死に損ないの春吹荘 

ちあ

文字の大きさ
14 / 64
二章 学校での立場とは

生徒会裏会議

しおりを挟む
 LINE事件が終わって、しばらくした頃。
 いつも人の集まっている生徒会室ーーーではなく、もう使われなくなった一階の隅にある小さな教室に、凌と朱音を除いた生徒会メンバーが集まっていた。
「みんな来てくれてサンキューね」
 一番初めにこの部屋に来ていて、今回の話し合いの場を設けたみさかが言う。
「文札さんに頼まれたら断れないですけどね」
「……頼みじゃなくて、脅迫……」
 古びた机の上にクッションを敷き、うつ伏せになる状態でうつらうつらしていた明夢都が小さく抗議する。
「まぁ、いーんじゃねーの?」
 と、こちらはこちらで呑気に持ち込み禁止のジュースを飲みながら、真文は言う。
「まーいーじゃん?」
 と、明るく話せていたのはここまで。みさかが真剣な面持ちになり話を始めた。

「凌について、話そうよ」

 口調は軽くとも、声がいつもの明るい声と違って、重たさを感じさせる。
「……だね……」
 明夢都も顔を上げ、クッションを抱えて頷く。
「そのためにきましたからね」
「よくわかんねーけど、ま、話せばいーんだろ?」
 二人もそう答える。
「じゃ、はじめよ。生徒会裏会議を、さ……」
 みさかがそう言うと、舞鶴が進行を始める。
「それじゃあ、まず、この裏会議の意義について話す」
「簡単に頼むー」
「……んとね……、最近おかしくなった……磯木さんについて……の話を、する会……」
 うつらうつらするように、ゆっくりと明夢都は語る。
「んと……よーするに、会長のこと話すんだな!」
「ま、まぁ、そんな感じ~かな?」
 みさかは、真文の理解の方法に納得はしないまでも相槌を打つ。
「そうですね。 じゃ、いつ頃から変わったか、ですけど……」
「去年の夏あたりから、今年にかけてだよね、それは」
「……の、せいかも」
 明夢都が聞き取れないほど小さな声で何やら呟く。
「なんつったんだ、明夢都」
「お前、一応先輩だからな?」
「いーじゃん」
「いーよ……」
「いいんですか……」
 多少のコントも挟んだところで、明夢都が話しだす。
「あのね……昔、ずっと、磯木さんと、張り合うと言うか……対立していた、人が、いたんだ……」
「いたか?」
「さぁ……?」
 中学三年の二人は首を傾げる。
「あぁ、いたね。たしか、君たちが小六になる頃ぐらいに、張り合うの降りてたけど」
 うんうん、とみさかは頷く。
 たしか、あの人は、『諸事情により降りさせてもらう。というか、そもそも対立したいと思ってないから』なんて言って、降りたんだよねー。
「……それもあったり……帝先輩が、最近……成長、してるから……」
「完璧を求める故に病んでいってるって言いたいんだね、明夢都は」
「……うん……」
 いつも、いつも磯木凌という人間は完璧を求めていた。
 自分がいつも一番であれば、そうでなくては。そんな考えを持っていた。高校に上がる前はよかった。いや、中学三年の頃は少し危うかったけど、まだマシだった。
 けれど、帝宵衣が、本気を出すというのか、天才と呼ぶ域を超えるくらいの実力をつけ始めた。
 その頃からだ、少しおかしくなっていったのは。周りからのプレッシャーしかり、自分のプライドしかり……彼は完璧であることで今まで精神を保っている面があったから。
 病んでいった。
 四百点満点中の三百九十四点なんて、高校二年で滅多に取れる点でもないし、学年気にせず学力を測っても、彼は学園二位の実力を持っている。
 ……でも、帝宵衣には追いつけない。その焦りからか、この頃はおかしな指示を出すようになったしまった。
 それに今回、帝宵衣とは一点差だったけれど、帝は本当はオールパーフェクトのはず。なのに、灰咲先生からの字の汚さというある意味ひいきの減点をされたから、一点差になった。
 それを引きずってるのかな。
「焦りよ、きっと」
「焦り、ですか?」
「なににだー?」
「帝宵衣に勝てない焦り。完璧でいられない焦り。自尊心と、周りからの期待からの焦り。……そのせいで病んだんだよ、きっと」
 私は、そう答えを出した。
 あの頃とは、とても似つかない今の彼に少し怯えを抱きながら。
「あの頃は、とてもこんなのではなかったのに……」
 自分が思っていることを言い当てられると人はこうも驚くのか、私はドキリとした。
「そう思いませんか?」
 きっと、舞鶴もおんなじ考えだったんだ。彼が自分たちに手を差し伸べてくれたときは、こんなのじゃなかったのに。どこで変わってしまったのかと。
「オレをここに連れてきてくれたのになー」
 真文は、よく自分が置かれていた状況をまだ理解していない。けれど、ここに来れたことを喜んでいるから、恩は感じているのだと思う。
 いつも、一人でいたがる明夢都だって、恩義を感じて、少しでも支えになりたいと、今回参加してくれた。
 舞鶴だって、変なオーダーを訝しみつつ、ちゃんと受け、その裏でどうにか前の人格に直そうと努力している。
 それは、私だって。
 凌には、返しきれない恩がある。
「この恩を返すまでは、生徒会であり続けよう」
「返しきれないと思いますけどね」
「……がんばるしか、ない……」
「よくわかんねーけど、がんばるぞっ」
 三人は、私の言葉に答えてくれた。



 空き教室の扉の横に一つの影がある。
 その影は、壁にもたれかかりながら、スマホをいじる。

『 同期組 (三)
* どうなの、学校は
? どうもこうも面白くなってきた
? 生徒会の事情が見えてきた
* どういう意味かわかるようにして
& ここで話すことか?
& こちらは仕事が立て込んでるのだが?
& ゴタゴタをするなら、個人でしてもらいたい
? 別にいいだろ、お前にも関係あるよ、&。
* あんたの可愛い可愛いアノコのためだし
& 可愛い可愛いアノコ……?
& いや、アレは可愛くねーだろ
* 本人に聞かれたら、殺されるわよ?
? だなーww
& ……知ってるよ
& で、なにしろっての?
? 今から名前を出すやつを調べろ
& 何を使って?
* 全てを使って
& お前もやれよ
* もちろん
? オレはこっちで探り入れるわ
& じゃ、また三日後に 
& 時間をとっておく。
& 時刻は折行って。
* りょーか~い
? わかった
& じゃあな
* またね
? おう。』

 影ーーー理人は、スマホをしまうと、
「面白くなってきたねぇ~」
と呟いて、そこをさっていった。
 まだ中では、会議が繰り広げられているーーー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...