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二章 学校での立場とは
生徒会裏会議
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LINE事件が終わって、しばらくした頃。
いつも人の集まっている生徒会室ーーーではなく、もう使われなくなった一階の隅にある小さな教室に、凌と朱音を除いた生徒会メンバーが集まっていた。
「みんな来てくれてサンキューね」
一番初めにこの部屋に来ていて、今回の話し合いの場を設けたみさかが言う。
「文札さんに頼まれたら断れないですけどね」
「……頼みじゃなくて、脅迫……」
古びた机の上にクッションを敷き、うつ伏せになる状態でうつらうつらしていた明夢都が小さく抗議する。
「まぁ、いーんじゃねーの?」
と、こちらはこちらで呑気に持ち込み禁止のジュースを飲みながら、真文は言う。
「まーいーじゃん?」
と、明るく話せていたのはここまで。みさかが真剣な面持ちになり話を始めた。
「凌について、話そうよ」
口調は軽くとも、声がいつもの明るい声と違って、重たさを感じさせる。
「……だね……」
明夢都も顔を上げ、クッションを抱えて頷く。
「そのためにきましたからね」
「よくわかんねーけど、ま、話せばいーんだろ?」
二人もそう答える。
「じゃ、はじめよ。生徒会裏会議を、さ……」
みさかがそう言うと、舞鶴が進行を始める。
「それじゃあ、まず、この裏会議の意義について話す」
「簡単に頼むー」
「……んとね……、最近おかしくなった……磯木さんについて……の話を、する会……」
うつらうつらするように、ゆっくりと明夢都は語る。
「んと……よーするに、会長のこと話すんだな!」
「ま、まぁ、そんな感じ~かな?」
みさかは、真文の理解の方法に納得はしないまでも相槌を打つ。
「そうですね。 じゃ、いつ頃から変わったか、ですけど……」
「去年の夏あたりから、今年にかけてだよね、それは」
「……の、せいかも」
明夢都が聞き取れないほど小さな声で何やら呟く。
「なんつったんだ、明夢都」
「お前、一応先輩だからな?」
「いーじゃん」
「いーよ……」
「いいんですか……」
多少のコントも挟んだところで、明夢都が話しだす。
「あのね……昔、ずっと、磯木さんと、張り合うと言うか……対立していた、人が、いたんだ……」
「いたか?」
「さぁ……?」
中学三年の二人は首を傾げる。
「あぁ、いたね。たしか、君たちが小六になる頃ぐらいに、張り合うの降りてたけど」
うんうん、とみさかは頷く。
たしか、あの人は、『諸事情により降りさせてもらう。というか、そもそも対立したいと思ってないから』なんて言って、降りたんだよねー。
「……それもあったり……帝先輩が、最近……成長、してるから……」
「完璧を求める故に病んでいってるって言いたいんだね、明夢都は」
「……うん……」
いつも、いつも磯木凌という人間は完璧を求めていた。
自分がいつも一番であれば、そうでなくては。そんな考えを持っていた。高校に上がる前はよかった。いや、中学三年の頃は少し危うかったけど、まだマシだった。
けれど、帝宵衣が、本気を出すというのか、天才と呼ぶ域を超えるくらいの実力をつけ始めた。
その頃からだ、少しおかしくなっていったのは。周りからのプレッシャーしかり、自分のプライドしかり……彼は完璧であることで今まで精神を保っている面があったから。
病んでいった。
四百点満点中の三百九十四点なんて、高校二年で滅多に取れる点でもないし、学年気にせず学力を測っても、彼は学園二位の実力を持っている。
……でも、帝宵衣には追いつけない。その焦りからか、この頃はおかしな指示を出すようになったしまった。
それに今回、帝宵衣とは一点差だったけれど、帝は本当はオールパーフェクトのはず。なのに、灰咲先生からの字の汚さというある意味ひいきの減点をされたから、一点差になった。
それを引きずってるのかな。
「焦りよ、きっと」
「焦り、ですか?」
「なににだー?」
「帝宵衣に勝てない焦り。完璧でいられない焦り。自尊心と、周りからの期待からの焦り。……そのせいで病んだんだよ、きっと」
私は、そう答えを出した。
あの頃とは、とても似つかない今の彼に少し怯えを抱きながら。
「あの頃は、とてもこんなのではなかったのに……」
自分が思っていることを言い当てられると人はこうも驚くのか、私はドキリとした。
「そう思いませんか?」
きっと、舞鶴もおんなじ考えだったんだ。彼が自分たちに手を差し伸べてくれたときは、こんなのじゃなかったのに。どこで変わってしまったのかと。
「オレをここに連れてきてくれたのになー」
真文は、よく自分が置かれていた状況をまだ理解していない。けれど、ここに来れたことを喜んでいるから、恩は感じているのだと思う。
いつも、一人でいたがる明夢都だって、恩義を感じて、少しでも支えになりたいと、今回参加してくれた。
舞鶴だって、変なオーダーを訝しみつつ、ちゃんと受け、その裏でどうにか前の人格に直そうと努力している。
それは、私だって。
凌には、返しきれない恩がある。
「この恩を返すまでは、生徒会であり続けよう」
「返しきれないと思いますけどね」
「……がんばるしか、ない……」
「よくわかんねーけど、がんばるぞっ」
三人は、私の言葉に答えてくれた。
空き教室の扉の横に一つの影がある。
その影は、壁にもたれかかりながら、スマホをいじる。
『 同期組 (三)
* どうなの、学校は
? どうもこうも面白くなってきた
? 生徒会の事情が見えてきた
* どういう意味かわかるようにして
& ここで話すことか?
& こちらは仕事が立て込んでるのだが?
& ゴタゴタをするなら、個人でしてもらいたい
? 別にいいだろ、お前にも関係あるよ、&。
* あんたの可愛い可愛いアノコのためだし
& 可愛い可愛いアノコ……?
& いや、アレは可愛くねーだろ
* 本人に聞かれたら、殺されるわよ?
? だなーww
& ……知ってるよ
& で、なにしろっての?
? 今から名前を出すやつを調べろ
& 何を使って?
* 全てを使って
& お前もやれよ
* もちろん
? オレはこっちで探り入れるわ
& じゃ、また三日後に
& 時間をとっておく。
& 時刻は折行って。
* りょーか~い
? わかった
& じゃあな
* またね
? おう。』
影ーーー理人は、スマホをしまうと、
「面白くなってきたねぇ~」
と呟いて、そこをさっていった。
まだ中では、会議が繰り広げられているーーー。
いつも人の集まっている生徒会室ーーーではなく、もう使われなくなった一階の隅にある小さな教室に、凌と朱音を除いた生徒会メンバーが集まっていた。
「みんな来てくれてサンキューね」
一番初めにこの部屋に来ていて、今回の話し合いの場を設けたみさかが言う。
「文札さんに頼まれたら断れないですけどね」
「……頼みじゃなくて、脅迫……」
古びた机の上にクッションを敷き、うつ伏せになる状態でうつらうつらしていた明夢都が小さく抗議する。
「まぁ、いーんじゃねーの?」
と、こちらはこちらで呑気に持ち込み禁止のジュースを飲みながら、真文は言う。
「まーいーじゃん?」
と、明るく話せていたのはここまで。みさかが真剣な面持ちになり話を始めた。
「凌について、話そうよ」
口調は軽くとも、声がいつもの明るい声と違って、重たさを感じさせる。
「……だね……」
明夢都も顔を上げ、クッションを抱えて頷く。
「そのためにきましたからね」
「よくわかんねーけど、ま、話せばいーんだろ?」
二人もそう答える。
「じゃ、はじめよ。生徒会裏会議を、さ……」
みさかがそう言うと、舞鶴が進行を始める。
「それじゃあ、まず、この裏会議の意義について話す」
「簡単に頼むー」
「……んとね……、最近おかしくなった……磯木さんについて……の話を、する会……」
うつらうつらするように、ゆっくりと明夢都は語る。
「んと……よーするに、会長のこと話すんだな!」
「ま、まぁ、そんな感じ~かな?」
みさかは、真文の理解の方法に納得はしないまでも相槌を打つ。
「そうですね。 じゃ、いつ頃から変わったか、ですけど……」
「去年の夏あたりから、今年にかけてだよね、それは」
「……の、せいかも」
明夢都が聞き取れないほど小さな声で何やら呟く。
「なんつったんだ、明夢都」
「お前、一応先輩だからな?」
「いーじゃん」
「いーよ……」
「いいんですか……」
多少のコントも挟んだところで、明夢都が話しだす。
「あのね……昔、ずっと、磯木さんと、張り合うと言うか……対立していた、人が、いたんだ……」
「いたか?」
「さぁ……?」
中学三年の二人は首を傾げる。
「あぁ、いたね。たしか、君たちが小六になる頃ぐらいに、張り合うの降りてたけど」
うんうん、とみさかは頷く。
たしか、あの人は、『諸事情により降りさせてもらう。というか、そもそも対立したいと思ってないから』なんて言って、降りたんだよねー。
「……それもあったり……帝先輩が、最近……成長、してるから……」
「完璧を求める故に病んでいってるって言いたいんだね、明夢都は」
「……うん……」
いつも、いつも磯木凌という人間は完璧を求めていた。
自分がいつも一番であれば、そうでなくては。そんな考えを持っていた。高校に上がる前はよかった。いや、中学三年の頃は少し危うかったけど、まだマシだった。
けれど、帝宵衣が、本気を出すというのか、天才と呼ぶ域を超えるくらいの実力をつけ始めた。
その頃からだ、少しおかしくなっていったのは。周りからのプレッシャーしかり、自分のプライドしかり……彼は完璧であることで今まで精神を保っている面があったから。
病んでいった。
四百点満点中の三百九十四点なんて、高校二年で滅多に取れる点でもないし、学年気にせず学力を測っても、彼は学園二位の実力を持っている。
……でも、帝宵衣には追いつけない。その焦りからか、この頃はおかしな指示を出すようになったしまった。
それに今回、帝宵衣とは一点差だったけれど、帝は本当はオールパーフェクトのはず。なのに、灰咲先生からの字の汚さというある意味ひいきの減点をされたから、一点差になった。
それを引きずってるのかな。
「焦りよ、きっと」
「焦り、ですか?」
「なににだー?」
「帝宵衣に勝てない焦り。完璧でいられない焦り。自尊心と、周りからの期待からの焦り。……そのせいで病んだんだよ、きっと」
私は、そう答えを出した。
あの頃とは、とても似つかない今の彼に少し怯えを抱きながら。
「あの頃は、とてもこんなのではなかったのに……」
自分が思っていることを言い当てられると人はこうも驚くのか、私はドキリとした。
「そう思いませんか?」
きっと、舞鶴もおんなじ考えだったんだ。彼が自分たちに手を差し伸べてくれたときは、こんなのじゃなかったのに。どこで変わってしまったのかと。
「オレをここに連れてきてくれたのになー」
真文は、よく自分が置かれていた状況をまだ理解していない。けれど、ここに来れたことを喜んでいるから、恩は感じているのだと思う。
いつも、一人でいたがる明夢都だって、恩義を感じて、少しでも支えになりたいと、今回参加してくれた。
舞鶴だって、変なオーダーを訝しみつつ、ちゃんと受け、その裏でどうにか前の人格に直そうと努力している。
それは、私だって。
凌には、返しきれない恩がある。
「この恩を返すまでは、生徒会であり続けよう」
「返しきれないと思いますけどね」
「……がんばるしか、ない……」
「よくわかんねーけど、がんばるぞっ」
三人は、私の言葉に答えてくれた。
空き教室の扉の横に一つの影がある。
その影は、壁にもたれかかりながら、スマホをいじる。
『 同期組 (三)
* どうなの、学校は
? どうもこうも面白くなってきた
? 生徒会の事情が見えてきた
* どういう意味かわかるようにして
& ここで話すことか?
& こちらは仕事が立て込んでるのだが?
& ゴタゴタをするなら、個人でしてもらいたい
? 別にいいだろ、お前にも関係あるよ、&。
* あんたの可愛い可愛いアノコのためだし
& 可愛い可愛いアノコ……?
& いや、アレは可愛くねーだろ
* 本人に聞かれたら、殺されるわよ?
? だなーww
& ……知ってるよ
& で、なにしろっての?
? 今から名前を出すやつを調べろ
& 何を使って?
* 全てを使って
& お前もやれよ
* もちろん
? オレはこっちで探り入れるわ
& じゃ、また三日後に
& 時間をとっておく。
& 時刻は折行って。
* りょーか~い
? わかった
& じゃあな
* またね
? おう。』
影ーーー理人は、スマホをしまうと、
「面白くなってきたねぇ~」
と呟いて、そこをさっていった。
まだ中では、会議が繰り広げられているーーー。
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