死に損ないの春吹荘 

ちあ

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二章 学校での立場とは

大人組の考え

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 夜、みんなが寝静まった頃に、ボクは部屋から抜け出して、一階に降りる。
 シキが心配そうに首を上げて、足元にまとわりつくから、「静かにするんだよ」と言い聞かせてから、彼も連れて行く。
 一階のリビングダイニングの部屋には、少しだけ明かりをつけて大人たちーーーと言っていいのかわからないけれど、センセーとゆっきーがいた。
「あら、ミカちゃん。いらっしゃい」
「学生がこんな時間まで起きてんじゃねーよ」
 ゆっきーは、ボクを歓迎してソファに座るようしめす。
 センセーは寝ろ、と言葉では言いつつ、ボクにクッションを渡してくれて、シキの座る場所も作ってくれる。
 なんだかんだ言って、ここにいろ、ということだ。
 本当にこの人は、回りくどいな。まぁ、慣れたけど。
「今日もチーはお休みなのかにゃ?」
「忙しいみてぇだな」
「なんだかんだ、今年一回も顔を見せてないわね」
 二人は、少し不満そうに、本当はいるであろうもう一人の愚痴を漏らす。
「最後にあったのは、去年の春先だった気がするな~」
「「確かに」」
 少し真面目な顔で二人は同時に言う。
「ははっ、ハモったなぁ~」
「なんでこんなやつとハモるのかしらね」
「こっちが聞きてぇわ」
 憎まれ口を叩くのも、おきまり。この時間、ボクたちが起きているのをここの生徒たちは知らない。もしかしたら、マッくんあたりは気がついているかもしれないけど、なんの目的で、かは知らないだろう。
 この時間だけ、リューくんが春吹荘中につけている監視カメラをオフにして、音量も拾わないように細工してあるしね。
「さぁて、じゃあお話を始めよーか」
「まぁ、ボチボチやるか」
「もう一時を回ったしね、時間だわ」
 そう言って一応二人は座り直す。ボクは二人の様子を見ているだけだけどね。
「じゃ、はじめよう。春吹荘、定例会議を♪」
「そうしましょうか」
「だな」
 二人は、うんうん、とうなずき、シキも小さく、ワン、と鳴く。彼の存在は、予想外だけど、もうそこそこ馴染んでいる。チーには、会えていないけど。
「さて、じゃあ、今回の議題は生徒会について。はじめに生徒会が繰り出したのが、『テスト範囲を教えない』っていう差別」
「うん、そーだよ」
 雪芽が、資料らしきものをめくりながら進行をする。
「それに対しては、ミカちゃん、リトを中心として、みんなで山掛けをして解決した、と」
「だな。めんどかった」
 はぁ~、と息を吐きながら、理人はビールを煽る。
「ビールやめろ」
「い・や・だ」
「いやいや、下んない話してる場合じゃないでしょ、ミカちゃんもリトも」
 二人を嗜めつつ、若干無視して雪芽は進行する。
「で、それは失敗に終わったのよね」
「うん、そーだよ。ボクはそもそも範囲とか見てないし」
「駄目でしょ」
「見てたら採点が鬼畜になるからいーんだよ」
 諦め気味に、理人が言う。
 そーかなー?
 でも、見てたらテストにこの公式、使い方違う。説明おかしい、とか書くけどさー。結構時間余るし。
「まぁ、わかるけどね……」
「今度、こいつの中学のテスト見てみ?ぜんっぶに、律儀に文句書いてあるから。しかもグゥの音も出ないほど正論」
「あぁ~……一般教師に何言ってんだってくらいのやつね。聞いたことある」
「そーなの?」
「数学に関してはいーけど、その他は駄目だからね?」
 何を諭そうとしているのだ、ゆっきーは。
「数学もやめろ、返答に困る」
「数学、最近文句つけにくいんだよねー」
「リトが作ってるからね」
「てか、話ズレてね?」
 センセーが、話を元に戻す。まぁ、確かにズレたな。原因は確か、ゆっきーだ。
「で、前回のテストでみんながいつもの順位キープしてて、その上あの子たちの点数が上がったと」
「要するに、無駄だった、と言うかある意味プラスだったってことだね~」
「確かに気に食わないわ、そりゃ」
 うんうん、って頷くなよ、りっひー!
「で、今回その失敗の次に、LINE制度を打ち出した」
「それがややこしいのよねぇ。LINEって、いじめやりましょう!って言ってるも同然じゃない」
 うーん、語弊があると思うのはボクだけかなぁ。まぁいーけど~♪
「LINE=いじめってとこあるしな」
「そう?」
 ボクは、少し素っ頓狂な声を本心から出した。
「うん、ある。見りゃわかるよ。実際目の前でやられずに、機械の中で行われる罵倒って感じ」
 あぁ、なるほどね。罵倒なんていいものじゃないはずだけどなぁ。
「で、今回、何があり得るかって言うと~」
「クーちゃんの精神崩壊か、もしくはその周りの人間。 あと~、もしかしたらマッくんがあるかも」
「そんなとこだな」
「うぅん、過去の話を掘り下げるか、どうかね。一応調べるってなら調べておくけど、ミカちゃんはどうしたい?」
「知らなくていーよ、ボク」
 ボクはそういうと、シキをもふもふと撫でた。
「そう?情報、あったほうが……」
「欲しいよ、でも、ここを守れるならボクはそれでいいから。信用を失って、壊されたくない」
 宵衣は、いつもの笑顔を顔に張り付かせながらも、異常な表情で笑って見せた。
 二人は、一瞬だけ悲哀の色を瞳に宿して、頷いてみせる。
「それがミカちゃんの考えならば」
「宵衣がそれでいーんなら」
「「いいよ」」
 二人は、優しく笑ってみせる。いつか宵衣が無邪気に笑っていた頃のように。変わることなく、宵衣を見つめる。
「ん、じゃあ、そーゆーことで♪」 


ー後日ー

 瞬が宵衣に過去を打ち明けたその日。また、リビングダイニングに宵衣たちは集まった。
「結局どうだった?」
「クーちゃんのお友達の百合野朱音って子がLINEいじめにあってた。 それと、マッくんの過去、わかった」
「! あの子、教えたの?」
 意外、とでも言いたげに雪芽は瞳孔を開く。
 理人は、だよなー、と言いたげに、肩を竦める。
「宵衣にかかれば、ってか、お前はそーゆー才能あるからな~」
 茶化すように言う。
「そんなことないよ~。 マッくんが、こっち側になってくれるとは限らないけど、寮のほうに行くことはないと思う」
「それならいいわ」
 雪芽は、先日と同じ、けれど厚みが厚くなった資料に書き込む。
「調べてたんだね、いらないっていったのにな~」
「ごめんなさいね」
 小さく微笑んで雪芽がそう言うと、宵衣は「はぁ……」とため息をつく。
「まぁいいけど」
「でも、ミカちゃんが、そんな話するとは思わなかったわ」
「そう?」
 宵衣は首をかしげる。
「まぁ、宵衣らしいけどな」
「らしい~?」
「弱いやつ見てると放っておけねーの」
 そんなこと、ボクはないけど、この人たちは勘違いをしているみたいだな。
「そんなことないよ~。 利用価値があるから助けてるだけで」
「……そーゆーとこがミカちゃんらしいのよ」
「?」
 ボクは何を言ってるのかわからずに首を傾げるけれど、二人はわかりあっているらしい。二人は、笑い合う。
「で、話を戻しましょう。 次の対策を考えてくるだろうから、その話を」
「……規格外なことしそうだと思う」
「わかってんじゃん。そーゆー話が若干職員室でも出てるぞ」
 出てるのか~。まぁ、でも学校を仕切ってるのは実質、生徒会長サマだからな~。多少狂っても許されてそー。
「で、どーすんだよ?」
「あっちのリーダーが病んでるって言うなら、こっちのリーダーは」

「狂ってるのよ」
「狂ってんだ」

 二人は同時に言うと、宵衣の方を見て悪い笑みを浮かべた。
「その上、メンツも常識外れだからにゃ♪」
「「うまく行くでしょーな」」
 くつくつ、と三人が笑うのを少し心配そうにアノヒトの面影を残したシキが見つめているのに、三人は気がつかなかった。
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