クロックの妖精旅

世万江生紬

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翼の国での、魔法の力

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 「おはよー!よく眠れたか!?」

次の日の朝、部屋の扉を勢いよくバーンと開け、アーラがクロとロックの泊まる部屋にやってきました。時刻は7時。迎えに来るとしても少しばかり早い時刻です。

「アーラ...おはよう。ちょっと早くない?ロックまだ眠いんだけど...。クロなんてこんなに物音立ててもまだ寝てるよ。」

「早く準備して観光に行こうぜ!あ、先にまた飛ぶか?オイラもうわくわくしちまってさー!」

「お願い話を聞いて...。ああもういいや、クロー起きてー。」

「んん~?」

こうしてクロとロックは寝ぼけ眼でアーラに言われるがままに支度をして外に出ました。外は昇ったばかりの朝日がサンサンと降り注ぎ、まだ完全に起きていなかった体がシャキッとします。

「おお~、これはこれは。染み渡るな~。」

「んー!朝日が気持ちいい!たまには早起きも良いね。」

「だろ~!?こんな朝日の中で空飛ぶのも最高なんだぜ!やっぱ観光より先に飛びに行こう!」

アーラはそう言うと、クロたちの返答も待たずまた勢いよく行ってしまいました。クロとロックはまた一瞬顔を見合わせますが、今はアーラの意見に賛成。足取り軽くアーラの後を追いました。

「さっ!魔法かけるぞー!」

「よし、こーい。」

昨日と同じ草原についたクロが服を脱いで身構えると、アーラは昨日と同じように両手を胸の前で合わせ、目を閉じて体をキラキラと光らせました。

『大空で 翼を広げ 飛べよ飛べ 今の私は自由そのもの 翼をくださいリバティウィング

アーラが呪文を唱えると昨日と同じようにクロの背中に翼が生えました。翼が生えてくるときのムズムズした感覚はまだ慣れませんが、クロは昨日の感覚を思い出しながら翼を動かし、ふわっと浮かび上がりました。

「おお~!ロック、すごいよ。朝日が気持ち良すぎる。ロックもおいでよ、一緒に飛ぼう。」

「うん!」

今日は荷物を宿に置いて来たのでロックが地上に残る必要もありません。クロの肩にちょこんと座ると、ロックをのせたままクロは空に飛び立ちました。

「ふー!いいねいいね。気持ち良すぎる~。」

「何かクロと一緒に空を飛んでるの変な気分。気持ちいいねー!」

「いいな!2人とも良い笑顔だぜ!」

3人はしばらくの間笑って空中浮遊を楽しみました。その途中、クロは上空から、地上でこちらの様子を見ている妖精を見つけました。昨日茂みに隠れてクロたちを見ていた妖精です。

「あっ、ロック、あの子だよ昨日言ってた妖精。」

「え?あ、あの翼がすごく大きな?」

「うん、そう。」

その妖精の翼は、この国に来て見たどの妖精よりも大きく立派で、羽の量が多いように見えました。こちらに向ける目に敵意はなく、ただ気になって見ているという感じです。

「ん?なんだ?あいつのことか?あいつはフリューだよ。フリューはちょっとこの国じゃ特殊なやつでなー。この国のほとんどの妖精が使える魔法、『触れた人間に翼を生やして空を自由に飛べるようにする魔法』が使えないんだよ。翼の国の妖精は大体この魔法だから、そうじゃないやつって珍しいんだよなー。オイラはフリューも一緒に楽しく飛んだらいいと思うだけどな、コンプレックスなのかもな!」

「人のコンプレックスをそんなあっけらかんと言っちゃうんだね、アーラ...。」

「んん~、オレ、フリューのこと気になる。ちょっと行ってくる。」

「え!?おい、もう戻るのかー?」

クロはアーラの言葉を右耳から左耳に受け流し、フリューの元へ一直線に向かいました。驚くフリューを他所に、クロは肩に乗せたロックと一緒にフリューの目の前に下り、挨拶します。

「はじめまして~、オレはクロ。こっちは妖精のロック。よろしく。もしかして昨日もオレたちのこと見てた?オレたちに何か用~?」

「あ、えっと急にごめんね、ロックたちは今妖精旅ラディスラウスの最中で色んな妖精と関わりを...」

「知ってる、どう見てもこの国の人じゃないから。僕はフリュー...って、もうアーラから聞いたかな。よろしく。ごめん、君たちを見てたのは僕の魔法はこの国じゃ普通じゃないから、僕じゃこんな風に旅人を楽しませることなんて出来ないんだろうなって思って、それで、なんて言うか羨ましくって...。」

フリューはそう言うと力なく俯いてしまいました。ロックはその様子にどうしたものかとオロオロしていましたが、クロは何のためらいもなくフリューにズバッと聞きこみます。

「フリューの魔法ってどんなの?」

「えっ、ああ、羽1つ1つを同時に自由に動かせるんだ。こんな風に。」

フリューはそう言うと自分の翼から手で数枚の羽根を抜き取って地面に置きました。そして胸の前で手を合わせ、目を瞑ると体がキラキラと光り出しました。

『1つの羽 3つの羽 集まれ集まれ さぁ踊ろう 黄金の鳥ザ・ショータイム

フリューが呪文を唱え終えると、地面に置かれた羽たちはふわっと浮き上がり、フリューが操るままに落ちていた石数個を同時に羽で浮かせました。

「すごい!本当に同時に動かせるんだね!」

「おお~。でも...んん~、それって、何枚かの羽で1つのものを持ち上げるなら重いものも持てる?」

クロはフリューの魔法を目の当たりにし、初めて見る魔法に手を叩いて褒めますが、その手を止め口元に持って行くと何かを考える様に真剣な顔をします。

「え?えっと、重いものってどれくらい?」

「そうだな、じゃあオレの体重くらい?」

「ちょっと待てよ、お前何するつもりなんだ?」

「そうだよ、クロ一体何考えてるの?」

「んん~、オレに翼を生やすことは出来なくても、オレを持ち上げることなら出来るかなって。翼を動かすのって初めてだと結構難しいし時間かかるんだけど、羽で浮かせるだけならオレ自体は身を任せておけばいいんだし、翼を生やせなくても空を飛べてむしろ楽なんじゃないかと思って。」

クロの意図の不明な言葉にアーラとロックは詰め寄りましたが、クロはあっけらかんと答えます。クロはフリューの魔法をただ異色のものとして終わらせたくないのでした。それは国の中では少数でも、間違いなくフリューは翼の国の妖精。翼の国の妖精の魔法なのです。翼の国で変わった魔法を持つやつ、として下を向いているだけなら、魔法の違う使い方を考えたかったのです。父親のように。

「人を持ち上げるなんてやったことない...僕に出来るかな。」

「やりたくないならやらなくてもいいんじゃない?」

「ちょっとクロ、そこはやるだけやってみようよ、とか言うんじゃないの。」

「やりたくないことをやらせるのはちょっと...やりたくないなら、やりたいと思えるやり方を思いつくまで考えるさ。」

「お前面白い奴だな!よっし、フリューやってやれ!初めてのことはやってみてなんぼだろ!」

「えぇ、今クロはやりたくないならやらなくていいって話をしてたんだけど...。」

「ほらフリュー!やってみろよ!」

「わ、分かった、分かったから。」

フリューはクロの言葉、もといアーラの勢いに乗せられてもう一度自分の翼から羽を取り、地面に置き、魔法をかけました。今度はクロの体を持ち上げるために羽の枚数も多めに取りました。すると、魔法のかかった羽たちはふわっと浮き上がりクロの周りに集まりました。

「ここからどうすればいい?」

「足...は危ないかな?よし、お尻から持ち上げて。」

「分かった。」

フリューはクロに言われるまま、クロのお尻に羽を集めてそのままふわっと浮き上がりました。クロはまるで座っているようにドンドン空に浮かび上がっていきます。

「おお、これなかなかすごいよ。もっと高く上げられる?」

「う、うん。やってみる。」

フリューはクロに声をかけると、羽に意識を集中させました。フリューの羽はクロを乗せたままグングン浮かび上がっていき地上10メートルほど、この国の人間が空を飛ぶときの高度まで浮かび上がりました。

「おお~、何もしてないのに飛んでる。これ、移動手段としてはかなりよさそうかもー。」

「ほんと!?僕の力役に立てる!?」

クロの言葉に嬉しくなったフリューは興奮した声を上げました。と同時に魔法の力で浮かせた羽たちのバランスが崩れ、羽で乗せていたクロの体がグラッと傾き、地上から10メートルは離れているであろう上空から地上に向かって落ちていきました。

「っ!危ない!!」

アーラは慌ててクロの元に飛んでいき、フリューは何とか羽でクロを助けようとします。当のクロも「うわぁっ!」と声を上げ、思わずギュッと目を瞑りました。すると次の瞬間、

『チクタク カッチン こんにちは さようなら いつも貴方のすぐ側に 時計の歌ラストメノウ

呪文がきこえたかと思うと、クロの体はまるでスローモーションになったかのようにゆっくりと降りていき、やがてふわっと地上に足をつけました。

「えっ、い、今何が起こったの?僕が羽のバランスを崩しちゃって、それから、」

「すっげぇゆっくり落ちてきたな!何だったんだ今の!」

「ロックの魔法だよ。」

オロオロと慌てるフリューと目をキラキラと輝かせるアーラに、クロは何事もなかったかのように言います。そしてクロの言葉に2人の視線はロックへ集まります。

「ロックの魔法は対象の時の流れる速さを変える魔法なんだ。それこそ対象をロックして、ね。だからクロの時間だけゆっくりにして、落下の威力を弱くしたんだ。」

「そうだったんだ。ロックありがとう!ロックが助けてくれなかったら僕、僕...!クロも、ごめんなさいっ!」

「んん~、オレは気にしてないよ、大丈夫。それより、フリューの魔法でちょっといいこと思いついたんだけど、」

ロックの魔法を知っているクロは正直、何かあったらロックが助けてくれると信じていました。その証拠にロックはクロが浮かび上がった時から胸の前で手を組んでいました。ロックが何かあれば助けてくれる、そう信じていたからクロはためらいなくフリューの羽の力を試せたのです。だからこそ本当に何も気にしておらず話を進めようとしたのですが、アーラだけは思わず声を上げました。

「待ってくれ!今の魔法って時の魔法だよな!?ロックは時の国の妖精なのか!?でもクロも時の国だろ?ってことはお前たち相棒パートナーってわけじゃないのか!?」

「そうだよ、ロックとクロは相棒パートナーじゃないよ。そして今は旅の帰り道でもない、行き道。それを昨日言おうとしてたのにアーラってば話聞いてくれなかったから。」

「っなんだよ~!それならこの国の妖精だって紹介しなきゃじゃないか!」

「話をきかなかったのはアーラのほうでしょ。全く...。それで?クロはフリューの魔法で何を思いついたの?」

盛大に驚き、うなだれるアーラを横目にロックは話をクロに戻します。でもちょっと可哀想になったのか、ロックはアーラの頭をぽんぽんと叩いてあげます。

「おお、こっちの話忘れられたのかと思った。んとね、フリューの魔法は人を飛ばすのはやっぱり向いてないと思う。危ないし。」

「えっ!まさかの上げて落とされた...。」

「でも、荷物を運ぶのはすごく向いてると思うんだ。」

「え?荷物?」

「うん。旅人って結構荷物が重いんだ。だから荷物を運んでもらえるとすごく助かる。さっきフリューの羽で飛んで思ったけど、人が飛ぶには結構不安定でも荷物ならそれくらい大丈夫。オレも飛ばせるくらいなら、それより軽い荷物なら余裕で浮かせられるだろうし。」

ロックはクロの言葉に、昨日この草原に来るときクロが荷物を重たそうに持っていたことを思い出しました。妖精のロックでは人間の持つような重たい荷物を持つことが出来ず、代わりに持ってあげることが出来ないのです。

「でも、この国じゃみんな移動するとき空飛ぶんだから、重たい荷物とかあんまり関係なくないか?持って飛ぶなら重さもあんまり関係ないし。」

「旅人の荷物は重たい上に多いから、基本的には背中に背負うリュックを使うんだよ。服を破らないようにするために服すら脱いで背中を開けてるんだから、当然リュックなんて背負ってたら翼は生やせないんだなこれが。」

「確かにそうだな...。」

「まあ背負わずに手で抱えたらって言われたらそれまでなんだけど。でもさフリュー、アーラと一緒に門の前で旅人を待って、やってきた旅人の荷物をフリューが持って、アーラがこの国を案内する。旅人は重たい荷物から解放されて観光も空を飛ぶことも全力で楽しめるし、2人は旅人のためになる上に最高の思い出を作ってあげられる、2人が組んだら最強じゃないかい?」

クロの言葉にアーラとフリューはパッとお互いの顔を見つめます。それはまさに2人で1つの存在であり、互いが互いの力を最大限に引き出す相棒パートナーの誕生の瞬間でした。

「...やるか!フリュー!オイラたちならこの国にきた旅人に最高の体験をさせてやれる!」

「うん!僕も!普通とは違う形かもしれないけど、旅人たちに最高の体験を届ける手助けがしたい!」

2人はガッチリと、熱い握手を交わしました。そしてクロとロックは、そんな2人の様子をただ黙って笑顔で見守っていました。


 それから1週間、クロとロックはアーラとフリューの最強コンビにみっちりとこの国を案内され観光しました。街の有名な特産品から、裏路地の抜け道まで。それはそれは詳しく案内されました。空を飛ぶ体験も飽きるほどに。この国に来る前からの夢だった、空を飛びながら昼寝をすることも叶えました。もちろん、相棒パートナ探しのために妖精の紹介もされましたが、クロはどの妖精も「この国に必要だ」と言って相棒パートナーにしようとはしませんでした。そして1週間後、クロはついにこの国での相棒パートナー探しをやめ、この国を立つことを決めました。ロックはクロの決めた事なら、と下手に口出しはせずにクロに付いて行きます。そして翼の国を立つ日がやって来ました。

「本当にいいのか?この国の妖精たちはお前の相棒パートナーになりたがってたぞ。この国じゃ役に立たない、というか異色なものだと思われてたフリューの魔法をこの国のためにつかえる魔法として色づけてくれたんだ、当然だ。」

「アーラ、あんまり役に立たないとか言わないでよ...。でも寂しいな。もうちょっといてもいいんだよ?」

「もう十分観光はしたし、この国のいいところは知ったから。相棒パートナーは、他の国の妖精も見てみてから決めたいかな。アーラ、フリュー、色々ありがとーね。」

「ありがとう、この国は立つけどフリューとアーラはロックたちの友達だよ。」

「おう!もちろんだ!2人とも元気でな!」

「僕の方こそありがとう!大げさかもしれないけど、僕に生きる意味を与えてくれたと思ってる!本当にありがとう!」

クロとロックは2人の声に答えるように大きく手を振り、そしてまっすぐ門に向かって進むと振り返ることなく翼の国の門を開けて外に出ました。

「楽しかったね、翼の国。」

「うん。いい友達も出来た。」

「そうだね、いい経験にもなった。次はどの国に行くの?」

「んん~、そうだな...。確かこの国の近くにすごく綺麗な国があるってフェニト兄上が言ってた気がする。兄上は行かなかったらしいから行ってみようかな。どんな国だろ。」

クロはバサバサと自分の顔よりも大きい地図を広げながら言います。翼の国から近しい場所にある国は、地図には鏡の国ルストラトリと書かれています。

「どんな国でもロックはクロに付いて行くって決めたからね。さ、行こう。」

「うん。行こう。」


 翼の国でクロが見つけたのは大事な友達だけではありません。異色とされていようとも、その魔法に意味を与えた経験、意味を与え、希望を与え、感謝される、この経験はクロ自身の自信に繋がっていきます。そしてそれをすべて見ていてくれる隣にいる人。クロはこの旅で、自分にとって大事なものをもっともっとたくさん見つけて行くのです。
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