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二章 学校での立場とは
過去と人格。
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前回のテストの結果が、生徒会的には芳しくないらしい。あの方法は廃止のようだ。
その代わり、ラインでのハブり、もしくはいじめ、孤立を期待してか、クラスLINEというものを作り、そこで全て、学年情報、クラス情報を流す形式にしたようだ。
LINE。いじめや、それの進化体として自殺強要が挙げられる、今のご時世のいじめの方法の一つ。
入りはするものの、別に戯れたいわけでもない。その上、こっちに集ってきたり、逆に差別される。
LINEなんて、普通推奨しないだろ。うちの学校、終わってるな。
俺はそう思いながら、二階から三階への階段に足をかける。
神坂の部屋に目を向けるものの、動く気配はないが、人はいる。まだ。引きこもってるか。引き篭もりたいなら、好きにしてもらっていいが。……出てこないのは、俺が帰ってきたからだろうけど。
部屋に入ると、机に鞄を置き、ジャケットをハンガーにかけ、机の上の伏せてあった写真を見る。
「……」
LINEにいい思い出があるやつなんて、居ないだろうな。
クラスLINEを、一応開く。今日の課題もそこで説明、とのことだ。全く、なぜそんな面倒なことをするのか、わからない。俺のクラスの教師、一ノ瀬は、時代に乗りたがりの女教師だ。
『 高等部一年A組
松葉:よぉ、みんな元気か!?
神楽:元気だぜぇっ
松本:暑苦しぃー
上川:ノリ熱いよぉ~ww
伊月:もう高校生ですよ。
一ノ瀬:みんな。仲良いのね。嬉しい
松葉:ええ!もっちろんっ
伊月:先生そんなこと言ったら、調子乗るじゃないですかぁ』
「ちっ」
さっさと。課題の話しろよ。見てたくない。気持ち悪い。
『
神楽:なぁなぁ、既読さぁ、七ついてるからさ、一人コメントしてねーんだよなぁ
一ノ瀬:あら、たしかにね。
松葉:同じクラスメイトだろー。コメントしろよー!
伊月:見られてるだけ、は恥ずかしいね。
上川:ほら、はやーくー』
なんだ、こいつら。低能が。なんでこんな奴らがA組にいるのか、なんでこんな担任がA組なのか、わからねぇな。
今年は、ハズレってことか?馬鹿みたいだな。
俺ーーー司佐瞬は、嘲笑うようにはっ、と言ってから、コメントをする。
『
司佐:早く、課題。
松葉:なんだよぉ、おまえかよ~。
伊月:コメントしなさそうではありますけどね。
上川:まぁ。ぽい!
一ノ瀬:今日の課題はーーー』
課題、口頭で伝えてもらえるなら見ねーよ。
『
司佐:そうですか。じゃ、抜けます
伊月:ちょっと待って。
松葉:話てぇことあっから、違うグループLINE作った。来い。
司佐:めんどくさい。嫌だ。
松本:来いよ。センセーにまだ、言わないでって課題あるんだ。他の奴らには、個人で送ってる。わかるだろ』
はぁ……どうせ、ぐちぐち文句言うだけだろ。でも。課題はやるべきと言うか、やらないといけないし、やってないってなったら、灰咲になんで言われるか。
「ちっ、仕方ないな」
俺は渋々、そのグループ「暇つぶし」に入った。名前から、馬鹿さが滲み出てる。
『 暇つぶし
ーー”司佐″が参加しました。ーー
司佐:範囲。
松葉:ドリルの十五ページまで
司佐:本当か?
伊月:これで、嘘はつきません。
松本:おう、そこだ。
司佐:ならいい。抜ける。
松本:おっと待て。
松葉:俺らが教えてやったんだ。おまえもそこそこ働くべきだよなぁ?』
「そもそもおまえらが、情報シャットしたんだろ」
こいつら、本当にA組か?話し方も、言ってることも、何もかもアホすぎるだろ。
『
松葉:おまえさぁ、ほんっと、なんなの?体育祭とかでもだけど、協力しろよな
松本:協調性に欠ける、ってやつ。
伊月:そこまで言うとは聞いてないんだけど……。
伊月:でも、もう少し、空気とか、雰囲気とか、わかってほしいなって思ってます。
上川:ぶっちゃけ、黙っててくれていいからさ、周りに合わせて。
松本:逆に人形とか、ロボットで居てくれたほうがありがたい。
松葉:おまえさぁ、ほんっと、いつも嫌そうな顔して拒否ってさ、こっちからしたら最悪なの、わかんない?』
そうやって大人数で一人を責め立てるおまえらも最悪だけどな。
五人を相手に、一人で攻められる……このやり口、アノトキと同じだな。メンツは違うし、風当たりもアノトキよりマシだが。
『
司佐:それをネットのコメントで言うだけで解決するとでと思ってんのか。
松葉:なんで上から目線なわけ?
上川:被害こっちが被ってんのわかるー?
伊月:さすがに、上から目線はやめてほしいです。
司佐:文句を言うなら、一対一で言え。
上川:なに?正攻法でやれっての?
松葉:それで言うこと聞かねーだろーから、ここで言ってんだけど。
伊月:さすがに、要望が多いと思います。』
これがいわゆる同調圧力、か。気の弱い人間は、こんな言葉を真に受けて、苦しむのか。
こんな下らない、雑魚のために、死のうとするのか。なにも悪くないのに。自分を責めて、苦しんで、その結果、死んでいくのか。
「……」
俺は、スマホから目を逸らして、写真たてを撮る。
写真には、中学一年程度の少年と小学低学年ほどの少女を中心にして、両サイドに、親らしき人が立っている。
瞬は、その写真を優しく撫でる。
コンコン
扉を叩く音がする。今は、もう四時過ぎ。
まずい、もうあいつらが帰ってくる時間か。
いつの間にか、出ていた目尻の涙を急いで拭うと、慌てて写真を自分の影に隠す。
「おぉい、マッくん?」
その声は、帝のものだった。
「なんです?」
「いるのか。 なんで下にいないのかなーって」
いつも、課題を終わらせてさっさと下に行くからな。そのせいか。
「LINEで課題が知らされるんで、情報待ちしてました。終わったら、下行きます」
「そう? じゃ。下にいるからねー」
そう言う声が小さくなっていく。
はぁ、驚いた。早く終わらせないと、嗅ぎ回られるな。
そう思って、スマホを確認しようとしたときーーー
バン
俺の部屋の扉が開いて、少女が駆け込んできた。
「わぁ~」
「なっ」
俺は驚いて、その場に固まる。俺に飛びついてきたのは、帝。
「お、ちょ!」
「慌ててるなぁ♪」
「当たり前だろ、常識持て!」
俺がそう言うと、帝はさっさと離れていく。
「なんで入ってきたんだ」
「涙声だったからね。気になった」
帝は悪びれる様子もなく、ははっ、と笑う。
帝がこう言う変な奴って知っていたのに、偽り忘れた俺の責任か。
「どーしたんだい、マッくん」
「なんでもない。さっさと帰れ」
俺はそう言って、右手でしっし、と合図する。
「えー?」
その時、宵衣は、瞬の右側にある、ナニカに目をつけた。
「わかったよ」
そう言って出て行く宵衣を見て、安心したような瞬の隙をつき、そのナニカを奪う。
「! やめろ!」
瞬は、いつになく必死で、奪い返そうとするものの、宵衣は身軽に避ける。
「これは……マッくん?と……」
「っ」
瞬は、バツの悪そうな顔をして、ため息をつく。
もう、話してしまったほうが楽だ。変に探られるよりも。
「話しますよ、そこの椅子にでも座ってください」
「いーの?」
驚いたように宵衣は聞く。
「どうせ、探るんだろ」
「わかんないよ、それは」
「話させてください」
「……ん」
宵衣は小さく微笑んで、椅子に座る。
「じゃ、一応簡単に話します。なにも言わず聞いてくれればいい」
「話したほうが楽ってことだね」
瞬は、こくり、と頷くと、話し始めた。
ーーーー
瞬の家庭は、父と母、瞬に四歳差の妹の瞳の四人家族。
父は起業家で、初めは全く成功しておらず、母がパートを掛け持ちすることで家計を支えていた。
瞬と瞳は、そのことで馬鹿にされ、虐められた。けれど、二人は、父と母のことを貶したり、嫌うことはなかった。
瞬の性格は少し歪んだ。瞳の性格は大人しく、意見するのを苦手になってしまった。
けれど、二人はそれでも幸せだった。家族がいたから。
瞬が中学一年になり、瞳が小学三年になる頃。
父の仕事は大成功を遂げ、家庭は一気に潤っていった。
その時、周りの人間は、目の色を変え、一気に奉るようになった。いわゆる、手のひら返し。
瞬は、それを見て、人間は、金だけでなんとでもなるなどと思ってしまい、上から目線の性格になった。
瞳は、まわりの掌返しに怯えつつも、平穏に暮らしていた。
事件が起きたのは、小学四年の頃。スマホを持つ生徒は少ないものの、少しはいた。その中で、連絡先を交換して、LINEをしていたらしい。
瞳が金持ちになったことで、まわりは色々なものをたかった。それは、今までずっと虐めてきた輩が主だった。
瞳は、家族に迷惑がかかるとおどおどしながらも断っていたようだ。それが気に入らなかったのか、LINEでいじめられるようになった。
LINEのいじめは気が付きにくい。肉体的な傷は残らないからだ。
それを理由として、精神的に少しずつ病んでいき、瞳は、小学四年生の秋に、学校の屋上から飛び降りて、自殺した。
ーーーー
これが、俺の、昔話。
俺は、話終わったところで、妹のスマホを、帝に見せる。いじめの舞台的な会話が記録してある。
許せなかった。だから、父さんたちに頼んで、俺が預かった。
「……、だからなんだね。さっき涙声になってたの」
「……なにがです」
俺は、話したせいで少し出た涙を拭った。もう何度も、このことを自分に話してきたのに、誰かに話すと、また涙が出た。
「どーせ、似たことされたんだろ、LINEで。 いーよ、ぶちまけちまえ。どんな話でも聞いてやるよ」
「なんでそんなこと言うんです」
「うーん……ここまで聞いたし?最後まで聞くのが、礼儀ってもんじゃない?」
「あなたから言われると思いませんでした」
「なんだよぉ、それ~」
宵衣は笑いながら、俯く瞬の背中をさすってやる。
「話、たくないです」
「そうかぁ、いいよ」
「……なので、見てもらえると」
「! 見て、いいの?」
「はい」
もう、ここまできたら、付き合ってもらいたい。少し、精神が弱まった時に優しくされると相手を信用してしまう。それは頭でわかってる。けれど、それでも自分はやはり人間だ。
この精神状態で一人でいるのは、辛い。
「…………」
宵衣はスマホを見つめたまま、黙る。
「ねぇ、」
宵衣は、スマホを指差しながら問う。
「これ、返信していい?」
「……かまい、ませんが」
少し驚いて、瞬は答える。
「わかった」
『
松葉:ねぇ、ほんっとさ、未読無視やめろよ
伊月:既読になりましたね。 あの。答えてください
上川:はーやーくー
司佐:いじめるのは勝手だが、時間取らないでもらいたい
伊月:いじめているつもりは
司佐:これで俺が自殺したらどんな顔するんだろうな。それでも、やはり続けるか、お前らのことだ
上川:なに言ってんの
伊月:決めつけも大概にしてください』
「なにしたいんです」
「後悔させたい。瞳ちゃんと、マッくんを苦しめたこと」
「瞳を……?」
瞬は訝しむような目で宵衣を見る。
宵衣の顔には、いつもの微笑みでなく、真剣な表情が浮かんでいた。
『
司佐:本当に決めつけだと?
上川:なに言ってんの?
松本:いい加減にしろ。お前が空気を読めば済む話なんだぞ?
伊月:なにをしたいのか、わかりません
司佐:わからないなら言ってやる。
司佐:伊月、お前は何度人を殺せば気が済む?
司佐:お前は何度、いじめをすれば気が済む?
伊月:なに言って……
上川:伊月が、人を殺したってなにそれ
松葉:冗談も大概にしろ
松本:いい加減にしたくれよ、もう』
瞬は、やりとりを見て、目を見開くと、瞳のスマホを取り出して、いじめをしていたグループのメンバーを確認する。
・アミ
・如月
・菱形
・焼津
ーーーミキ
「なにが、今回と関係あるんです?」
「えーと、この子。この子が伊月サキちゃんの妹だね。伊月ミキちゃん」
「わかったんですか?」
「プロフィールに書いてあった」
「でも、なんで俺を……」
「知ってるんだろうね、キミがLINEいじめに弱いってこと。だからだろ」
そう言いながら、宵衣はスマホを打ち続ける。
『
司佐:俺の妹を殺したくせに、次は俺か?
司佐:姉も妹もクズだな
司佐:貧乏だったらいじめて、生活が潤えば集る。
伊月:なに言って……
上川:嘘でしょ!
松本:サキがそんなことするわけねぇよ
司佐:俺は、一言も俺のクラスの伊月とは言ってない。妹の伊月ミキが瞳を殺した、そうとしか言ってない
伊月:瞳って……
司佐:もし生きてたら、今年で小六だよ
司佐:司佐瞳。聞き覚えがあるだろ
伊月:ミキが言ってた、いじめてた
伊月:子って……
司佐:俺の妹だよ。クズだな、ほんと
上川:伊月?!
松葉:おい。なにしてんだよ……お前。ありえねぇよ、伊月
松本:お前、人殺しなのかよ……
伊月:違う、私じゃない
伊月:ミキが勝手に……』
グループ内で勝手に揉め出したところで、宵衣はスマホの電源を切る。
「これくらいでいーだろ」
「あんた……」
「宵衣でいーよ♪ これくらいしないと、気が済まなかったから勝手にしちゃった♪」
「……」
「ほら、さっさとしたいこー?」
「課題……」
「いーじゃん、今日くらい。 サボっちまえ♪」
「嫌です」
「じゃ、後でやろー。ていうか、今日土曜だからね?明日ないんだけど」
「早くやりたいんだが」
「えー、いーじゃん♫ ゲームしよー」
「いや、ゲームは……」
「さぁ、やるぞ~」
「はぁ……?」
宵衣は、瞬の手を取ると、一階のリビングに降りる。
みんなでゲームをしている中に入っていき、無理やりながら、瞬を参加させた。
瞬は嫌がりつつも、少し嬉しそうな顔をして、ゲームに参加した。
その代わり、ラインでのハブり、もしくはいじめ、孤立を期待してか、クラスLINEというものを作り、そこで全て、学年情報、クラス情報を流す形式にしたようだ。
LINE。いじめや、それの進化体として自殺強要が挙げられる、今のご時世のいじめの方法の一つ。
入りはするものの、別に戯れたいわけでもない。その上、こっちに集ってきたり、逆に差別される。
LINEなんて、普通推奨しないだろ。うちの学校、終わってるな。
俺はそう思いながら、二階から三階への階段に足をかける。
神坂の部屋に目を向けるものの、動く気配はないが、人はいる。まだ。引きこもってるか。引き篭もりたいなら、好きにしてもらっていいが。……出てこないのは、俺が帰ってきたからだろうけど。
部屋に入ると、机に鞄を置き、ジャケットをハンガーにかけ、机の上の伏せてあった写真を見る。
「……」
LINEにいい思い出があるやつなんて、居ないだろうな。
クラスLINEを、一応開く。今日の課題もそこで説明、とのことだ。全く、なぜそんな面倒なことをするのか、わからない。俺のクラスの教師、一ノ瀬は、時代に乗りたがりの女教師だ。
『 高等部一年A組
松葉:よぉ、みんな元気か!?
神楽:元気だぜぇっ
松本:暑苦しぃー
上川:ノリ熱いよぉ~ww
伊月:もう高校生ですよ。
一ノ瀬:みんな。仲良いのね。嬉しい
松葉:ええ!もっちろんっ
伊月:先生そんなこと言ったら、調子乗るじゃないですかぁ』
「ちっ」
さっさと。課題の話しろよ。見てたくない。気持ち悪い。
『
神楽:なぁなぁ、既読さぁ、七ついてるからさ、一人コメントしてねーんだよなぁ
一ノ瀬:あら、たしかにね。
松葉:同じクラスメイトだろー。コメントしろよー!
伊月:見られてるだけ、は恥ずかしいね。
上川:ほら、はやーくー』
なんだ、こいつら。低能が。なんでこんな奴らがA組にいるのか、なんでこんな担任がA組なのか、わからねぇな。
今年は、ハズレってことか?馬鹿みたいだな。
俺ーーー司佐瞬は、嘲笑うようにはっ、と言ってから、コメントをする。
『
司佐:早く、課題。
松葉:なんだよぉ、おまえかよ~。
伊月:コメントしなさそうではありますけどね。
上川:まぁ。ぽい!
一ノ瀬:今日の課題はーーー』
課題、口頭で伝えてもらえるなら見ねーよ。
『
司佐:そうですか。じゃ、抜けます
伊月:ちょっと待って。
松葉:話てぇことあっから、違うグループLINE作った。来い。
司佐:めんどくさい。嫌だ。
松本:来いよ。センセーにまだ、言わないでって課題あるんだ。他の奴らには、個人で送ってる。わかるだろ』
はぁ……どうせ、ぐちぐち文句言うだけだろ。でも。課題はやるべきと言うか、やらないといけないし、やってないってなったら、灰咲になんで言われるか。
「ちっ、仕方ないな」
俺は渋々、そのグループ「暇つぶし」に入った。名前から、馬鹿さが滲み出てる。
『 暇つぶし
ーー”司佐″が参加しました。ーー
司佐:範囲。
松葉:ドリルの十五ページまで
司佐:本当か?
伊月:これで、嘘はつきません。
松本:おう、そこだ。
司佐:ならいい。抜ける。
松本:おっと待て。
松葉:俺らが教えてやったんだ。おまえもそこそこ働くべきだよなぁ?』
「そもそもおまえらが、情報シャットしたんだろ」
こいつら、本当にA組か?話し方も、言ってることも、何もかもアホすぎるだろ。
『
松葉:おまえさぁ、ほんっと、なんなの?体育祭とかでもだけど、協力しろよな
松本:協調性に欠ける、ってやつ。
伊月:そこまで言うとは聞いてないんだけど……。
伊月:でも、もう少し、空気とか、雰囲気とか、わかってほしいなって思ってます。
上川:ぶっちゃけ、黙っててくれていいからさ、周りに合わせて。
松本:逆に人形とか、ロボットで居てくれたほうがありがたい。
松葉:おまえさぁ、ほんっと、いつも嫌そうな顔して拒否ってさ、こっちからしたら最悪なの、わかんない?』
そうやって大人数で一人を責め立てるおまえらも最悪だけどな。
五人を相手に、一人で攻められる……このやり口、アノトキと同じだな。メンツは違うし、風当たりもアノトキよりマシだが。
『
司佐:それをネットのコメントで言うだけで解決するとでと思ってんのか。
松葉:なんで上から目線なわけ?
上川:被害こっちが被ってんのわかるー?
伊月:さすがに、上から目線はやめてほしいです。
司佐:文句を言うなら、一対一で言え。
上川:なに?正攻法でやれっての?
松葉:それで言うこと聞かねーだろーから、ここで言ってんだけど。
伊月:さすがに、要望が多いと思います。』
これがいわゆる同調圧力、か。気の弱い人間は、こんな言葉を真に受けて、苦しむのか。
こんな下らない、雑魚のために、死のうとするのか。なにも悪くないのに。自分を責めて、苦しんで、その結果、死んでいくのか。
「……」
俺は、スマホから目を逸らして、写真たてを撮る。
写真には、中学一年程度の少年と小学低学年ほどの少女を中心にして、両サイドに、親らしき人が立っている。
瞬は、その写真を優しく撫でる。
コンコン
扉を叩く音がする。今は、もう四時過ぎ。
まずい、もうあいつらが帰ってくる時間か。
いつの間にか、出ていた目尻の涙を急いで拭うと、慌てて写真を自分の影に隠す。
「おぉい、マッくん?」
その声は、帝のものだった。
「なんです?」
「いるのか。 なんで下にいないのかなーって」
いつも、課題を終わらせてさっさと下に行くからな。そのせいか。
「LINEで課題が知らされるんで、情報待ちしてました。終わったら、下行きます」
「そう? じゃ。下にいるからねー」
そう言う声が小さくなっていく。
はぁ、驚いた。早く終わらせないと、嗅ぎ回られるな。
そう思って、スマホを確認しようとしたときーーー
バン
俺の部屋の扉が開いて、少女が駆け込んできた。
「わぁ~」
「なっ」
俺は驚いて、その場に固まる。俺に飛びついてきたのは、帝。
「お、ちょ!」
「慌ててるなぁ♪」
「当たり前だろ、常識持て!」
俺がそう言うと、帝はさっさと離れていく。
「なんで入ってきたんだ」
「涙声だったからね。気になった」
帝は悪びれる様子もなく、ははっ、と笑う。
帝がこう言う変な奴って知っていたのに、偽り忘れた俺の責任か。
「どーしたんだい、マッくん」
「なんでもない。さっさと帰れ」
俺はそう言って、右手でしっし、と合図する。
「えー?」
その時、宵衣は、瞬の右側にある、ナニカに目をつけた。
「わかったよ」
そう言って出て行く宵衣を見て、安心したような瞬の隙をつき、そのナニカを奪う。
「! やめろ!」
瞬は、いつになく必死で、奪い返そうとするものの、宵衣は身軽に避ける。
「これは……マッくん?と……」
「っ」
瞬は、バツの悪そうな顔をして、ため息をつく。
もう、話してしまったほうが楽だ。変に探られるよりも。
「話しますよ、そこの椅子にでも座ってください」
「いーの?」
驚いたように宵衣は聞く。
「どうせ、探るんだろ」
「わかんないよ、それは」
「話させてください」
「……ん」
宵衣は小さく微笑んで、椅子に座る。
「じゃ、一応簡単に話します。なにも言わず聞いてくれればいい」
「話したほうが楽ってことだね」
瞬は、こくり、と頷くと、話し始めた。
ーーーー
瞬の家庭は、父と母、瞬に四歳差の妹の瞳の四人家族。
父は起業家で、初めは全く成功しておらず、母がパートを掛け持ちすることで家計を支えていた。
瞬と瞳は、そのことで馬鹿にされ、虐められた。けれど、二人は、父と母のことを貶したり、嫌うことはなかった。
瞬の性格は少し歪んだ。瞳の性格は大人しく、意見するのを苦手になってしまった。
けれど、二人はそれでも幸せだった。家族がいたから。
瞬が中学一年になり、瞳が小学三年になる頃。
父の仕事は大成功を遂げ、家庭は一気に潤っていった。
その時、周りの人間は、目の色を変え、一気に奉るようになった。いわゆる、手のひら返し。
瞬は、それを見て、人間は、金だけでなんとでもなるなどと思ってしまい、上から目線の性格になった。
瞳は、まわりの掌返しに怯えつつも、平穏に暮らしていた。
事件が起きたのは、小学四年の頃。スマホを持つ生徒は少ないものの、少しはいた。その中で、連絡先を交換して、LINEをしていたらしい。
瞳が金持ちになったことで、まわりは色々なものをたかった。それは、今までずっと虐めてきた輩が主だった。
瞳は、家族に迷惑がかかるとおどおどしながらも断っていたようだ。それが気に入らなかったのか、LINEでいじめられるようになった。
LINEのいじめは気が付きにくい。肉体的な傷は残らないからだ。
それを理由として、精神的に少しずつ病んでいき、瞳は、小学四年生の秋に、学校の屋上から飛び降りて、自殺した。
ーーーー
これが、俺の、昔話。
俺は、話終わったところで、妹のスマホを、帝に見せる。いじめの舞台的な会話が記録してある。
許せなかった。だから、父さんたちに頼んで、俺が預かった。
「……、だからなんだね。さっき涙声になってたの」
「……なにがです」
俺は、話したせいで少し出た涙を拭った。もう何度も、このことを自分に話してきたのに、誰かに話すと、また涙が出た。
「どーせ、似たことされたんだろ、LINEで。 いーよ、ぶちまけちまえ。どんな話でも聞いてやるよ」
「なんでそんなこと言うんです」
「うーん……ここまで聞いたし?最後まで聞くのが、礼儀ってもんじゃない?」
「あなたから言われると思いませんでした」
「なんだよぉ、それ~」
宵衣は笑いながら、俯く瞬の背中をさすってやる。
「話、たくないです」
「そうかぁ、いいよ」
「……なので、見てもらえると」
「! 見て、いいの?」
「はい」
もう、ここまできたら、付き合ってもらいたい。少し、精神が弱まった時に優しくされると相手を信用してしまう。それは頭でわかってる。けれど、それでも自分はやはり人間だ。
この精神状態で一人でいるのは、辛い。
「…………」
宵衣はスマホを見つめたまま、黙る。
「ねぇ、」
宵衣は、スマホを指差しながら問う。
「これ、返信していい?」
「……かまい、ませんが」
少し驚いて、瞬は答える。
「わかった」
『
松葉:ねぇ、ほんっとさ、未読無視やめろよ
伊月:既読になりましたね。 あの。答えてください
上川:はーやーくー
司佐:いじめるのは勝手だが、時間取らないでもらいたい
伊月:いじめているつもりは
司佐:これで俺が自殺したらどんな顔するんだろうな。それでも、やはり続けるか、お前らのことだ
上川:なに言ってんの
伊月:決めつけも大概にしてください』
「なにしたいんです」
「後悔させたい。瞳ちゃんと、マッくんを苦しめたこと」
「瞳を……?」
瞬は訝しむような目で宵衣を見る。
宵衣の顔には、いつもの微笑みでなく、真剣な表情が浮かんでいた。
『
司佐:本当に決めつけだと?
上川:なに言ってんの?
松本:いい加減にしろ。お前が空気を読めば済む話なんだぞ?
伊月:なにをしたいのか、わかりません
司佐:わからないなら言ってやる。
司佐:伊月、お前は何度人を殺せば気が済む?
司佐:お前は何度、いじめをすれば気が済む?
伊月:なに言って……
上川:伊月が、人を殺したってなにそれ
松葉:冗談も大概にしろ
松本:いい加減にしたくれよ、もう』
瞬は、やりとりを見て、目を見開くと、瞳のスマホを取り出して、いじめをしていたグループのメンバーを確認する。
・アミ
・如月
・菱形
・焼津
ーーーミキ
「なにが、今回と関係あるんです?」
「えーと、この子。この子が伊月サキちゃんの妹だね。伊月ミキちゃん」
「わかったんですか?」
「プロフィールに書いてあった」
「でも、なんで俺を……」
「知ってるんだろうね、キミがLINEいじめに弱いってこと。だからだろ」
そう言いながら、宵衣はスマホを打ち続ける。
『
司佐:俺の妹を殺したくせに、次は俺か?
司佐:姉も妹もクズだな
司佐:貧乏だったらいじめて、生活が潤えば集る。
伊月:なに言って……
上川:嘘でしょ!
松本:サキがそんなことするわけねぇよ
司佐:俺は、一言も俺のクラスの伊月とは言ってない。妹の伊月ミキが瞳を殺した、そうとしか言ってない
伊月:瞳って……
司佐:もし生きてたら、今年で小六だよ
司佐:司佐瞳。聞き覚えがあるだろ
伊月:ミキが言ってた、いじめてた
伊月:子って……
司佐:俺の妹だよ。クズだな、ほんと
上川:伊月?!
松葉:おい。なにしてんだよ……お前。ありえねぇよ、伊月
松本:お前、人殺しなのかよ……
伊月:違う、私じゃない
伊月:ミキが勝手に……』
グループ内で勝手に揉め出したところで、宵衣はスマホの電源を切る。
「これくらいでいーだろ」
「あんた……」
「宵衣でいーよ♪ これくらいしないと、気が済まなかったから勝手にしちゃった♪」
「……」
「ほら、さっさとしたいこー?」
「課題……」
「いーじゃん、今日くらい。 サボっちまえ♪」
「嫌です」
「じゃ、後でやろー。ていうか、今日土曜だからね?明日ないんだけど」
「早くやりたいんだが」
「えー、いーじゃん♫ ゲームしよー」
「いや、ゲームは……」
「さぁ、やるぞ~」
「はぁ……?」
宵衣は、瞬の手を取ると、一階のリビングに降りる。
みんなでゲームをしている中に入っていき、無理やりながら、瞬を参加させた。
瞬は嫌がりつつも、少し嬉しそうな顔をして、ゲームに参加した。
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そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
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