プラの葬列

山田

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マーク・オースティン

#7

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「や、やめろ……ッ!!!」

  勢いよく上体を起こすと、そこは見慣れた俺の部屋だった。開かれた窓からは優しい日差しが差し込み、俺の様子に驚いたマークが「アラン?」と振り返る。

「……これも、夢か?」

  生々しい幻覚のお陰で夢と現実の境目が分からなくなった俺は、「どうだろうね」と笑うマークを人差し指で呼ぶ。不思議そうに俺に近寄るマークの鳩尾を目掛けて軽く拳を繰り出すと、驚きと痛みで声にもならない彼はご自慢の金髪を大きく揺らした。

「……な、なんのつもりだい」
「夢か現実か分からない時は、痛みの感覚で分別をつけるらしい」

  当たり前のように言い放った俺を恨めしそうに睨んだマークは、「だったら自分のことを殴ればいいじゃないか……」と呆れたように抗議する。

「そう本気にするなよ、ただ戯れただけだろ?」

  鉛のように重たい体をほぐすように大きく背伸びをした俺の肩がボキボキ……ッと音を立てると、夢から醒めた現実であることに安堵した俺はそのままもう一度ベットに倒れた。

「なぁマーク……父はどうなった?」

  部屋の白い天井を見上げながら呟いた俺は、記憶に無い『その後』について尋ねる。聞きたいかと訊かれれば聞きたくないが、今後の組織の方針を考える上では聞かざるを得ない。

「……出血多量による瀕死の重傷で闇医者お知り合いに救急搬送、一命は取り留めたようだけれど、復帰するのはかなり難しそうだね」

  やれやれと首を振る彼は痛みに曲げていた背筋を正して俺のベットに腰掛けると、「今後はどうなされるおつもりで?」と俯く。

「どうするもこうするも、ボスが不在なら次席アンダーボスが代行するしかないだろ……相談役コンシリエーレ様?」

  うわ言みたいに力のない軽口は、陽光に溶け入るように宙を舞う。いつか来るはずの未来を手繰り寄せた俺は、夢の中でプラが残した警告を思い出す。

──『お前は掌で踊るだけ……失いたくないのなら、もう進んではいけない』

  背中を押しているのか足を引き留めているのかも分からないその声は、俺の中で立ち込めた煙のように濛々と渦を巻く。もしも俺が父に手を掛ける事すら計画済みと言うなら、その先に待つ絶望とは一体何を指すのだろう?

「だね……。たとえアランがそう言わなくても、僕とジャックさんの見解は一致している。否が応でも、ちゃんと責任を取ってもらうつもりだったよ」

  サラリと当たり前のように笑うマークの真似をして笑い返す俺は、「怖い世界だな」と皮肉を述べる。

「そこのボスになった男が今更何を……冗談は顔だけでよしてくれ」

  肩を竦めながら口元を緩める彼は新緑の瞳を伏せて俯くと、「ボスには申し訳ないけれど、今回の事は『病気』として幹部カポ以下には伝達してある」と小さく呟く。

「案外切り替えが早いな。半狂乱にでもなるかと思った」
「別に今の僕が冷静な訳じゃないよ……ただ、今後の事を考えて最善策を出しただけで──それに、今回は共犯としても片棒を担いでいるからね」

  悪戯っぽく言葉を溶かした彼は、俺と目を合わせないまま「アランだけのせいじゃない」と瞼を閉じる。

──『僕はアリーシャであってアリーシャではない。そして、アリーシャも僕であって僕ではない──全てを捨てた先なら、きっと本当の僕らに会えるよ』
  
  鼓膜に染み付いたプラの言葉のその先に待つ真実がどれだけのものか──それを理解するにはまだ浅く、海の水面を掬うようなものであっても。

  俺は。

  俺は、俺を信じてくれる奴を決して裏切ったりはしない。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

二位関りをん

初めまして。タグから参りました。お気に入り登録もさせて頂きました。
ミステリーという事で今後の展開が楽しみです…!
執筆活動頑張ってください!

2023.12.01 山田

ご丁寧にありがとう御座いますぅ。゚(゚´Д`゚)゚。

共々頑張って参りましょう✨

解除

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