上 下
3 / 32

2話:加藤の隠居と竜二が、小判を見つける

しおりを挟む
 すると、彼が、僕は、戦後の混乱期、結核に罹り、東京の大学をやむなく中退。その後、東京の実家にも居づらくなり父に少しの金をもらった。そして、今、相模湖の近くの藤野と言う所で隠居生活をしていると語った。

 藤野のアトリエで、絵を買いたり、笛を吹いたり、勉強や、絵画、音楽を教えて慎ましく暮らしていると話した。竜二が、東京の学校って、どこと聞くと、東京帝大だと話した。

 そこで。竜二が、日本で一番、頭良い人が集まる大学だろと聞くと、そう言われてるらしいねと笑った。どこに、住んでるか紙に描いてくれ、暇な時、遊びに来なさいと言った。

 その時、竜二は、彼の横笛の音が頭から離れなくなり彼の家を訪ねてみたくなった。別れ際に、きっと遊びに行くよと言うと、彼が、待ってるよと言ってくれた。

 その後、川尻の集落で一番裕福な農家の倉庫の土壁が剥げ落ちて困るから、修理してくれと、1966年4月15日に竜二に、連絡が入り、その倉庫を見に行った。

 既に、広範囲に、壁が、剥げ落ちていて、修理に数日かかる。そのため離れの部屋に泊まり込みで修理することになった。最初にボロボロの場所を全部、そぎ落とす作業を始めて、2日かけて終わらせた。

 次に修理用の土を一輪車で運んで、木枠の大きな箱に土と藁を混ぜ、それに水を足して練って粘り気のある修理用の粘土を作った。倉庫の奥の方から、それを少しずつ壁に、塗りつけていた。

 その時、予期せぬ出来事が起きた。なんと足の下の地面が動いた様な気がしたのだ。気のせいだと思い、仕事を再開すると、倉庫の床の土が割れて、土がはげ、何か板のような物が見えた。

 おそるおそる、その板をどけてみると麻袋が見えて、引き上げようとした。しかし、とても重くて持ち上がらない。気になってナイフで布袋を破ると、数枚の頑丈な麻袋に包まれてた。

 さらに、切り開いていくと、真っ黒いが楕円形で、まるで小判型の小さい割に重い金属板が入っていた。2枚、取り出して見ると、真っ黒だった。そこで1枚だけポケットに入れて、水道の所へ行き水でよく洗うと古い金色に輝く小判が出て来た。

 気になり、しっかり、洗うと、その金色の輝きは、素晴らしく、ひょっとして本物の純金の小判ではないかと、心がときめいた。そこで、この仕事を終えるまでに、全部を取り出して、どっかに隠そうと考えた。

 そして、その場所の上に木の長方形の練るための土がいっぱい入った重たいタライを置いた。その夜、寝静まってから、実家に帰る振りをして、小判のような物を別の場所に移そうと考えた。

 その晩、夜10時過ぎ、倉庫にある小さな麻袋全部を運び出し実家の裏山の秘密の場所に移動した。その後、小石とがっちりと入れて、修理用に粘土でがっちり固めてから、上に庭の土をかぶせ、他の場所と見分けがつかない様にした。

 そうして10日間をかけて広範囲の土壁を修理すると、その家の主人がご苦労さんと言い、手間賃1万円を支払った。そして、あの小判、本物かどうか、どうやって調べたら良いか、迷っていた。

 その時、横笛のお兄さんの事を思い出し、あの人なら頭良さそうだし信用できそうだから聞いて見ようと思いついた。数日後、1枚の小判を持って、川尻からバイクで30分かけて、藤野の加藤優造の家へ行った。

 着いて、すぐ、小判を見せると、本物の小判の様だねと言った。多分、本物だろうと言い。もし貸してくれるなら、いくらで売れるか調べてあげようかと聞いた。もし、調べてくれたら大助かりだと竜二が答えた。

 すると加藤優造が、なぜ、俺がネコババしないと、信じるのかと聞くと、自分の住所まで地図を書いてくれた人を信じるのは当たり前だろと告げた。そーか、信じてくれるのかと笑いながら言った。

 来週、東京へ行く用事があるから、その時、銀座の金の業者の所へ行って、詳しく、聞いてくるよと言ってくれた。すると竜二が、売れるのがわかったら売った金で、電車賃は払うよと述べた。それを見て、お前は、律儀で良い男だと肩をたたいた。
しおりを挟む

処理中です...