クロックの妖精旅

世万江生紬

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鏡の国の第3王子

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 翼の国を立って2日。翼の国の近くにある美しい国を目指し地図の通りに進むクロとロックの前に、1つの国の門が見えました。その門は今まで見た国のどの門よりも綺麗で、キラキラと光って見えました。

「クロ!国が見えてきた!何かすごいキラキラしてるし、あの国じゃないかな。」

「んん~、そうかも。鏡の国ルストラトリ。キラキラしてるのは門だ。豪華だ~目がつぶれる。」

「目はつぶれないから大丈夫。でも本当に外観すごく綺麗だね。よし、行ってみようか。」

「うん。」

クロとロックは鏡の国に向かって、門のところまで歩きました。門の近くまで来ると、キラキラと光っていた門は全面鏡になっており、太陽光が跳ね返っていたのでした。

「おっきな門だ~。」

「すごい、全部鏡だったんだ。」

「じゃあ開けるね、よーし、こんにちは~。」

クロは間延びした声で挨拶しながら、両手に力を込めて門を開けました。門を開けた先はステンドグラスで彩られたような、キラキラと綺麗に輝く街並みが広がっていました。

「ステンドグラスってガラスだよね?鏡の国の名産なのか...?」

「でもクロ見て。キラキラしてて綺麗だよー!時の国も綺麗な国だけど、こういう色鮮やかで綺麗な感じとはまた違うから新鮮でいいね!」

「それは確かに。」

  この国の街並みは建物自体は時の国と大差ないような、こじんまりとしていているけれど解放感のある綺麗で趣のあるものです。しかしどの家にも窓やドア、壁の一部にステンドグラスが使われており太陽光に照らされて街全体が彩られているように感じます。クロとロックは今まで見たこともないような綺麗な街並みに言葉を失いながら、上を向いて歩いていました。すると前をよく見ていなかったためにドンッと誰かとぶつかってしまいました。

「わっ!ごめんなさい。」

「いえ、大丈夫...って、お前もしかして旅人か?」

「え?」

クロとぶつかった相手は、優しい笑顔で丁寧な対応をしたと思うと、クロの姿を見て表情を曇らせました。そして、まるで敵を見るかのような目をクロに向けます。

「はい、そーです。時の国から来ましたクロです。こっちは妖精のロック。あなたは?」

「僕はこの国の王子エメトだ。クロと言ったな、お前いくらこの国が綺麗だからって前を見ないと危ないだろうが。気を付けろ。」

「クロ、なんかこの王子様、こっちが旅人だと分かった途端ちょっと態度悪いね。」

クロの肩から様子をうかがっていたロックはクロにこそッと耳打ちします。クロは手でロックを軽く制すると、エメトに向かって頭を下げました。

「すみません、不注意でした。これから気を付けます。教えてくれてありがとう。」

「っ!わ、分かればいいんだよ分かれば。ラング、ほら行くぞ。」

エメトは素直に謝るクロを見て少したじろぐと、後方にいた妖精に一声かけて立ち去りました。その妖精はクロたちに申し訳なさそうな顔をすると、軽く頭を下げてエメトに付いて行きました。

「今の妖精、エメトの相棒パートナーかな。」

「王子って言ってたし、そうなんじゃないかな。旅を終えて戻ってきた王族かー。それにしても旅人にあんな態度取らなくてもいいのに。」

「んん~、言い方はちょっと厳しいけど言ってること間違ってないし、悪かったのはオレだからなー。とりあえず宿探そうよ。日が暮れかけてる。」

「クロがいいならもう何も言わないけど...分かった、行こう。あっちの方にある建物、多分宿じゃないかな。」

「この国の宿はお値段いくらくらいかな~。」

クロとロックはこの日、この国の旅人用のとても良い宿に泊まりました。今回もそこそこのお値段に目を丸くしたクロですが、この世界での平均的宿泊費を教えてもらったクロはこの日ようやくリーズナブルなお値段を知りました。受付を済ませた2人はゆっくりとくつろぎ疲れを癒すと、ベッドに入ってすぐにぐっすりと眠ってしまいました。


 次の日、朝ゆっくりと起きた2人は支度をすると妖精を探しに出かけに行きました。宿を出て一番にぎわっている街中に向かって歩き出した時、2人は見覚えのある妖精を見かけました。

「あれ?あの子昨日の王子様の相棒パートナーじゃない?」

「ホントだ。1人なのかな?エメトもいるんだろうか。」

そんな会話をしながらラングと呼ばれていた妖精に近づくと、ラングはこちらに気づいたのかクロたちに向かって飛んできました。

「あの!昨日エメト様にいちゃも...いえぶつかってた人ですよね。その、昨日はすみませんでした。」

「え?んん~、オレ全然気にしてないから大丈夫だよ?」

「でも、大分失礼な態度でしたし...。すみません、エメト様は旅人というか他国の王族が嫌いみたいで。」

「王族が嫌い?なんで?」

「彼は王子と言っても第3王子で...。」

「あぁ。」

この世界では国にもよりますが王位継承権は王の子ども、つまり王子に与えられます。しかし本人が拒否をしたり王にふさわしくないとされない限りは出生順位が高い方が継承権順位も高くなります。よって第3王子となると王になるのは難しいのです。

「ラング!お前何をしている!」

「エメト様、すみません。昨日の旅人がいた...いらっしゃったので挨拶を。」

「こんにちはエメト、昨日ぶり。」

「クロ、王子様なんだから様を付けようよ。」

「お前たちは昨日の旅人か...。旅をしているということは12歳かそこらか。妖精を連れているということは帰りなんだな。一泊して十分体も休めただろう、早く国へ帰れ。」

「んん~ロックは相棒パートナーじゃないよ。時の国の妖精。今もまだ相棒パートナ探し中。だからこの国も観光したいんだ。良かったら案内しておくれよ。」

「はあ!?」

エメトは妖精を連れた旅人が相棒パートナーではなく自国から共に旅に来ているという事実に加え、あまり好感を持たれていないことが明らかな相手に案内を求めるクロの行動に驚きの声をあげました。

「ふざけるなよ。俺は旅人、王族が嫌いなんだ。誰が案内なんかするか。」

「あー、第3王子だから?」

「おいなんでそれを...ラングお前か!」

「す、すみません!」

「ラングは悪くないよ、ロックたちが聞いたんだから。でもさエメト様、王族が嫌いだからってそんな態度取ってたら普通に国の評価も落ちちゃうと思いますよ。国の案内だって、国のいいところを他国にも知ってもらうチャンスじゃないですか。」

「オレもそう思いますー。」

クロとロックは翼の国で出会った、自分たちの国のことが大好きな妖精のことを思い出します。彼らは自分たちの愛する国を色々な人に知ってもらいたい、自分たちの国で楽しんでもらいたいと、たくさん国のことを教えてくれました。そのおかげでクロたちも翼の国が大好きになったのです。

「うるさい!お前たちに何が分かる!第3王子の僕では王にはなれない!王になれないこの国なんて...!お前たちに僕の気持ちは分からないだろう!」

「んん~、オレ、第5王子なんだけど...。」

「は?第5?」

「うん。オレの上に兄上が4人いる。だから俺は王にはならないだろうな~。」

「...ならお前も僕の気持ちが分かるだろう!」

「でも王じゃなくても国のために出来ることはたくさんある。オレはオレに出来るやり方で、時の国をもっとよくしたいと思ってる。」

クロはエメトに面と向かって堂々と言います。その立ち振る舞いは第5とは言え王族だと、王子だと言えるものでした。クロのそんな様子を見て、エメトは下を向いてプルプルと震えます。そしてガバッと顔を上げたかと思うと、ガシッとクロの手を掴み、

「嘘だっ!!第5王子がそんなこと本気で思っているわけがない!お前が嘘をついているということを僕が証明してやる!」

と言って走り出しました。クロは仰天、とにかく手を引っ張られるまま走り出します。ラングとロックも驚きながら後を追います。どれくらい走ったころでしょうか、エメトがようやく立ち止まったのは人気のない裏路地。鏡もステンドグラスもなくキラキラと彩るものはありませんが、日光が入り、草木もあり、どことなく温かい印象を受ける場所です。

「ここは僕のお気に入りの隠れ場所だ。ここなら人気もない。だからこそ僕はお前に問う、お前の先ほどの発言が真実かどうか。」

「ぜー...はー...問うって、真実なのだけれど。オレ嘘ついてないよ。」

「嘘つきはいつだってそう言う。お前も本当は王になれないことを嘆いているんだろう?王になりたいと叫んでいるんだろう?王になれずとも国のためになりたいなど、現実から逃げるための自分への言い聞かせだろう。僕がそれを証明する!」

「証明って何するつもりですか。クロに何かひどいことするって言うならロックは他国の王子様相手でも容赦しないですけど。」

ロックはエメトをジトッと睨みながら言うと、両手のひらを胸の前で合わせました。これですぐにでも魔法が使えます。しかしその動きを見てエメトはフンッと鼻を鳴らします。

「ふん。拷問なんてことしなくても真実を聞き出すことくらい出来る。ラング、やれ。」

「わ、分かっ...りました。」

ラングはそう言うと、両手を握り、目を瞑ると、エメトが背負っていた荷物から取り出した30㎝ばかりの鏡に向かって呪文を唱えました。

『心が通う まことの言葉 さあ聞かせて 心のメッセージ すてきな言葉フィーリング・トューユー

ラングが呪文を唱え終わると、エメトの持つ鏡がキラキラと光りました。やがて光が収まったかと思うと、エメトはその鏡をクロに向けました。

「さあ、では問う。お前は本当は王になりたいのだろう?第5王子であることを恨んでいるのだろう?」

「いや、だからオレは、」

クロがそこまで言った瞬間、エメトの持つ鏡の中のクロが口を開き、クロの意思とは関係なく話し始めました。

『オレは王になりたいと思ったことは無い。王になれないからこそ、オレのやり方で国のためになりたいと思ってる。もちろん第5王子であることを恨んだことも、1度もない。』

「えっ、オレ何も喋ってないのに鏡の中の俺が何か喋ってる...。」

「すごい、これがラングの魔法!?」

クロとロックは目の前で起こったことに対して驚きの声と、感嘆の声を上げます。エメトの持つ鏡はクロに向けられていて、当然クロが写っています。しかし鏡の中のクロはエメトの問いに、クロの意思に関係なく話し出しました。鏡とは自分の姿を写すものですが、エメトが持っている鏡の中のクロはまるで別のもう1人のクロがいるかのようでした。

「あ、はは。私は言葉の国の妖精でして、元々魔法は『かけた相手が嘘偽りのない本心で話す魔法』なんですけど、鏡の国ならではのエメト様の考えで鏡に魔法をかけたら『鏡に写った相手の、本心の像を鏡の中に作り出す』魔法になったんです。だから今鏡に写ってるのはクロ本人じゃなくて、あくまでクロの本心の像。1度鏡に写れば、その後は魔法を解かない限り鏡に写っていなくても像はそこに存在するんですよ。」

「すごい、じゃあ嘘付こうとしても付けられない上に1度鏡に写ったら逃げることも出来ないんだ。」

「まあそうなる、なりますかね?クロにはちょっと申し訳ないことしちゃいましたね。」

「んん~聞かれて困ることないし大丈夫。それより、ショック受けてるエメトは大丈夫?」

エメトはクロの本心を暴こうとしたものの、クロの言っていたことが嘘間違いない本心であるということを自分自身の策によって突きつけられ、ショックで崩れ落ちていました。

「いや、いや...この世に嘘をつかない人間なんていないんだ。この言葉の国の魔法と掛け合わせた魔法の鏡があれば、どんな真実だって暴くことが出来るんだ!クロ、僕はお前に再度問う!」

「んん~、へこたれない王子様だね。」

「うるさい!俺は必ずお前の秘密を暴いてみせるんだ!」

「...そこまで行くとロックはもうなんか違うように感じるんだけど。」

「エメト様は自分の思い通りにならないと暴走してしまうことがあるので...すみません。」


 こうしてエメトによる、クロの秘密を暴くための質問攻めが始まったのでした。
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