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第7話
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呼び鈴を押してしばらく待っていると、中から千晶が出てきた。しかしその顔は赤く腫れ、青くあざになっているところもあった。
「千晶!?どうしたのそれ!」
「奈月?なんでここに?」
「千晶に俺の気持ち伝えに来たの!俺は千晶がどう思っていようがどういう選択をしようが、ずっと千晶を好きでい続けるって言いに来たの!千晶がお母さんから離れて俺を選んでくれるならお母さんを選ばなかった辛い思いを俺も背負うし、千晶がお母さんを選んで俺と別れても俺はずっと千晶を思い続けるって。いやそんなことよりその痣だよ!何があったの!?」
俺は千晶の痣に驚いて混乱して、もっと落ち着いて伝えるつもりだったのにここに来た理由を勢いよく全て言ってしまった。すると千晶はなぜかフフフッと声に出して笑い始めた。
「フフフ...。」
「千晶!?何笑ってるの!?」
「い、いや、奈月が何か面白くて。奈月、ありがとうね。」
「どういたしまして!そうじゃなくて!その痣!」
「これはね、母さんと戦った証だよ。俺ね、母さんに全部伝えたんだ。千晶のことを愛してるって、ずっと一緒にいたいって。」
千晶は俺の目を見てまっすぐに言った。ビー玉のような綺麗な目が俺の目を見つめる。
「どちらを選ぶ、なら奈月を選んだよ。でも母さんを捨てるつもりもない。だから、俺は母さんを説得することにしたんだ。この傷も説得に失敗しただけ。」
「その痣お母さんが!?」
「うん。でもいいんだ。これは俺の戦いだから。あのね、奈月、1つお願いがあるんだ。」
「な、なに。」
「5年。待っていてくれない?」
俺は千晶の言葉に全身の動きを止めた。何て返すのが正解なのか、千晶の言葉の真意が何なのかよく分からず、俺はただ千晶を見つめ返した。
「母さんに本気を伝えるために5年間、奈月とは会えない。連絡もしない。でも5年の間に絶対に母さんを説得してみせる。だから待っていてほしいんだ。」
千晶の出した答えだった。5年後と言うと高校を卒業してから大学に入学し、そして卒業し、就職して1年経つ頃だ。長い。そんな長い間も千晶と会えないのは本当は嫌だった。でも、分かっていた、千晶のお母さんと言うことは、千晶のこれからも一生ずっといるなら俺の母親にもなる。俺の家族でもあるんだ。これから家族になる人としこりを残しているわけにはいかない、だから千晶は長い時間をかけてでも、それ以上の長い未来のことを考えて説得することにしたのだ。そんな思いが伝わってしまえば、長い未来のための投資と思えば、5年なんて短い。
「分かった。5年、絶対だよ?待ってる。」
それから卒業まで、俺たちはこれからの一時の別れを思って目いっぱいに日常を過ごした。毎日何気ない日常を過ごして、学校行事は全力で楽しんで、受験勉強は本気で苦しんだ。そのかいあって俺たちは今日、晴れて卒業式を迎えた。
「今日で最後だねー。」
「そうだね。寂しくなるよ。」
「なんだ、2人別れんの?」
「幸ちゃん!別れないよ!てか幸ちゃんには話したじゃん!」
俺と千晶の卒業後が決まった後、俺は幸に事の顛末を伝えた。幸は最後まで俺の話を聞いてくれた上で「あっそ」とだけ言った。俺はそのたった3文字に幸の俺たちへのエールが詰まっているように感じた。
「はいはい。2人の戦いはこれからってね。せいぜいお互い大学でもっといい相手が見つからないようにすることだね。」
「なんでそんな不安になるようなこと言うの!千晶ー、そんなことないよねー?」
「俺は奈月以外眼中にないよ。」
「~!可愛い奴め!」
「いちゃつくなら俺のいないところで...って、まあ最後くらいいいか。奈月、千晶、お幸せに。」
幸は最後の最後に精一杯の背中を押してくれた。俺は幸の言葉に、卒業式でも流さなかった涙を流してしまった。幸はそれを見て悪戯に笑っていた。
幸と最後の別れの挨拶をした俺と千晶は最後の帰り道を歩いていた。
「これから5年か、長いね。」
「千晶が言ったんでしょ。俺はちゃんと待ってるよ。」
「...うん。ありがと。あ、そうだ奈月、これ受け取って。」
千晶はそう言うと第二ボタンを手でちぎって俺に渡した。それを受け取った俺も同じように自分のボタンをはずし、千晶に渡した。
「男同士だから交換ができるよね。」
「男女、じゃあ無理だもんね。...じゃあ奈月ここで。」
俺たちがいつも別れるのは、2人の出会いの交差点だった。出会いの場所が、別れの場所に変わる。
「うん。5年後の今日、ここで会おう。」
そして、再会の場所に変わる。
「千晶!?どうしたのそれ!」
「奈月?なんでここに?」
「千晶に俺の気持ち伝えに来たの!俺は千晶がどう思っていようがどういう選択をしようが、ずっと千晶を好きでい続けるって言いに来たの!千晶がお母さんから離れて俺を選んでくれるならお母さんを選ばなかった辛い思いを俺も背負うし、千晶がお母さんを選んで俺と別れても俺はずっと千晶を思い続けるって。いやそんなことよりその痣だよ!何があったの!?」
俺は千晶の痣に驚いて混乱して、もっと落ち着いて伝えるつもりだったのにここに来た理由を勢いよく全て言ってしまった。すると千晶はなぜかフフフッと声に出して笑い始めた。
「フフフ...。」
「千晶!?何笑ってるの!?」
「い、いや、奈月が何か面白くて。奈月、ありがとうね。」
「どういたしまして!そうじゃなくて!その痣!」
「これはね、母さんと戦った証だよ。俺ね、母さんに全部伝えたんだ。千晶のことを愛してるって、ずっと一緒にいたいって。」
千晶は俺の目を見てまっすぐに言った。ビー玉のような綺麗な目が俺の目を見つめる。
「どちらを選ぶ、なら奈月を選んだよ。でも母さんを捨てるつもりもない。だから、俺は母さんを説得することにしたんだ。この傷も説得に失敗しただけ。」
「その痣お母さんが!?」
「うん。でもいいんだ。これは俺の戦いだから。あのね、奈月、1つお願いがあるんだ。」
「な、なに。」
「5年。待っていてくれない?」
俺は千晶の言葉に全身の動きを止めた。何て返すのが正解なのか、千晶の言葉の真意が何なのかよく分からず、俺はただ千晶を見つめ返した。
「母さんに本気を伝えるために5年間、奈月とは会えない。連絡もしない。でも5年の間に絶対に母さんを説得してみせる。だから待っていてほしいんだ。」
千晶の出した答えだった。5年後と言うと高校を卒業してから大学に入学し、そして卒業し、就職して1年経つ頃だ。長い。そんな長い間も千晶と会えないのは本当は嫌だった。でも、分かっていた、千晶のお母さんと言うことは、千晶のこれからも一生ずっといるなら俺の母親にもなる。俺の家族でもあるんだ。これから家族になる人としこりを残しているわけにはいかない、だから千晶は長い時間をかけてでも、それ以上の長い未来のことを考えて説得することにしたのだ。そんな思いが伝わってしまえば、長い未来のための投資と思えば、5年なんて短い。
「分かった。5年、絶対だよ?待ってる。」
それから卒業まで、俺たちはこれからの一時の別れを思って目いっぱいに日常を過ごした。毎日何気ない日常を過ごして、学校行事は全力で楽しんで、受験勉強は本気で苦しんだ。そのかいあって俺たちは今日、晴れて卒業式を迎えた。
「今日で最後だねー。」
「そうだね。寂しくなるよ。」
「なんだ、2人別れんの?」
「幸ちゃん!別れないよ!てか幸ちゃんには話したじゃん!」
俺と千晶の卒業後が決まった後、俺は幸に事の顛末を伝えた。幸は最後まで俺の話を聞いてくれた上で「あっそ」とだけ言った。俺はそのたった3文字に幸の俺たちへのエールが詰まっているように感じた。
「はいはい。2人の戦いはこれからってね。せいぜいお互い大学でもっといい相手が見つからないようにすることだね。」
「なんでそんな不安になるようなこと言うの!千晶ー、そんなことないよねー?」
「俺は奈月以外眼中にないよ。」
「~!可愛い奴め!」
「いちゃつくなら俺のいないところで...って、まあ最後くらいいいか。奈月、千晶、お幸せに。」
幸は最後の最後に精一杯の背中を押してくれた。俺は幸の言葉に、卒業式でも流さなかった涙を流してしまった。幸はそれを見て悪戯に笑っていた。
幸と最後の別れの挨拶をした俺と千晶は最後の帰り道を歩いていた。
「これから5年か、長いね。」
「千晶が言ったんでしょ。俺はちゃんと待ってるよ。」
「...うん。ありがと。あ、そうだ奈月、これ受け取って。」
千晶はそう言うと第二ボタンを手でちぎって俺に渡した。それを受け取った俺も同じように自分のボタンをはずし、千晶に渡した。
「男同士だから交換ができるよね。」
「男女、じゃあ無理だもんね。...じゃあ奈月ここで。」
俺たちがいつも別れるのは、2人の出会いの交差点だった。出会いの場所が、別れの場所に変わる。
「うん。5年後の今日、ここで会おう。」
そして、再会の場所に変わる。
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