殺人鬼と僕。

横トルネード

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結局僕は聞けなかった。『あなたは殺人鬼か』と。
少なくとも今の段階では不必要だろうと思ったからということにする。


男はその後、昨日の服を洗濯しておいたからと食器を片したついでに持ってきてくれた。出かけるから服を着ろと言ったので、僕は普通に今着てる服で十分だと答えると、男は呆れたような顔をして、下着も着ず男物の服一枚で外に出たら痴女だろうと言われて納得したのだった。

「何処に行くの?」

男の家に来る(というか連れてこられたと言うか…)前に着ていた服を着て、僕は男に問いかけた。男は「C区に行く」と言って、そして付け足すように「で、ここはD区」と言って現在地を教えてくれた。

家を出て、僕は男の後ろを追うようにして歩く。男は僕のその姿に見兼ねて、「後ろの心配が面倒だ」と言って僕を抱き上げ、そのまま歩き出した。…重くないのだろうか。確かに180センチは優に超える男で筋肉はしっかりとついているようで、僕を持ち上げた腕の質感から分かった。
僕は上半身を男に預け、心地よく揺れていた。

男の歩くスピードは早く、あっという間にC区の大通りに着いた。

「何するの?」
と、初めての店にそわそわしながら僕が問いかけると、男は一瞬僕の方を見た。

「お前の服を買う。1着だけだと着回しができん」

僕は男の発言に”?“が頭上に飛んだが、今は周りに人も多いので色々聞くのはC区での用事が終わってからにしようと決めた。

C区でも一番の大通りらしく、道の両脇には色々な店が立ち並び、人々が絶えず賑わっている。勿論一般階級の人が主に占めていた、ちらほらD級のような出で立ちの人が見える。前述した通り男は背が高いので、それに抱えられている僕は遠くを見渡すことができた。

男が入ったのは洒落た装飾品が多く並ぶ店だった。ある女性店員が男を見て手をあげて近づいて来た。

「あらどうしたのよ、サムじゃない」

「適当にこの子を見繕ってもらいに来た」

どうやら二人は知り合いらしかった。そして、男はサムと言うのかとはじめて知った。
女店員は僕をまじまじと見てそして微笑んだ。僕も微笑み返すと、女店員は男を見てニヤニヤとして言った。

「まさかサムの娘?えらいべっぴんさんだこと」

「そんな所だ。よろしく頼む」


男の方を見ると無表情かと思いきや微笑みを浮かべており、僕は鼓動が早まるのを不思議と感じた。
男は僕を下ろし、女店員が僕の手を取って店の奥、洋服コーナーに連れて行く。男はその辺の装飾品を見ているようだった。

「そうねぇ~ワンピースとかどうかしら。着るのが楽だし可愛いし」

と言ってた女店員は僕の前に何着か合わせて呟いた。

「好きな色はある?参考までに」

僕はふるふると首を横に振った。女店員は
「じゃあ紺あたりがいいかしら」
と言って、シンプルなデザインのワンピースを取り出した。ウエストの部分でキュッと結べる紐がついており、裾は眺めで膝下まで隠れるような長さで、好印象だった。

「試着してみる?」

僕の方をじっとみてそう提案した。僕が頷くと、すぐそばの試着室に案内される。素早く着替えて、正面の鏡を見る。サイズはあっているようだ。ただ似合うのかどうかは僕にはセンスが無いようで、分からなかった。

「着れた?」

女店員ではなく男の声がして僕はびっくりして、すぐに試着室から顔を出した。
そこを女店員がやってきてガバッと試着室の仕切を取ったので僕のワンピース姿が露わになる。

しばらく経っても男も女店員も何も言わないので、僕がどこかおかしいのかと思って元の服に着替えようとすると男が止めた。

「いや、着替えなくていい。買う」

その後女店員に勧められたものを何着か買って店を後にしたのだった。





続いてやってきたのは大通り沿いの料理店だった。喫茶店と言うらしい、その独特な雰囲気に胸が震えた。
僕と男は窓際のテーブル席に向かい合って座る。僕はオムライスを頼み、男はサンドイッチを頼んでいた。もしかしたら男はサンドイッチが好きなのかもしれない。

男は運ばれたものをすぐに平らげ、びっくりしながらもオムライスを食べた。男はため息をついて立ち上がる。

「ゆっくり食え。すぐに戻る」

そう言って男は店の奥に向かっていった。
トイレかな?と思ってそのままオムライスに向かう。
初めて食べたがとても美味しい。黄色いのに覆われた中は真っ赤でびっくりしたが男曰くそういうものらしい。
美味しいのでそれ以上は考えないことにする。

窓からは人々がこの大通りを移動しているのが見える。
若干ではあるが、子供のはしゃいているような声も聞こえない事はない。


楽しそう。


僕はそんな事を思った自分に少し驚いたが、満腹になったので食事をやめて目を閉じた。


数年前。
僕はE区のゴミ溜に居た。生きるか死ぬかの世界。
D区は金という概念があるためまだマシな方だと思う。

正直今現在こうやってC区で食事や買い物なんて思っても見なかった。
全てが初めてで、ただ嬉しいと思う。

ゴミ溜から救い出した(当時はそう思っていた)のは、とある商品を専門に扱う商人だった。察したかもしれないが、とある商品とは金がない最下層の人間のことだ。

僕を商品として上位の人間に売るため、商人は僕を矯正した。所謂性奴隷というやつだ。体の動かし方、舌の使い方など、殴られながら扱かれ、ユンホ家に売られたのだ。


なにやら外が騒がしい。僕は追想に耽るのをやめ、目を開け窓の外を見た。
人の流れが止まっている。どうしたのだろうか。
するとタイミングよく男が戻ってくる。


「帰ろう」


僕は頷いて、店を後にした。





────────


予約していたはずが…。
申し訳ありません<(_ _)>
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