ビンカピーチ

駿心

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1章

タイプと別れ

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◇◇◇◇

今、思い返してもアレがいけなかった。


晋がすごく可愛かったし、小学生のことだから新しいゲームとかしてる内に責任などすぐに忘れてくれるだろうと思って、『よろしくね』とか適当に返事したのがいけなかった。


小学生の本気を侮っていた。


晋のおかげでその時の失恋なんてすっかり忘れて、新しい彼氏が出来た時だった。

後日それを知った晋が私を責めてきた。


『なんだよ!!比奈子は俺の彼女だろ?それは浮気だ!!』


吃驚《びっくり》したし、その時一緒にいた侑もすっごく驚いていた。


え?私、いつ晋の彼女になったの?

てか、私のこと呼び捨てにした?


晋の真面目さに面食らった。


とりあえずその時は

『あれはもしもの話であって、私に傷は付いてないからもう責任に感じなくて大丈夫なんだようんたらかんたら~』

と…その場で適当に答えて、かわしたような気がする。

それから晋の"あれ"が始まった。


『比奈子、好き』

『比奈子には俺しかいない!!』

『比奈子と一緒にいたい』


ともかく参った。


しかし原因は明らかに私で、侑に『晋と姉ちゃん、一体何があったの?』と聞かれても

お姉ちゃんはお前の親友に勢いでキスしちゃったんだ

と言えるわけがなく、私はひたすら笑って誤魔化して…そして現在に至る。


私はそんな晋にお構いなく好きな人や彼氏を作ってきたけど、晋は構わず『好き』と言ってくれる。

晋も大きくなった今では、それも本気とも取れない感じになったけど、それでも時たま『好き』と言ってくれる。


責任感のある律儀な奴。

基本はいい奴なんだよね。


だから晋にきつく言えない……私が悪いって一応わかっているから。


レポート課題も一区切りつけて、うーんと体を伸ばすと玄関の方で「ただいまー」という声が聞こえてきた。


「おっ、タスクが帰ってきた」


晋はゲームを切ってベッドから起き上がり、ドアを開けた。


「タスクー!!おかえりー!!」

「あれ、晋。また来てたのか?」

「うん、比奈子に会いに」


そんなことをサラッと言うが、晋はこっちを見向きもしないで部屋を出て、侑に着いていった。

隣の部屋で晋の楽しそうな声がした。


進路先の高校が分かれた今でも二人は仲が良い。


中学生になって、二人は友達のグループがなんとなく分かれたらしいけど。


晋は髪を染めたり、喧嘩したりして、もともとヤンチャな感じが更にヤンチャになり悪ガキ順当のルートを辿った。

そして侑はどちらかというと、真面目なグループと遊ぶようになった。

そんな侑は今は有名な進学校に通っている。

タイプは違う二人だけど今も仲が良いのは、それが幼なじみってやつなのかな。

晋は『比奈子がいなかったら、侑ん家に来ることもなくなって侑とは自然と会わなくなってたかも』なんて言ってたけど、私がいなくたって二人は今でも仲が良かったと思う。


逆を言えば侑がいなかったら、晋も変な責任を感じて今も私に構うことなんてしなくて済んだだろうになーとちょっと申し訳なかったり。


さて…そんなことより…


一人になった私はスマホを取りだして、リダイヤルを押した。


芳行の奴…まだ出ない。

……何よ。なんで出ないの?

あれから何時間経ったと思ってるわけ!?

何時間練習に励んでんだよ!?


しばらくスマホとにらめっこをしたが、虚しくなっただけだった。


大体、浮気したのは向こうなのにちょっとキレ気味っておかしくない!?

これが逆ギレってやつ!?


「彼氏?」


急に声を掛けられてビビった。

いつの間にか晋が部屋に入ってきて、壁に背もたれて私を見ていた。


「し……晋はいつもいつも。ノックしろっての!!」

「で、連絡来ないんだ?」


晋はお構い無しに私の隣に腰掛けて、私の手の中にあるスマホをジッと見ていた。


彼氏から連絡待ってて、しかも来ないなんて、なんか格好悪くて話を反らしたかった。


「……侑のところはもういいの?」

「うん、帰ろうと思って。その前に比奈子に会いに」

「はいはい」

「テキトーだな」


私は知っている。

コイツもちゃっかり中学の時にはちゃんと彼女も作ってたみたいだし。

侑からなんとなく聞いた話で本人から直接聞いたわけじゃないけど。


「晋は今は彼女いないの?」

「ん?いない」

「なんで?あんたってモテるんじゃないの?」

「え……モテないよ。つーか、どうしたの?ついに俺に興味持ったとか?」

「ないない」

「切り返し早いって」

「だって晋だもん」

「ひっでー!!」


ギャハハと笑ったあと、晋は私を見つめた。


「じゃあ彼氏は?」

「え?」

「彼氏のどこが好き?」


悪戯っぽい笑顔で小首を傾げた晋の質問に一瞬言葉を詰まらせた。


だって好きなところなんてたくさんある。

ライヴでベースを弾く姿が格好良い。

一心に練習頑張っている姿はもっと格好良い。

でも一番好きなのは優しいところ。


私の嫌がることもしない。


芳行が大好き


…なのに、


繋がらない電話。


浮気。

でも話を聞くまで、まだ浮気かどうかわからない…なんて考えてしまう。


膝を抱えた。


「……大好き。それだけ……」

「………………ふーん、そっか」

「……」

「比奈子?」

「……」

「ひな姉ちゃ~ん?」

「……何?」

「早く仲直りできるといいね」


晋の明るい声に消え入るように「……うん」としか返事が出来なかった。


隣にいた晋が立ち上がる気配がした。


「じゃ、俺は帰るわ!!またねー比奈子ー」


晋が部屋を出ていくのを見送った。

一人取り残された部屋でもう一度膝を抱えて、体を小さくした。


晋が変なこと言うから、芳行との思い出がたくさん蘇る。

去年の文化祭のライヴで一目惚れをした時の瞬間とか

その時の曲とか

杏里を通じて初めて言葉を交わし、

デートに行った場所。

一緒に食べたご飯。

私からの告白。

芳行の笑顔。


どれも大好き。


もう失敗したくない。


だから芳行とちゃんと話し合いたいのにな……。


いつの間にか日も落ちて、外は真っ暗。

カーテンを閉めようと立ち上がったとき、

スマホが鳴った。

メッセージが画面に出た。


『明日の昼休みに会いたいんだけど時間ある?話したいことがある』


それを読んで、深い溜め息をついた。


何故だろう…

何を言われるのか、わかってしまった……ような気がする。

でも会うしかない。

私だって会いたい。

だからすぐに返信をした。



……ー



次の日、芳行が指定してきた場所へ足を運ぶ。

部室棟の裏。

練習していた芳行の休憩時間に二人でジュースを飲みながら、たくさん話したりした思い出の場所のひとつ。

くだらない話しかしてなかったけど、すっごく笑ったのは覚えている。


「比奈子」


名前を呼ばれて、振り返った。

久々の芳行の姿。

ずっと忙しいと言ってて、電話とメールだけだったから。


「久しぶ……り?」

「おぉ、そうだな」


二人で非常階段に腰を掛ける。

いつもの指定席。


「……俺、まどろっこしいの苦手だから言っちゃうけど、」


しかしいつもの会話は始まらない。


「比奈子」

「……」

「俺達、別れようか」


……なんでこうなるの。


「あのさ誤解されたくないから一応言っとくけど、エリとは何にもないから、ホントに。そこだけは」

「……」

「……なんか言えって」


言えと言われても何言えばいいの?


別れたくない

エリって子とホントに何もない?

じゃあなんで別れるの?

エリちゃんと付き合うの?

今までありがとう

バカじゃないの



浮気なんてサイテー

私は芳行のこと……

やり直せない?

信じたい

信じられない


どの言葉が正しいの?


いつもなら…全部言うのに…

“暴走は抑えないと……”


じゃあどうすることが正しいの?

どうすれば、こんな結果にならなかったの?


「……泣くなよ」


私が何かを言う前に芳行の冷たい言葉がポツリと耳に届いた。


「泣くなっつーの」

「……ッッ…」

「泣いてちゃ何もわかんねぇだろ……」

「ーッッ……ッッ…」 

「喋れよ」

「……」

「……はあ、うざっ」


綺麗な別れ方なんて、私は知らない。

暴れたって、大人しくしたって、正解に辿り着けない。

誰か教えてほしい。
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