1 / 7
1
しおりを挟む夜。そして雨。
行くあてなど何もない。
僕は路地裏で突っ伏した。雨に濡れた服が体温を奪っていく。
「こりゃあ死んじゃうな」
そう呟いて、今度は道の隅っこに寄って寝っ転がった。
「だれかみつけて」
懇願だった。しかし、これで諦めがつくだろうとも思っていたのだった。
結果から言えばこの願いは叶ってしまった。
街で話が絶えない連続殺人鬼と言う奴によって。
僕はこの人をよく知らない。
街の噂はあてにならないと思っていたが、特徴は噂と一緒だった。深くまでパーカーのフードを被った人だった。
「んだお前」
その声は男の者だった。
僕はまじまじとその人を見た。夜目が効いているとはいえ、フードの中は真っ暗だった。
こんな路地裏で会うなんて。
いや、こんな路地裏だからこそだろうか。
「あなたこそ誰?」
僕はその人の質問に答えず、同じように問うた。
その人は黙ったままだった。
黙ったまま雨の中寝っ転がる僕を見下ろしている。
僕も見つめた。目が合っているのかは分からないけど。
「死ぬのか」
その人は言った。ポツリと。細々としていた。
いや、僕が言ったのかもしれない。
だってその人の声とは違っていたから。
僕ってこんな声だったっけな。
「死にたいのか」
今度は低い、低い声だった。その人の声だった。
冷たかった体が、熱くなってきたような気がした。これはきっと殺人鬼によって命を絶えさせられるかもしれないという恐怖からだろうか。
僕には分からなかった。分かりたくも無かった。
考えたくもないやと思うが、その思考を停止させた。
そして今度は別のことを一考する。
どうなんだろう。
僕は死にたいのだろうか。
この謎めいた人は一向に僕から離れる気も無さそうだった。暫くその人の方を見つめていたが、その人はただ答えを待っているかのように動かなかった。
「死にたいって言ったらどうするの」
僕はこの人との会話が成り立っていない事に気付いた。
だが訂正する気も起きなかった。
ずっとこのままでいいと思った。
それでいてこの雨が気持ちいいとさえ思っていた。
今までは雨は鬱陶しいものと思っていたのに。
「そうだな、今すぐに──」
僕はその人の答えを待っていようとしたが、これで終わりのようだった。
仕方ないと言い聞かせる。
もう少し話していたかった気もする。
けど少し寒すぎた。
お腹も空いた。
喉も渇いて仕方がない。
大通りは多分きっと、こんな雨の夜でもキラキラして眩しいんだろう。僕を消すように。
「ちょっと眠い」
僕はその人の答えを聞かずにそう言って眠る事にした。
今まで我儘なんて言わなかったんだから、一度くらい我儘言っていいよね。知らない、全く知らない赤の他人だし。
あぁもう寝ちゃえ。
お休みだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※AIイラスト使用
※「なろう」にも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる