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番外編
怒鳴らない彼とは似ていない弟
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~sweet brother~
―――――番外編 怒鳴らない彼とは似ていない―――――
「春平の家にお邪魔する時は、いつも誰もいないよね?」
「……まぁ、両親とも働いてるから。だから気にしなくて大丈夫だけど」
ご両親がいないと緊張せずに済むけど、なんだかいつも勝手にコッソリ隙を見て行ってるみたいで、時々『いいのかな?』って逆に心配になったりするんだよね。
『挨拶も無しなんて、なんという図々しい彼女かしら!?』とか思われてないよね!?
とか言いながら、テスト期間で午後の授業が無くなった今日もこれから春平の家へお邪魔しに行くんだけどさ!
「お父さん、お母さんもそうだけど……弟くんも見たことないや」
「……そうだっけ。弟も部活で帰りは遅いから」
「そうなんだ」
隣を歩きながら、春平の横顔を盗み見する。
なんというか……お兄ちゃん…っていう春平もいいな。
私がもし妹だったら……あ、いや!妹だったら彼女になれない!?
それはダメダメ!
私の視線に気付いた春平は「ん?」と聞いてくるけど、ただ見惚れてただけですとは言えず慌てて目を反らした。
「奏」
「ご…ごめんね!!見すぎだったよね!!別に私はその……」
「会いたいのか?」
「へ?」
「俺の家族」
春平がいつもの真顔で聞いてくるだけなのに、なんだか言われたことに照れてしまった。
「会いたい……っていうか、まぁいつかは紹介してもらいたいというか、いつか会うならやっぱり早めに会いたいというか……」
自分の言ったことに一瞬「ん?」と感じた。
紹介って、それは結婚のご挨拶的な……
って!私、想像飛びすぎ!?
でもでも…結婚するなら、そりゃあやっぱり春平とが良いな……
「……奏?」
「わああ!何でもありません!!」
想像っていうか、完全なる妄想です……はい。
一人で勝手に妄想して百面相の私を春平はイヤになったりしないかな?
……心配。
私の指先が小さく握られた。
「……時間が合った時に、ちゃんと……紹介するから」
ポソリと呟かれた言葉に耳まで熱くなりながら、私もチョコッとだけ頷いた。
……———
春平の家に着いて、玄関の鍵を開けようとした春平が「……ん?」と首を傾げた。
「春平、どうかした?」
「鍵が開いてるから……誰かいる」
「ええぇっ!?」
ちょ……!!
嘘!?
お父さんかお母さんがいるってこと!?
いつか会いたいとか言ったけど、すっかり油断して心の準備がっ!!
春平は何のためらいもなくドアを開けた。
わっ!!
だから心の準備が!!
春平の家だから春平にとって当たり前なんだろうけど!!
「ただいま」
……春平の『ただいま』を初めて聞いたかも。
今、全然関係ないけど何故か胸キュンしてしまった。
私……『ただいまフェチ』だったのか……
って、『ただいまフェチ』って何!?
頭の中で一人でアワアワしていたらリビングの扉が開いた。
一人の男の子がヒョコッと顔を出した。
!?
春平が!!
短髪の春平がいる!!
ミニバージョンの春平!!
か……か…可愛っ!!
「……夏月。一人か?部活は?」
「テスト休み」
パチッと夏月くんと目が合った瞬間、夏月くんが笑い出した。
「アハハハハ!!!!やべぇ!!春平が女連れてきたっ!!」
春平に似てる顔が爆笑し出すからビクッと驚いた。
「彼女!?春平の彼女!?」
「…………うん。夏月、挨拶……」
「もうエッチした?」
ちょっぴり眉間にシワを寄せた春平が靴脱いで玄関を上がり、夏月くんに近付いたら夏月くんは何故か嬉しそうに「やべっ!!」と叫びながら2階へと階段を駆け上がった。
あっという間に逃げられたって感じ。
「……」
「……」
振り返った春平が眉をポリポリと掻いた。
「……ごめん」
「あ……いやいやいや!!こっちこそごめん!!挨拶し損ねた!!」
「……今のが……弟の夏月」
思いがけないタイミングで弟くんとの対面を果たした。
いつもの春平の部屋に入れてもらって腰を下ろしてから春平がまた謝ってきた。
「ごめん、夏月があんな感じだったから……ちゃんと紹介できなかった」
あ……春平……さっき言ったこと、ちゃんとしてくれようとしてたんだ。
それだけで嬉しい!!
「アハハハ、小5?小6?……そんぐらいの男の子ならあんなもんじゃん!!生意気元気ぐらいが可愛いって!!」
「……アイツ、一応中学生」
「えぇっ!?ご……ごめん!!いやなんというか……えっと」
「いや、大丈夫。一番末っ子だから家族に甘やかされて……。同じ中一の中でも幼いのは確か……だと思う」
「アハハ。でもいいなぁ~。私は一人っ子だから。弟いるって楽しそうだな~」
「………………悪い子じゃないんだけど」
『両親が』じゃなくて『家族で』ってことは春平も甘やかしてる一員ってことなんだよね。
春平がちゃんと『お兄ちゃん』してる。
思わずクスクス笑った。
「春平は夏月くんが可愛いんだね」
声に出して笑うと、春平はそんな私をジッと見つめた。
「……何か可笑しい?」
「うぅん!!可笑しくないよ!!可愛がってるお兄ちゃんな感じの春平が良いなって思っただけ」
「……」
手を付いて少し重心をこちらに寄せた春平が私との距離を縮めた。
「……しゅん……」
「……奏のことも……可愛いと思ってるよ」
わっ……。
顔を赤くして固まっていると、目の前の春平は眩しそうに目を細めフッと小さく笑った。
少し目を伏せた春平に私も目を閉じた。
唇が触れる直前に隣の部屋から大きな物音とその後に笑い声が聞こえてきた。
私も春平もビクッとしたあと、固まった。
私はさっき以上に顔が真っ赤になったと思う。
春平は気まずそうに目だけ左右に揺らしたあと、私から離れた。
「……奏、ごめん。隣……弟の部屋なんだ……友達連れてきてるのかも」
「わ……私も、ごめ……。私は試験勉強に来たんでした」
「……なんか飲み物取りにいってくる」
ササッと私から離れて春平は部屋を出て行ってしまった。
一人にされた私は両手で顔を覆って縮こまった。
ああぁ~!!恥ずかしい!!
春平の家族がいる家で私はなんてハレンチな!!
ガチャッとドアが開いたから、またまたビクッとした。
ドアの先には笑っているミニマム春平……もとい夏月くんがニヤニヤと楽しそうに笑っている。
「な?な?春平、女連れてきてるだろ?」
「ダメだよ、カーくん……勝手にシュンくんの部屋開けちゃ……」
ん?もう一人いる……女の子?
勇気を出して私もドア付近へ行った。
二人とも私が近付いてくるとは思わなかったのか、ちょっぴりビックリ顔をした。
「えっと、はじめまして。塚本奏です」
春平より背は低いけど私と同じぐらいの背で、こうやって近くで見たら確かに中学生に見えなくもない?
女の子は慌てて頭を下げてくれたけど、夏月くんはキョトンとしたあと、グイッと私を押したあと一緒に部屋へ入ってきた。
「カーくん?」
「トーコは俺の部屋に帰ってろ!!」
今度は私がキョトンとなる番で、夏月くんと何故か二人で向かい合って座った。
「え~っと、さっきの子って夏月くんの彼女?」
「は?ちげぇし!!キモいこと言うなよババァ!!」
「ば…!?」
いつも真葵にはバカとか言われるけどババァって言われる事は初めてでリアクションに困った。
だけど夏月くんはすぐに楽しそうにクスクス笑って、ナイショ事を教えるように声を潜めた。
「あのさ、知ってる?」
顔は似てるけど春平とは反対でコロコロ表情変わる子だなぁ。
「さっきのアイツ……幼稚園の時、春平のこと好きだったんだぜ!!」
「へ?」
「初恋!!トーコのやろう失恋!!笑える!!」
え~っと、よくわからないけど……夏月くんは凄く楽しそうに笑っている。
だから釣られて私も笑った。
「アハハハ、じゃあ私と同じだなぁ」
「は?」
「私も春平が初恋なんだよ」
って、春平の弟相手に何の告白してんだか!!私!!
照れる気持ちをエヘエヘ笑って誤魔化した。
「……なぁ、アンタって本当に春平のことが好きなの?」
「えぇっ!?……うん、そうだよ」
そりゃあ初恋とか言い出したのは私の方だけど、改めて聞かれて答えるのは恥ずかしいな。
「へぇ~、どこが好きなの?」
し……質問攻め!!
「や……優しいところとか……かな?」
夏月くんは「ふ~ん?」と口を尖らせた。
「春平ってさ、」
「うん?」
「俺がどんなに我が侭言ったって、さっきみたいなこと言ったって怒らないんだ」
「さっきって……あぁ、玄関の時の」
「でもさ、怒鳴らないからって怒ってないわけじゃねぇから」
「え?」
「俺が間違った時はちゃんと言ってくるから。怒らないけどめっちゃ怒ってくるから」
「……そう……なんだ」
「そういう……」
夏月くんはスッと真顔で私を見つめてきた。
「春平のそういう怒鳴らない所を優しいって言ってるんなら違うから!!春平が怒らないからって何でもしていいワケじゃねぇから!!調子乗んなよ!?」
あぁ……真顔でこうやって一生懸命に言う時はやっぱり春平にソックリだな。
そして春平の優しさを履き違えることなく、春平のことが好きなんだなって思った。
心の奥が暖かくなる。
「うん」
私は微笑んで頷いた。
「わかった」
春平が夏月くんを可愛がっているように夏月くんも春平のことが大事なんだなって思うと嬉しく思う。
だからさっきのような照れた返事じゃなくてハッキリと言える。
「ちゃんと大切にします」
私の返事に納得したのか夏月は歯を見せて笑ってくれた。
やっぱり笑顔はあんまり春平に似てない。
「夏月くんは優しいね」
「は?」
「だって春平のことが心配だから、こうやって釘差しにきたんでしょ?」
「は?マジ意味不明!!キモっ!!」
夏月くんは立ち上がって部屋のドアを開けた。
するとタイミングよく春平が戻ってきていた。
「……夏月?」
「ハハハ!!春平のムッツリスケベ!!」
イタズラ成功!みたいな笑顔をしたあと夏月くんはピュッと部屋を走って出ていこうとした。
でも春平が後ろから夏月くんの襟首をムンズと掴んだ。
二回目の逃亡は許してもらえなかったらしい。
「ぎゃあーしまったぁー!!」
「夏月、今何て言った?」
「だってレンが言ってたもん!!春平はムッツリって!!」
「……奏、ごめん。ちょっと待ってて」
夏月くんを連れて廊下に出た春平は部屋のドアを閉めた。
夏月くんの叫び声が聞こえてくるけど、聞き様によっちゃ楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいるようにも聞こえる。
怒らないけど怒る春平か……。
ちょっとだけ新鮮。
まだまだ私が知らない春平の顔もあるんだなぁ。
数分して春平は帰ってきた。
「アハハハ、夏月くんに何してたの?」
「……別に。……ちょっとグリグリしてやっただけ」
まさかの武力行使だった。
男兄弟って感じだ。
「二人兄弟仲が良いんだね!!」
「……大丈夫?何か変なこと言わなかったか?アイツ……」
「うぅん。……あ、夏月くんと一緒にいた女の子の初恋が春平って言ってたよ?」
「……え?」
「えっと、トーコちゃんって言ってた」
「……………………あぁ、菊池の妹」
「え……菊池くん……あ!!さっきの『レン』も菊池くんか!!」
そっか、菊池くん家と春平家は兄弟みんな仲良しなんだ。
「あ、あとちょっとだけ春平の彼女審査されちゃった」
「うん?」
「大丈夫!!きっと合格しました!!」
だって春平が好きだっていう私の気持ちは本気だもん!!
春平にVサインを見せたけど、春平はわからないまま首を傾げた。
春平が大好きな弟くんとこんなにも春平のことが大好きな私。
絶対仲良くなれる気がする。
今度、夏月くんに何かお菓子でもあげようかな?
―――――番外編 怒鳴らない彼とは似ていない―――――
「春平の家にお邪魔する時は、いつも誰もいないよね?」
「……まぁ、両親とも働いてるから。だから気にしなくて大丈夫だけど」
ご両親がいないと緊張せずに済むけど、なんだかいつも勝手にコッソリ隙を見て行ってるみたいで、時々『いいのかな?』って逆に心配になったりするんだよね。
『挨拶も無しなんて、なんという図々しい彼女かしら!?』とか思われてないよね!?
とか言いながら、テスト期間で午後の授業が無くなった今日もこれから春平の家へお邪魔しに行くんだけどさ!
「お父さん、お母さんもそうだけど……弟くんも見たことないや」
「……そうだっけ。弟も部活で帰りは遅いから」
「そうなんだ」
隣を歩きながら、春平の横顔を盗み見する。
なんというか……お兄ちゃん…っていう春平もいいな。
私がもし妹だったら……あ、いや!妹だったら彼女になれない!?
それはダメダメ!
私の視線に気付いた春平は「ん?」と聞いてくるけど、ただ見惚れてただけですとは言えず慌てて目を反らした。
「奏」
「ご…ごめんね!!見すぎだったよね!!別に私はその……」
「会いたいのか?」
「へ?」
「俺の家族」
春平がいつもの真顔で聞いてくるだけなのに、なんだか言われたことに照れてしまった。
「会いたい……っていうか、まぁいつかは紹介してもらいたいというか、いつか会うならやっぱり早めに会いたいというか……」
自分の言ったことに一瞬「ん?」と感じた。
紹介って、それは結婚のご挨拶的な……
って!私、想像飛びすぎ!?
でもでも…結婚するなら、そりゃあやっぱり春平とが良いな……
「……奏?」
「わああ!何でもありません!!」
想像っていうか、完全なる妄想です……はい。
一人で勝手に妄想して百面相の私を春平はイヤになったりしないかな?
……心配。
私の指先が小さく握られた。
「……時間が合った時に、ちゃんと……紹介するから」
ポソリと呟かれた言葉に耳まで熱くなりながら、私もチョコッとだけ頷いた。
……———
春平の家に着いて、玄関の鍵を開けようとした春平が「……ん?」と首を傾げた。
「春平、どうかした?」
「鍵が開いてるから……誰かいる」
「ええぇっ!?」
ちょ……!!
嘘!?
お父さんかお母さんがいるってこと!?
いつか会いたいとか言ったけど、すっかり油断して心の準備がっ!!
春平は何のためらいもなくドアを開けた。
わっ!!
だから心の準備が!!
春平の家だから春平にとって当たり前なんだろうけど!!
「ただいま」
……春平の『ただいま』を初めて聞いたかも。
今、全然関係ないけど何故か胸キュンしてしまった。
私……『ただいまフェチ』だったのか……
って、『ただいまフェチ』って何!?
頭の中で一人でアワアワしていたらリビングの扉が開いた。
一人の男の子がヒョコッと顔を出した。
!?
春平が!!
短髪の春平がいる!!
ミニバージョンの春平!!
か……か…可愛っ!!
「……夏月。一人か?部活は?」
「テスト休み」
パチッと夏月くんと目が合った瞬間、夏月くんが笑い出した。
「アハハハハ!!!!やべぇ!!春平が女連れてきたっ!!」
春平に似てる顔が爆笑し出すからビクッと驚いた。
「彼女!?春平の彼女!?」
「…………うん。夏月、挨拶……」
「もうエッチした?」
ちょっぴり眉間にシワを寄せた春平が靴脱いで玄関を上がり、夏月くんに近付いたら夏月くんは何故か嬉しそうに「やべっ!!」と叫びながら2階へと階段を駆け上がった。
あっという間に逃げられたって感じ。
「……」
「……」
振り返った春平が眉をポリポリと掻いた。
「……ごめん」
「あ……いやいやいや!!こっちこそごめん!!挨拶し損ねた!!」
「……今のが……弟の夏月」
思いがけないタイミングで弟くんとの対面を果たした。
いつもの春平の部屋に入れてもらって腰を下ろしてから春平がまた謝ってきた。
「ごめん、夏月があんな感じだったから……ちゃんと紹介できなかった」
あ……春平……さっき言ったこと、ちゃんとしてくれようとしてたんだ。
それだけで嬉しい!!
「アハハハ、小5?小6?……そんぐらいの男の子ならあんなもんじゃん!!生意気元気ぐらいが可愛いって!!」
「……アイツ、一応中学生」
「えぇっ!?ご……ごめん!!いやなんというか……えっと」
「いや、大丈夫。一番末っ子だから家族に甘やかされて……。同じ中一の中でも幼いのは確か……だと思う」
「アハハ。でもいいなぁ~。私は一人っ子だから。弟いるって楽しそうだな~」
「………………悪い子じゃないんだけど」
『両親が』じゃなくて『家族で』ってことは春平も甘やかしてる一員ってことなんだよね。
春平がちゃんと『お兄ちゃん』してる。
思わずクスクス笑った。
「春平は夏月くんが可愛いんだね」
声に出して笑うと、春平はそんな私をジッと見つめた。
「……何か可笑しい?」
「うぅん!!可笑しくないよ!!可愛がってるお兄ちゃんな感じの春平が良いなって思っただけ」
「……」
手を付いて少し重心をこちらに寄せた春平が私との距離を縮めた。
「……しゅん……」
「……奏のことも……可愛いと思ってるよ」
わっ……。
顔を赤くして固まっていると、目の前の春平は眩しそうに目を細めフッと小さく笑った。
少し目を伏せた春平に私も目を閉じた。
唇が触れる直前に隣の部屋から大きな物音とその後に笑い声が聞こえてきた。
私も春平もビクッとしたあと、固まった。
私はさっき以上に顔が真っ赤になったと思う。
春平は気まずそうに目だけ左右に揺らしたあと、私から離れた。
「……奏、ごめん。隣……弟の部屋なんだ……友達連れてきてるのかも」
「わ……私も、ごめ……。私は試験勉強に来たんでした」
「……なんか飲み物取りにいってくる」
ササッと私から離れて春平は部屋を出て行ってしまった。
一人にされた私は両手で顔を覆って縮こまった。
ああぁ~!!恥ずかしい!!
春平の家族がいる家で私はなんてハレンチな!!
ガチャッとドアが開いたから、またまたビクッとした。
ドアの先には笑っているミニマム春平……もとい夏月くんがニヤニヤと楽しそうに笑っている。
「な?な?春平、女連れてきてるだろ?」
「ダメだよ、カーくん……勝手にシュンくんの部屋開けちゃ……」
ん?もう一人いる……女の子?
勇気を出して私もドア付近へ行った。
二人とも私が近付いてくるとは思わなかったのか、ちょっぴりビックリ顔をした。
「えっと、はじめまして。塚本奏です」
春平より背は低いけど私と同じぐらいの背で、こうやって近くで見たら確かに中学生に見えなくもない?
女の子は慌てて頭を下げてくれたけど、夏月くんはキョトンとしたあと、グイッと私を押したあと一緒に部屋へ入ってきた。
「カーくん?」
「トーコは俺の部屋に帰ってろ!!」
今度は私がキョトンとなる番で、夏月くんと何故か二人で向かい合って座った。
「え~っと、さっきの子って夏月くんの彼女?」
「は?ちげぇし!!キモいこと言うなよババァ!!」
「ば…!?」
いつも真葵にはバカとか言われるけどババァって言われる事は初めてでリアクションに困った。
だけど夏月くんはすぐに楽しそうにクスクス笑って、ナイショ事を教えるように声を潜めた。
「あのさ、知ってる?」
顔は似てるけど春平とは反対でコロコロ表情変わる子だなぁ。
「さっきのアイツ……幼稚園の時、春平のこと好きだったんだぜ!!」
「へ?」
「初恋!!トーコのやろう失恋!!笑える!!」
え~っと、よくわからないけど……夏月くんは凄く楽しそうに笑っている。
だから釣られて私も笑った。
「アハハハ、じゃあ私と同じだなぁ」
「は?」
「私も春平が初恋なんだよ」
って、春平の弟相手に何の告白してんだか!!私!!
照れる気持ちをエヘエヘ笑って誤魔化した。
「……なぁ、アンタって本当に春平のことが好きなの?」
「えぇっ!?……うん、そうだよ」
そりゃあ初恋とか言い出したのは私の方だけど、改めて聞かれて答えるのは恥ずかしいな。
「へぇ~、どこが好きなの?」
し……質問攻め!!
「や……優しいところとか……かな?」
夏月くんは「ふ~ん?」と口を尖らせた。
「春平ってさ、」
「うん?」
「俺がどんなに我が侭言ったって、さっきみたいなこと言ったって怒らないんだ」
「さっきって……あぁ、玄関の時の」
「でもさ、怒鳴らないからって怒ってないわけじゃねぇから」
「え?」
「俺が間違った時はちゃんと言ってくるから。怒らないけどめっちゃ怒ってくるから」
「……そう……なんだ」
「そういう……」
夏月くんはスッと真顔で私を見つめてきた。
「春平のそういう怒鳴らない所を優しいって言ってるんなら違うから!!春平が怒らないからって何でもしていいワケじゃねぇから!!調子乗んなよ!?」
あぁ……真顔でこうやって一生懸命に言う時はやっぱり春平にソックリだな。
そして春平の優しさを履き違えることなく、春平のことが好きなんだなって思った。
心の奥が暖かくなる。
「うん」
私は微笑んで頷いた。
「わかった」
春平が夏月くんを可愛がっているように夏月くんも春平のことが大事なんだなって思うと嬉しく思う。
だからさっきのような照れた返事じゃなくてハッキリと言える。
「ちゃんと大切にします」
私の返事に納得したのか夏月は歯を見せて笑ってくれた。
やっぱり笑顔はあんまり春平に似てない。
「夏月くんは優しいね」
「は?」
「だって春平のことが心配だから、こうやって釘差しにきたんでしょ?」
「は?マジ意味不明!!キモっ!!」
夏月くんは立ち上がって部屋のドアを開けた。
するとタイミングよく春平が戻ってきていた。
「……夏月?」
「ハハハ!!春平のムッツリスケベ!!」
イタズラ成功!みたいな笑顔をしたあと夏月くんはピュッと部屋を走って出ていこうとした。
でも春平が後ろから夏月くんの襟首をムンズと掴んだ。
二回目の逃亡は許してもらえなかったらしい。
「ぎゃあーしまったぁー!!」
「夏月、今何て言った?」
「だってレンが言ってたもん!!春平はムッツリって!!」
「……奏、ごめん。ちょっと待ってて」
夏月くんを連れて廊下に出た春平は部屋のドアを閉めた。
夏月くんの叫び声が聞こえてくるけど、聞き様によっちゃ楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいるようにも聞こえる。
怒らないけど怒る春平か……。
ちょっとだけ新鮮。
まだまだ私が知らない春平の顔もあるんだなぁ。
数分して春平は帰ってきた。
「アハハハ、夏月くんに何してたの?」
「……別に。……ちょっとグリグリしてやっただけ」
まさかの武力行使だった。
男兄弟って感じだ。
「二人兄弟仲が良いんだね!!」
「……大丈夫?何か変なこと言わなかったか?アイツ……」
「うぅん。……あ、夏月くんと一緒にいた女の子の初恋が春平って言ってたよ?」
「……え?」
「えっと、トーコちゃんって言ってた」
「……………………あぁ、菊池の妹」
「え……菊池くん……あ!!さっきの『レン』も菊池くんか!!」
そっか、菊池くん家と春平家は兄弟みんな仲良しなんだ。
「あ、あとちょっとだけ春平の彼女審査されちゃった」
「うん?」
「大丈夫!!きっと合格しました!!」
だって春平が好きだっていう私の気持ちは本気だもん!!
春平にVサインを見せたけど、春平はわからないまま首を傾げた。
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