おぼろ

駿心

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【番外編2】 ふゆ

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◇◇◇◇
「さむ……」


広めの保健室で暖房がファンヒーターひとつって足りないと思う。


ハタノは「んーそーだなー」と気の抜けた返事をする。

こっちの方は一切見ないまま。

勉強中だから仕方ないけど。


私は微妙に集中切れちゃったんだよね。

だけどハタノは黙々と問題集にとりかかっている。

そんなハタノの俯く顔をジーッと見た。


……真剣な顔。

まぁ、だよね。

受験もいよいよ来月だし。


「……シミズ?」


ハタノが急にこっちを見た。


「えっ!?な……何!?」

「いや、すっげぇ見てくるから」

「……そんなことないし!」

「そうか?」

「その……ハタノの黒髪……見慣れないなぁー…なんて」


ホントは髪を見ていたわけじゃないけど、見慣れないのはホント。

ハタノは先週から受験に向けて金髪を黒髪に戻したのだ。


するとハタノは歯を見せて笑った。


「俺も!朝鏡見て、まだ自分でも『うぉっ!?』ってなる」


朝に自分一人で驚いているハタノを想像して、私も釣られて笑った。

二人で笑って喋っていると、お湯を沸かしていたヨーコ先生はマグカップふたつを持って私達の机に戻ってきた。


「おーい、君達。勉強するんじゃなかったのか?」

「俺じゃないです!シミズが邪魔してきました!!」


はぁっ!?

私のせいみたいに言いやがって!!


……まぁ確かにハタノは勉強してたけど。


ヨーコ先生は私達の前にマグカップを置いた。


「はい、ヨーコちゃんからの差し入れです!バレンタインバージョン!!」


その中はココアだった。

ハタノはシャーペンを置いて、「おー!?」と叫んだ。


「マジで!?そっか!!今日バレンタインか!!ありがとうヨーコ先生!!」

「あら?ハタノくん、まだ他から貰ってないの?」


ヨーコ先生はこっちをチラッと見た。


……う。


ハタノは先生の視線に気付かず、ココアをフーフーする。


「いや、教室行けないんだからクラスの女子からの義理すらも貰えるわけねぇじゃん?」

「あらー、まさかの自虐ネタ~。でも……家族からは?」

「……家族はノーカンだろ?」

「じゃあこれで一個目ねー」

「個じゃないけどな。ミリリットル!」


ヨーコ先生との軽快なやり取りの後、急にハタノがこっちを見た。


「あ!そうだよ!シミズは?」

「へ?」

「チョコ!」

「……」


……うわぁー…

こうなったら渡しづらいし!

ねだられて渡したみたいだし!

ハタノから見えないところでヨーコ先生が机の下で私に『ごめん』という手を作った。


先生は申し訳なさそうに小さく『てっきり』と口パクもした。


……てっきりもう渡してるかと思った?


……

……


私はプイッとそっぽを向いた。


「チョコなんて持ってきてないし!!」


私が言ったことにハタノはブーイングした。


「えぇー義理も人情もないヤツだ!シミズは!!」

「自分がモテないことを私のせいにしないでよ!!」


ギャーギャーと軽い口喧嘩をしていたらヨーコ先生は微妙な笑顔で立ち上がった。


「先生、ちょっとスケジュールチェックしに行くわねー」


そういって保健室を出た。

……逃げた。


……

……


ハタノはココアを飲んでいる。


私もココアを冷まそうと息を吹きかけるけど、熱くて持ってられないからもう一度机に置いた。


……

……


「シミズ、黙るなよ。別に怒ってねぇし。チョコ貰えなくて」

「……しょげてるわけじゃないわよ」


ハタノと二人でいるのは楽しいけど、たまにこうして微妙な空気になる時がある。

……なんか分からないけど。


……


ハタノの笑ったような声がした。


「いやいや、マジで!!俺が勝手に期待して催促したわけだから、チョコがめちゃくちゃ欲しいわけじゃねぇし。つか、俺ら受験で忙しいんだから、準備してる時間ねぇし、そこ気ぃ使う必要ねぇし!!」


ハタノを睨んだ。

ハタノは当然「え?なんで?」って顔をする。

忘れてたわけでもないし、ハタノならいいやってテキトーにしたわけでもない!

私は一回深呼吸してから立ち上がり、カバンを置いてあるところまで行った。

カバンから用意していたものを取り出してハタノのところに戻った。

そしてまたもう一度深呼吸した。


「……チョコは用意してないんだけど」

「え?」

「ミサンガ」

「え?……え?」

「……ミサンガ編んだの」

「……えぇっ?」


私はハタノに白と黄色と赤で紡いだミサンガを見せた。


「これ……受験のお守りに……って」

「……」


毎日ちょっとずつ編んで、3日前ぐらいに完成したんだ。


……


やば

耳が熱っ!!


ハタノをチラッと確認したら、ハタノは口を開けて固まっていた。


「え……ハタノ的には、やっぱ……チョ……チョコのが良かった!?」


しまった…外した!?

私が焦って聞くとハタノは「えっ!?」とビックリしたあと、ブンブンと首を振った。


「ち……違う!その……う……嬉しい!!」


ハタノの言葉に少しホッとして、つい笑顔になってしまった。

多分ハタノはいらなくても『いらねぇー』なんて突き放さないって思うけど、ウソでも『嬉しい』と言われたら…私も嬉しい。

まだ見慣れない黒髪をワシャワシャ掻いたあと、ハタノは自分の腕を私に差し出した。


「……着けてよ」


ハタノに言われて、一瞬言葉の意味がわからなかった。

着けてよ……?

え…私が!?


さっきまで寒いとか言ってたのに、私はもう耳どころか顔まで熱くなった。


だけどハタノもストーブの熱に当てられてか、ハタノのホッペも赤い。

ハタノに見つめられて私は慌てて目を反らした。


「それぐらい…自分で着けたらいいじゃん!」

「片手じゃ上手く結べねぇって。……ほどけたくねぇし」

「……」


確かに一生けんめい編んだのがすぐに取れるのは私だってイヤだ。

私は自分が座っていたイスにもう一度座り、体をハタノに向けた。

そしてハタノの手首に輪をかけた。


「…………やべぇな。チョコより破壊力あるかも」

「え?……何か言った?」

「…………『ありがとう』っつった」


ハタノがお礼を言ってくれて、慌てて顔を伏せてハタノの手首に目を戻した。


「別にお礼言ってほしくて作ったわけじゃないし!!」

「……うん。でもありがとう」


なんか手が震える。

結び目の玉を作ろうにも、先っぽのケバケバと自分の指先とか爪とかが、もはやジャマ。

時間が長く感じる。

実際、長かったかもしれない。

そしてようやく結べた。

きつめにした。


ホッと息を吐いて顔を上げるとハタノと至近距離で目があった。


息が止まった。


「シミズ……ほっぺた赤い」


そういうハタノだってほっぺた赤いくせに、真面目な顔をしてくるからギュッと目を瞑るのに力を入れた。


「これは……ハタノの黒髪が……まだ見慣れなくて、驚いたから」

「……そっか」


あ、おでこにハタノの髪が触れてる気がする!

目をつぶっていてもハタノの気配があって、

心臓が……心臓がずっとずっとうるさくて……。


「じゃ……じゃあ、これがバレンタインだから!!い……以上!!終わり!!」

「シミズ!」


ハタノから離れようと思ったのに、ハタノに手首を掴まれた。


「これ……本当にありがとう!」


ハタノのお礼に私はドキドキで震えるのを堪えてゆっくり頷いた。


するとハタノは笑ってくれた。


「受験、絶対に受かろうな!」


私は笑顔でもう一度頷いた。


残り少ない中学生活。

でもこれからもハタノといたいから、頑張ろうって思う。


春はもう少し先。
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