで身を潜めるように光を閉ざしていたスポットライトが一斉に螺旋階段を照らし、皆の視線はその他の選択を許すことなくその一点に絞られる。悠々とした足取りで階段を下りる男は、毒蛇みたいな髪をゆったりと揺らして細い瞳のままで微笑む。
「我々の人生は、素晴らしいものだ。もしこの人生を生き抜き、逃げ切ることができるのなら、それは本当に素晴らしい!……しかし、その人生とはとてもとても予測不可能なもの──台無しにする方法を私はいくらでも知っている」
穴が空くほどこの目に焼き付けた写真と全く一緒の旗袍に、つばの広い竹帽子。流暢な英語を垂れ流す低く穏やかな声は、耳心地のいい速度で絶対的な権力を主張した。
「長い話とはなりましたが、遅ればせながら自己紹介を──江華貿易商の現社長、楊 飛龍と申します……以後お見知り置きを」
ボンヤリとした暖色の照明が取り付けられた天井、間口の見た目以上に広い室内、展示される奴隷の奥に見える立派な螺旋階段──。その全てが異様でありながら、それをものともしないゲスト達は、思い思いに悪趣味なイベントを楽しんでいた。
「……空気が淀んでいやがる」
早々に会場の全てを鼻で笑った俺が吐き捨てるように皮肉ると、ランクを振り分けられた商品達が縋るように媚びた目付きで俺らを求める。
「チッ……」
舌打ちがほぼ無意識に出るほど機嫌が悪い俺は、その全てに対して平等に冷たい視線を投げ返す。コイツらからしても新しい主人選びは自身の人生に関わる大事なイベントだろうが、残念ながら人に従わされるだけの無能な連中に興味は無い。
「Aランクは観賞用、Bは雑用、Cから下はまとめ売りしてこのお値段……やっぱり人口が世界一の国だけあって、此処らの人身売買とはスケールが違うね」
手枷足枷首枷……と3つの首を鎖に繋がれた奴隷達は、楽しそうに見て回る未来の飼い主に恐怖が滲んだ表情でもてなす。
「掃いて捨てるほどの価値って事だろ……そういえばマーク、プラを用意したのも江華貿易商だったよな?」
「記録ではそうなっているよ」
「……ソイツもこうやって売られていたのか?」
「それは……どうだろう」
──『『プラ』は僕が5歳の頃にやってきた、たったひとりのお友達だった。同い年で、明るくって、優しいお友達』
決して衛生的とは言えない密度で押し込まれた商品を睨みながら、俺はアリーシャが語ったプラの評価を思い浮かべる。いくら可愛い天使の代わりとは言え、こんな場所で売られては買われた先で無残な散り方をした影武者は、一体どんな気持ちで門扉から俺らを見下していたのだろうか──?
思考の海に沈み掛ける俺に「アラン?」と眉を顰めて耳打ちしたマークは、心配そうな表情で新緑の瞳を覗かせる。
「あぁ、何でもない」
深く酸素を吸ってから逃すように息を零すと、突然会場の照明が落とされた。僅かな光も許さないその暗闇は、目の前に立てた指の輪郭すら捉えることができないほど深い。
「えぇ、お集まりの皆様……我が江華貿易商の感謝祭にお越し頂き、誠にありがとう御座います」
さっきまで身を潜めるように光を閉ざしていたスポットライトが一斉に螺旋階段を照らし、皆の視線はその他の選択を許すことなくその一点に絞られる。悠々とした足取りで階段を下りる男は、毒蛇みたいな髪をゆったりと揺らして細い瞳のままで微笑む。
「我々の人生は、素晴らしいものだ。もしこの人生を生き抜き、逃げ切ることができるのなら、それは本当に素晴らしい!……しかし、その人生とはとてもとても予測不可能なもの──台無しにする方法を私はいくらでも知っている」
穴が空くほどこの目に焼き付けた写真と全く一緒の旗袍に、つばの広い竹帽子。流暢な英語を垂れ流す低く穏やかな声は、耳心地のいい速度で絶対的な権力を主張した。
「長い話とはなりましたが、遅ればせながら自己紹介を──江華貿易商の現社長、楊 飛龍と申します……以後お見知り置きを」
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