ヒロインの娘

小さな鑑定士

15

「お待ちください。」
外が騒がしいので、様子を見に行った執事のワトソンの慌てた声が響く。
各ギルドや教会からの客人も多いが、ワトソンは上手に捌いてくれていた。

今日は食堂で家族が揃って朝食を食べている。ここ3日間は、私も含めて皆が忙しくて久しぶりに全員が揃った。

「こちらで良いんだな！！」

張りのある声が響くのと同時にドアがあくと、そこには赤い髪を振り乱し、ドレスであっただろう物を身につけた初老の女性が立っていた。

叔父様とマイク兄さんはそれぞれに自分の嫁の前に立ち。私の前にはケイン、ソイルの二人の兄が手にナイフを持って守ってくれている。

「無作法申し訳ない。そなたがアンドレア男爵殿で間違いないか」

ワトソンが後ろから、いつでも攻撃出来るようにかまえた。

「そうです。私がハイド・アンドレアです。」

そう、叔父が答えた瞬間に、女性が膝をつき土下座のような姿勢をとった。

えっ！？
誰？？？
土下座って、この世界にあるの？

皆が呆然としめ動けないでいると

「私は、カーミラ・ランバードと申します。無作法、無礼申し訳ありません。侯爵のお話を伺い、『船乗り病』の治療方法があるかもしれない。と聞いて、居ても立ってもいられず直接お伺いをさせていただきました。
私へのお怒りは、何をしても購いますので、どうぞランバードを助けてください。」

カーミラ様だった。
すごい怖い！！
この時間にここにいる。ってことは夜通し馬をかけてきたのかな？
すごい状態になっている。
辺境伯って、侯爵と同列以上の家の人なのに男爵である叔父に膝をつくなんて。

母も前侯爵も治療の話をする時に男爵家の話はしないと思うんだけど、
この迫力と真剣さに負けてしまったんだろうか？。
ちゃんと注意しておかなければなぁー。

「お顔をあげてください。」

叔母と義姉(従兄弟の嫁だけど)が両側から支えるようにカーミラ様を立たせた。

いっ、いつのまに？？
私と男どもは立ち尽くしたままなのに。

「詳しくは、お茶をしながらお話をしましょう。ハイド様、それでよろしいですよね？」

もう、ただ頷くしか出来ない叔父様

「さぁ、カーミラ様。私たちと一休み致しましょう。」

「しかし、まだ………」

叔母に促されながらも抵抗する。

「大丈夫ですよ。きっと義父様が何とかしてくれます。今のままではお話も出来ません。」

義姉にも促され、部屋を出る。
高位貴族の夫人とは思えない様子に
彼女の心労の大きさが物語っていた。