ミソフォニアで苦しい話

世万江生紬

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1月2日

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 元日から1日経って、私は母方の祖母の家に来ていました。毎年1月2日は祖母の家で高級なお肉を使ってすき焼きをするのです。とても良いお肉を、とても美味しいすき焼きなして食べる。私はこの日がとても好きでした。
でも今年は、とても憂鬱でした。

 すき焼きを食べると言っても晩御飯の話なので、日中はゆっくりとしていました。ソファで折り紙なんかをして過ごしていた私ですが、すぐ近くにいた母親の酷い咳が癇に障りました。というのも、私の母は約2週間ほど前に例の感染症にかかっており、その後遺症で咳が出ていたのです。
分かってはいます、母は悪くない。水分取ってのど飴舐めて加湿器炊いて、出来ることはやって咳が出ているんです。仕方ない。母方の祖母の家なので、祖母も母を心配していました。でも私は、そんなこと関係ないんです。どんな理由であろうが咳がうるさくて、不快に感じるのは事実なんです。だから

「うるさーい」

声に出ました。出来るだけ軽く、明るいトーンで。しかしそれに答えたのは祖母でした。

「ちょっと。後遺症で咳出てるんだから仕方ないでしょ。そんな言い方しないの。ママだって辛いんだよ?」

正しいです。私が悪者でしょうね。出したくて咳だしてる訳じゃないんですから。でも、この時は本当に咳が酷くて、私も我慢の限界でした。

「咳が仕方ないって言うならこっちだって耳の病気なんだから仕方ないよ。相性が悪いの。」

出来るだけ軽く、ちょっと言い返す程度に、打ち明けてみました。母方の祖母は割と話の通じるタイプだと思ったからです。

「耳?何の病気?」

「ミソフオニアってやつ。音嫌悪症。特定の音がはちゃめちゃに不快に感じる病気。」

「はぁ。それってテレビの音とかは?」

「それは平気かな。咳くしゃみ欠伸咀嚼音とか、生理的な音が不快かも。」

「へぇー。なんか都合の良い耳だね。」

都合の良い耳、ですか。確かに咳とかクシャミとかはミソフォニアでなくてもある程度は不快に感じるものです。だからそういった音が不快に感じて、一般的にも不快に感じないテレビの音は同じように不快じゃない。確かに都合が良いでしょうね。頭では分かります。直観的な意見としては何も間違っていない。でも、理由もなくただ、シンプルに、心が傷ついた気がしました。
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