チョコレート中毒には理由[ワケ]がある

駿心

文字の大きさ
5 / 7

5. 私は素直になれないセミスイート

しおりを挟む
◇◇◇◇

「藤子、しっかりね!!受験票ちゃんと持った?消しゴムとかも忘れてない?学校までお母さん一緒に行こうか?」

「いいよ。前に学校でも友達と一緒に行って確認した時もあるし、今日も友達と一緒だし……大丈夫だから」

「落ち着いて、いつも通りの気持ちで一問一問解けばいいんだからね」

「うん」

「夏月くんにも勉強見てもらったんだから、きっと大丈夫だから」

「……うん」

「じゃあ、いってらっしゃい!!」


受験当日。

ついにこの日が来た。


加藤さんにあんなこと言ったのに、まだカー君と話せてない。

『家に行かない』って言ってても学校で話すのはアリ?……なんて未練タラタラな発想もしつつカー君の姿を探したりもしたけど……。

学校でカー君の後ろ姿を見つけただけで逃げてしまったりしている。


こんなテンションのまま受験しても私は果たして、ちゃんと問題を解けるのかな……。


友達と待ち合わせをしてから、受験会場となる学校に着いてからも私は不安な気持ちのままだった。

私……専願なのに、これ失敗したら……どうしよう。


だけど、不思議と……試験用紙を開けば……



『トーコ、説明すんぞ』



自然と落ち着いた気持ちで、問題を読めた。

そしてカー君の解説が頭の中で聞こえてきて、鉛筆を握る力も程よく抜けて、書く文字も軽かった。


◇◇◇◇


試験が終わった頃にはすっかり辺りは暗くなっていて、だけどスッキリした気分だった。

まだ合格したかどうかはわからないけど、もし合格したら……きっとカー君のおかげだ。


カー君はもう家……かな?


……もう行かないって言ったけど。

お礼!

お礼を言わないと。

お家に行っても、お礼言って、パッと帰れば……大丈夫!!


お礼で……、

……


やっぱり都合良すぎかな?


落ち込んだときは……チョコレートだ。


私は駅から家の途中のコンビニに寄った。



『チョコ中毒は欲求不満の証拠なんだぜ』



……

う……チョコじゃなくてたまにはポテトチップスとかにしようかな?

あー……でもポテチは太る……って結局カー君のイジワルな言葉が頭によぎる。

コンビニのガラスドアを一枚越えただけで冷たい空気から温かいものに変わった。


「あれ、菊池さんじゃん。やっほー」


入り口すぐに名前を呼ばれてビックリした。


「や……矢上くん?」

「え!!俺の名前覚えてた?良かった~」


そこにいたのはカー君の友達グループの一人で、バスケ部も一緒だった人。

話したことはあまりないけど、名前ぐらいは知っている。

黒くて短くツンツンにセットされている髪の下にはタレ目でワンコのような笑顔だった。


「カトー。ほら、菊池さ~ん」


矢上くんが私を指差しながら後ろを見ると、その視線の先にはレジにいる加藤さんだった。

おつりを受け取りながらこっちを見た加藤さん「げっ、またかよ」ってやっぱり嫌そうな顔をした。

二人とも私服だったから、学校から帰ってからコンビニまで来たのかな。


「あ……その……二人は一体……」

「んー、カトーが振られたから慰め会開いてやってんの」

「バカ!!言いふらすな!!てめぇ殺すぞ!!」

「……振られた?」


私が首を傾げると加藤さんはベーと舌を出して、プイッとコンビニから出ていってしまった。

そんな加藤さんに矢上くんは慌てて追いかけるわけでもなく、加藤さんを見たあと私の方を見た。


「ところで夏月の様子はどう?やっぱアイツでも受験前でイライラしてるわけ?」

「え?」

「だってここ最近、夏月のヤツがひでーの。イライラしっぱなしで。俺が一番の被害者。菊池さん、もう今日で試験終わったんでしょ?結果発表まで落ち着かねぇかもしんねぇけど、アイツのフォローしてやってよ」

「でも……その、私なんかじゃ余計にイライラさせちゃうかも。それにクラスも違うし、そういうのは矢上くんがしてあげた方が……」

「いや、俺はアッチのフォローで忙しいから」


ケラケラと何故か楽しそうに笑う矢上くんは外にいる加藤さんを親指で差した。

逆に加藤さんはイライラした様子でコッチを見て矢上くんを待っている。


「……矢上くん」

「なに?」

「えっと……もしかして加藤さんのことが好きなんですか?」


あ……すっごく無神経に立ち入ったこと聞いちゃってる……かも。

こんなんだからカー君に『お前はバカだ』って言われちゃうんだ。

だけど矢上くんはイヤな顔もせず、意味ありげにニターッと笑うだけだった。

そして私の質問に対して答えも返さず、「バイバ~イ」とドアを開けて加藤さんの元へ行ってしまった。


カー君が……イライラ?

勉強……大変だから?


イライラする時は……


チョコだ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...