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4話:夢子の東京・橫浜見物

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 10時半、新潟発の列車に乗って座席について彼女の言動、行動が気になって仕方がなかった。そうしているうち、電車の心地よい振動で寝てしまった。起きると高崎に到着する前で2時間以上寝た。上野駅から山手線と中央線で自宅へ帰った。

 そして翌日から現実的な仕事の日々が続いた。それでも山の仲間の営業の山田君や佐藤君の様な厳しいノルマがあるわけでもなく計算さえ間違わなければ給料、ボーナスをもらえ毎日、定時に入行して帰る退屈な毎日が続いた。

 そして1974年4月12日、竹下夢子さんから来週、東京へ行きたいと電話が入り、いつ来るのか聞くと土曜、日曜と言うので了解した。丁度、この週は土曜日、朝から翌週の火曜日まで両親が旅行へ出かけて留守。そこで自分の使っている離れに彼女を泊める事にした。

 その話をすると
「宿をどうするか相談しようと思っていたので良かったと喜んでくれた」。1974年4月18日、土曜の昼12時上野駅の上越線改札出口を出ないで待っているよう伝えた。

 土曜、有給休暇を取り出迎えた。すると彼女が心配そうに安田の来るのを待っていた。安田を見つけると、
「安田さんと大きな声を上げ手を上げて答えると喜んだ」。
「改札を出るなり抱き付いてきたので恥ずかしいよと言うと直ぐ離してくれた」。まず上野駅構内のレストランで食事をして上野動物園のパンダを見てから銀座をぶらつこうと提案。

レストランで朝食を待つ間、
「彼女が東京はやはり、人が多いねと驚き、これで、よく息が詰まらないね」と言った。
「その時、彼女に、パンダ見たいかと聞くと、そうでもない」と言い、動物園は今ひとつと言った。そこで
「銀座はと聞くと行きたいと言い、その他はと聞くと渋谷、新宿というので了解した」。昼食後、有楽町で下りて銀座松屋を見た。

「最初デパート入って、素敵、きれいなドレスとか言っていた」。しかし人が多いので、もういいと言い1時間足らずでデパートから出た。そこから山手線で
「渋谷へ行くと若者が多い町ねと言いテレビで見たより、狭くて小さい町だねと語った」。
「渋谷東急百貨店に入ってみたが、やはり人混みに負けて直ぐ出て来た」。

 次に新宿に行き小田急デパートをみて回ったが少し見てもういいと言った。少し疲れたろうと言うとうなづいた。「そこで少し休憩しようと誘うと歩いて入るのと聞くので、そうだよと言うと驚いた」。東京周辺の宿は駐車場がついていないんだと伝えた。仕方ないと言い歩いて素敵な宿に入ると高そうなホテルみたいねと言った。入ると、
「豪華な内装に驚いて、新潟には、こんな素敵なホテルない」と言った。

 買ってきたワインとつまみを出して乾杯してシャワーを浴びて、久しぶりの逢瀬をしっかりと楽しんだ。その後、新潟での、その後の夢子の生活、仕事の話を聞くと堰を切ったように話し出した。そしてチェックアウトして新宿から中央線で20分、国立駅についた。

 そこからタクシーで5分で安田の家に到着。
「わー、すごい、新潟の農家みたいに広いねと驚いた」。
「離れに行くと、ここを1人で使ってるのと聞かれ、そうだよと答えると、良い、ご身分ですね」と笑った。
2人で風呂に入って温まり布団に入ると、若い安田は復活し、また逢瀬を楽しんだ。
「終わると彼女があんた、ほんとに好きねと笑った」。

 布団を2つ敷いて、その後の彼女の身の上話を聞かされた。彼女は叔母さん家に住み食堂とスナックで仕事をして月岡温泉で人手が足らない時、芸者、コンパニオンのアルバイトをしているようだ。
「でも、将来、都会に住みたいと考えて、少しずつお金を貯め始めてるのよと言った」。翌朝8時に起きて朝食をとり帰りの予定を聞くと帰りが21時40分の夜行列車で新潟に帰ると話した。

 今日は、横浜に行きたいと言うので国立駅から中央線快速で新宿。そこから山手線で渋谷で東横線特急に乗り換え桜木町。駅前からバスに乗り換えマリンタワー、氷川丸、山下公園を散歩し、横浜港を見て歩いた。
「夢子が東京に比べ、ゆったりとしていて、こっちの方が好きと言い山下公園から海の景色を眺めた」。

 昼食は横浜中華街へ誘い
「同発菜館に入りランチを注文。料理は見た目も美しくを美味しくいただいた」。その後、
「元町で土産用のおしゃれ小物を買い、ポンパドールで土産用に菓子パンを買った」。
「夢子が、元町ってテレビで見たけれど本当に素敵な所ねと言い、また連れてきてと言った」。

 最後に坂道を上がった所にある外人墓地を散策。海の見える丘公園からの景色を見て素敵を連発した。その後、徒歩15分で石川町駅へ電車に乗り横浜駅を経由し上野についた。ラーメン屋に入り夕食をとり、どっかでゆっくりするかと言い近くの喫茶店に入り21時40分の夜汽車を待った。

 喫茶店で夢子さんに将来どうしたいのか聞くと、まず、何とかして新潟の田舎から出てで暮らしたい。何をして生活をするのかと聞くと料理が得意だからレストランで働きたいと言った。

 それに対し安田が飲食業なんて労働時間が長く給料が安い。ましてやアパートも高くてとてもじゃないけど生活していけないと現実的な話をした。それに第一、俺自身も東京のあくせくした雰囲気にはついて行くのが大変で田舎から出て来て、すぐこの雰囲気には、ついていけないと伝えた。すると彼女が横浜はどうなのと聞くと情報が無いからよく知らないが、家賃は高いと思うよと言った。

 ただ言えるのは真っ当に就職活動をして「正規社員として世の中に出ないと都会では金がかかるのでやっていけない」と言った。それに対し「彼女は地方の商業高校出身の私には正規に大企業に入れるわけないと泣いた」。「でも絶対に田舎で無駄に年をとっていくのは嫌だと、きっぱりと言い切った」。「興奮して涙を浮かべていたが少し落ち着いて安田にじゃー結婚してくれる」と聞いたのには驚いた。「そんなに、急に言われても、俺自身、高卒で地元の銀行に勤めるしがない銀行員であり、そんなに金もない」。「第一、急いで結婚する気にもなれないと言った」。

 すると、
「私のこと嫌いなんだと彼女が泣き出した」。
「いや違う、好きだよ、でも好き嫌いと結婚するしないとは本質的に違うんだ」と言った。
「結婚するという事は奥さん、生まれてくるだろう子供に責任を負う義務があるんだ」。
「その義務を果たせるかと問われれば自信がないと小さな声で話した」。

 彼女が、
「私、頭の悪いから難しい話は良くわからないけど田舎から出たい」。
「近いうちに、きっと出てくると思うと言い」、
「その時には相談にのってと言ったので、相談にはのるけど、結婚できるかどうかは、わかんないよ」と言うと、「それでも良い都会に出て困った時に助けてくれればそれで良い」と強がって言った。安田が
「できるだけ協力すると約束し、夢子さんが、あー良かったと言い、ほっとした笑顔に変わった」。

 すると、さっきまでの
「泣き顔から一変し新潟に帰って頑張って金を貯めて近いうちに首都圏に出てくる」。その時、
「相談にのってくれるわねと聞くと絶対に約束する」と答えた。すると
「指切りげんまんをさせられ、指切ったと言うと、これで、安心した」と話して改札口を抜け足早に階段を昇った。「また来るから宜しくねーと笑顔で、去って行った」。
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