プラの葬列

山田

文字の大きさ
45 / 51
マーク・オースティン

──1──#1

しおりを挟む
  マークの助けを借りて自宅のリビングに到着すると、時計の針は22時を軽々と通り過ぎていた。

  暫く休みに入った暖炉の煤を見つめる俺の散々な傷跡と打撲痕を目の当たりにしたジャックは、「お前なぁ……」と眉間に皺を寄せて俺を見つめる。

「手掛かりの代償だ。コレのお陰で色々と収穫があった」
「ふざけるな!こっちはアランが喧嘩を吹っ掛けたと聞いた時から気が気じゃ無かったって言うのに……もっと周りことを考えて行動しろ!!」

  完全に頭に血が昇っている彼は俺の話に聞く耳を持たず、荒々しく怒りを零す。あまりにも珍しい光景にポカンと眺める事しかできない俺は、勢いに押されるように「……悪かった」と謝罪の言葉を述べた。

「ジャックさん、落ち着いて……ほら、アランもちゃんと謝ってることですし」

  仲裁に入ろうと声を上げたマークは俺とジャックの間に割り込んで立ち塞がると、怒りが冷めやらぬチンピラ眼鏡は、「お前もだ、マーク」と声を震わせる。

「そもそも、何故このイベントにアランだけで行かせなかったと思う?こうやって大事を起こすのを防ぐためだ。だからブレーキ役としてマークを付き添わせた筈なのに……。俺だけなら良いさ、実際。勿論2人を心配はしていたが、それなりに帰ってくるだろうと信じていたしね。ただ──」

  立て板に水とでも言うべきが、ツラツラと流れるような御高説を垂れたジャックの言葉が段々と弱まってゆく。

「ただ……ヘンリーの耳に入って睨まれた以上、流石の僕も手出しはできない。彼はグレイファミリーの心臓であり、意思であり、絶対的な存在──彼の決めた事を止めるられる人間などどこにもいない」

  今にも泣きそうな顔で眉を下げて俺を睨む彼はギリリ……ッと唇を噛み締め、「ましてや部外者の僕にしてやれる事は何もないんだ……」と空気に溶け入るような言葉を漏らす。事の深刻さが身を突き刺すような空気を孕み、冗談のひとつやふたつを返す気にもならない俺らは、静まり返ったリビングのソファに腰を据える。

「……で、父はなんて?」
「『アランが帰ったら書斎へ来るように』、と」
「キツイ説教になりそうだな」
「当たり前だろ……さっき書斎に行く時は『ヴァルプルギスの夜に相応しい夕食が~』とかなんとかって言っていたけれど」

  一段と大きく溜息を吐いたジャックの表情は我が子を想う親そのもので、子供の頃から俺やマークを知っている彼は苦々しく言葉を閉ざした。

「夕食……ねぇ。嫌な予感が当たらないと良いけどな」

  いつかペネロペの爺さんに貰った解毒剤の包み紙を静かにポケットの中で握った俺は、杞憂とは思いつつも最悪の可能性を想像する。

「僕もボスの所へ行くよ。会場に同行したのは僕だけだし……それに、アランが暴走するキッカケを作ってしまったからね」

  申し訳なさそうに拳を握ったマークがジャックと俺へ視線を投げ掛けると、額に手を添えたジャックはうーん……と唸りながら「力になってやれなくてすまない」と強く瞼を閉じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...