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四章 ……学校ってこんなんだっけ?
人影は、誰なのか。
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『陽崎が、ファンクラブに目をつけられてる』
「っと」
暗い、旧校舎の廊下の隅。
誰も来るはずのないそこで壁にもたれかかる男性が一人。
「面白くなってんじゃね?」
キャンディを、舐めながら、くつくつと、まるでどこかの誰かのように楽しげに笑う。
「あーくーしゅーみーねっ」
廊下の方から、桃色のワンピースを着た女性が歩み寄ってくる。
「それを言うなら、オメェもな」
「教師たるもの、生徒を助けるべきではなくて?」
からかいまじりに、彼女がそう言う。
教師たるもの、ねぇ。
お前がそれを本心で言うわけねーよな。
「マジで言ってんの?」
「はぁ?そんなわけないじゃない」
雪芽は、馬鹿みたい、と笑い、理人もそれにつられる。
「私が、私たちが大人信用する理由がないじゃない」
「裏切って、忘れて、のけものにして」
理人は、少し自分より背の小さな、その上少し前のめりになっている雪芽を見る。
また、雪芽もそんな理人を見つめる。
「踏み台としか思ってない大人なんか、クソ食らえよ」
いつもの春吹荘にいる時と変わらぬ笑顔で彼女は微笑む。
「女ってのは、怖いねー」
「あら、誰のこと?」
ニコニコ顔からは、殴るわよ?と言う脅迫が目に見えている。
「もちろん、春吹のやつら全員だよ」
逃げることをせず、理人は返す。
「えっ、陽崎ちゃんも?」
「あいつは、こぇーやつだな。 まぁ、見てな。面白くなるぜ?」
スマホで口元を隠すものの、クズな笑顔は隠しきれない。
雪芽もそれに乗り、悪い笑みを浮かべる。
「お前らさぁ、いい加減にしろよ」
廊下から、声がした。低さ的に、男性であろうか。
人影は、近づいてきて、ため息をつく。
「遅かったなぁ、&」
理人は、俺の勝ち、と子供が言うふうに笑う。
「お前はここが職場だろーが、ボケ。俺の職場からどんだけ離れてると思ってんだ?」
呆れまじりに、人影は問う。
「でも、数分じゃない?」
雪芽は首を傾げるものの、あとの二人は首を振る。
「「お前は規格外」」
「ハモんなくても良くない? というか、お偉い様が抜けてもよろしくて?」
からかいの色が滲む挑発に、人影は目もくれない。
「いや? 俺なんかよりもずっと忙しい管理職が、怠けてても平気な世の中なんでね」
皮肉を目一杯に含んだ、発言に少しムッとしつつも、雪芽は引きつった笑みで、微笑む。
「さっさと話しましょー」
「今回はなんだ?」
「陽崎がよ、ファンクラブに牽制されてる。 あと、アレから後々確かめたことだが、」
「生徒会、結構やばいわね♪」
理人のセリフを雪芽が奪う。
「おまえさぁ」
「ふ~ん♪」
そんな二人に目もくれず、そうか……と人影は呟く。
「実際に訴えられそうなこと、あるか?」
「焚き付ければ、やってくれそうだけどな」
「焚きつける?」
目を輝かせて雪芽は尋ねる。
「お前はやめろ」
そんな雪芽の頭を人影が手刀で叩く。
「帝みてぇのが増えると面倒だろーが」
「あんたたちだけでもう十分、面倒なんだけどっ」
「「なら増やすな!」」
ちぇー、と言いたげに舌を出す。
「生徒会の情報は毎度俺に流せ。やれることはやっとく。あと、」
「ジジイの話でしょー、テキトーにやっとくわよ」
「「ジジイww」」
「あんたたちさぁ、ハモるし、つぼるし、なんなの?!」
「いや」
「ふつーに」
「「悪友?」」
「悪友だけどぉ……。 はぁ、もういいわ」
「諦めはえーな」
「諦めは肝心だからな」
嫌味も込めて、人影が言うけれど、皆気にしない。
プルルル
「おっと呼び出しぃ~」
理人の電話が鳴る。
「この時間帯は……」
「帝宵衣だろ」
「ご名答」
スマホの画面を見せて、理人は答えると、電話に出る。
『早く来てくれないかなぁ? 待たせておいてそれはないだろ~』
「おまえさぁ、」
「あんたねぇ!」
まさか、宵衣が待っていると知らなかった二人は、理人に非難を浴びせる。も、それは効かない。
「いいことあんだよ、だから、水に流せ?」
『なんだい?』
不機嫌ながらも、宵衣は問う。
「&がいる」
『! ほんとっ?!』
一瞬で、宵衣の声がパァッと晴れる。
その間、人影は項垂れた。
『なぁ!』
「んだよ、うるせぇぞ」
『いつ帰ってくる?!』
「テンション高いって。 帰って行けるなら、自分から出向くだろ。ちょっと顔出しただけだよ」
『ボクも行くっ! どこ?』
子供のように、宵衣はせがむ。
「もう帰るから」
『待ってて!』
「無理。帰る」
『馬鹿ぁっ!』
「いー子にしてたら、卒業式には出てやるよ」
『なんでよりによって卒業なんだい?! 二年後じゃないかっ!』
「別に、イベントじゃん」
『なら、夏休みだにゃ』
「あぁ~、それは無理」
『なんで?』
「こないだのホテルん時、俺いたんだよな」
『はぁっ? 聞いてないぞ、そんなのっ』
「言ってない。誘うように言ったけど、連れてこねぇんだもん」
雪芽に少しだけ、電話を変わる。
「だって、神坂との会話してたじゃない」
『でも、アイツは別だっ。大人ばっかりずるい!ボクだって一応、大人組だからな?!』
「組ってだけだろ。 じゃ」
『待て!』
「なんだ」
『せめて、正月』
「えぇ……」
『七月十六日か、三月七日でもいーぞ♪』
「……三月が候補だな」
『先だからだろっ!』
「じゃーな~」
『待て、おいっ、ちーーー』
ツー、ツー……
人影は、スマホを理人に投げ返す。
「俺、そろそろ帰るわ」
そう言って帰ろうとした時、周りが止める。
「七月に、行ってあげればいいのに」
「アイツの誕生日はさ、春吹のやつらが祝ってくれるじゃん? 俺いなくてもいーかなって」
「なら、」
「三月は、多分いかねー。仕事納めで忙しいしさ」
「でもっ」
雪芽は、どうしてもくるようにしようとする。
「それに、そーゆーのわかってて、アイツ事件起こすだろ?俺が行くように。 ならさ、その時まで待つわ」
そう言って、笑って、人影はさった。
静かな廊下には、暗い顔をした大人二人だけが残っていたーーー。
『七月十六日か、三月七日!』
電子タバコを軽く吸い、息を吐く。
人影は、宵衣の言葉を思い出していた。
「三月、七日か……」
七月十六日と並んでの、一大イベントの日だったな……。
「っと」
暗い、旧校舎の廊下の隅。
誰も来るはずのないそこで壁にもたれかかる男性が一人。
「面白くなってんじゃね?」
キャンディを、舐めながら、くつくつと、まるでどこかの誰かのように楽しげに笑う。
「あーくーしゅーみーねっ」
廊下の方から、桃色のワンピースを着た女性が歩み寄ってくる。
「それを言うなら、オメェもな」
「教師たるもの、生徒を助けるべきではなくて?」
からかいまじりに、彼女がそう言う。
教師たるもの、ねぇ。
お前がそれを本心で言うわけねーよな。
「マジで言ってんの?」
「はぁ?そんなわけないじゃない」
雪芽は、馬鹿みたい、と笑い、理人もそれにつられる。
「私が、私たちが大人信用する理由がないじゃない」
「裏切って、忘れて、のけものにして」
理人は、少し自分より背の小さな、その上少し前のめりになっている雪芽を見る。
また、雪芽もそんな理人を見つめる。
「踏み台としか思ってない大人なんか、クソ食らえよ」
いつもの春吹荘にいる時と変わらぬ笑顔で彼女は微笑む。
「女ってのは、怖いねー」
「あら、誰のこと?」
ニコニコ顔からは、殴るわよ?と言う脅迫が目に見えている。
「もちろん、春吹のやつら全員だよ」
逃げることをせず、理人は返す。
「えっ、陽崎ちゃんも?」
「あいつは、こぇーやつだな。 まぁ、見てな。面白くなるぜ?」
スマホで口元を隠すものの、クズな笑顔は隠しきれない。
雪芽もそれに乗り、悪い笑みを浮かべる。
「お前らさぁ、いい加減にしろよ」
廊下から、声がした。低さ的に、男性であろうか。
人影は、近づいてきて、ため息をつく。
「遅かったなぁ、&」
理人は、俺の勝ち、と子供が言うふうに笑う。
「お前はここが職場だろーが、ボケ。俺の職場からどんだけ離れてると思ってんだ?」
呆れまじりに、人影は問う。
「でも、数分じゃない?」
雪芽は首を傾げるものの、あとの二人は首を振る。
「「お前は規格外」」
「ハモんなくても良くない? というか、お偉い様が抜けてもよろしくて?」
からかいの色が滲む挑発に、人影は目もくれない。
「いや? 俺なんかよりもずっと忙しい管理職が、怠けてても平気な世の中なんでね」
皮肉を目一杯に含んだ、発言に少しムッとしつつも、雪芽は引きつった笑みで、微笑む。
「さっさと話しましょー」
「今回はなんだ?」
「陽崎がよ、ファンクラブに牽制されてる。 あと、アレから後々確かめたことだが、」
「生徒会、結構やばいわね♪」
理人のセリフを雪芽が奪う。
「おまえさぁ」
「ふ~ん♪」
そんな二人に目もくれず、そうか……と人影は呟く。
「実際に訴えられそうなこと、あるか?」
「焚き付ければ、やってくれそうだけどな」
「焚きつける?」
目を輝かせて雪芽は尋ねる。
「お前はやめろ」
そんな雪芽の頭を人影が手刀で叩く。
「帝みてぇのが増えると面倒だろーが」
「あんたたちだけでもう十分、面倒なんだけどっ」
「「なら増やすな!」」
ちぇー、と言いたげに舌を出す。
「生徒会の情報は毎度俺に流せ。やれることはやっとく。あと、」
「ジジイの話でしょー、テキトーにやっとくわよ」
「「ジジイww」」
「あんたたちさぁ、ハモるし、つぼるし、なんなの?!」
「いや」
「ふつーに」
「「悪友?」」
「悪友だけどぉ……。 はぁ、もういいわ」
「諦めはえーな」
「諦めは肝心だからな」
嫌味も込めて、人影が言うけれど、皆気にしない。
プルルル
「おっと呼び出しぃ~」
理人の電話が鳴る。
「この時間帯は……」
「帝宵衣だろ」
「ご名答」
スマホの画面を見せて、理人は答えると、電話に出る。
『早く来てくれないかなぁ? 待たせておいてそれはないだろ~』
「おまえさぁ、」
「あんたねぇ!」
まさか、宵衣が待っていると知らなかった二人は、理人に非難を浴びせる。も、それは効かない。
「いいことあんだよ、だから、水に流せ?」
『なんだい?』
不機嫌ながらも、宵衣は問う。
「&がいる」
『! ほんとっ?!』
一瞬で、宵衣の声がパァッと晴れる。
その間、人影は項垂れた。
『なぁ!』
「んだよ、うるせぇぞ」
『いつ帰ってくる?!』
「テンション高いって。 帰って行けるなら、自分から出向くだろ。ちょっと顔出しただけだよ」
『ボクも行くっ! どこ?』
子供のように、宵衣はせがむ。
「もう帰るから」
『待ってて!』
「無理。帰る」
『馬鹿ぁっ!』
「いー子にしてたら、卒業式には出てやるよ」
『なんでよりによって卒業なんだい?! 二年後じゃないかっ!』
「別に、イベントじゃん」
『なら、夏休みだにゃ』
「あぁ~、それは無理」
『なんで?』
「こないだのホテルん時、俺いたんだよな」
『はぁっ? 聞いてないぞ、そんなのっ』
「言ってない。誘うように言ったけど、連れてこねぇんだもん」
雪芽に少しだけ、電話を変わる。
「だって、神坂との会話してたじゃない」
『でも、アイツは別だっ。大人ばっかりずるい!ボクだって一応、大人組だからな?!』
「組ってだけだろ。 じゃ」
『待て!』
「なんだ」
『せめて、正月』
「えぇ……」
『七月十六日か、三月七日でもいーぞ♪』
「……三月が候補だな」
『先だからだろっ!』
「じゃーな~」
『待て、おいっ、ちーーー』
ツー、ツー……
人影は、スマホを理人に投げ返す。
「俺、そろそろ帰るわ」
そう言って帰ろうとした時、周りが止める。
「七月に、行ってあげればいいのに」
「アイツの誕生日はさ、春吹のやつらが祝ってくれるじゃん? 俺いなくてもいーかなって」
「なら、」
「三月は、多分いかねー。仕事納めで忙しいしさ」
「でもっ」
雪芽は、どうしてもくるようにしようとする。
「それに、そーゆーのわかってて、アイツ事件起こすだろ?俺が行くように。 ならさ、その時まで待つわ」
そう言って、笑って、人影はさった。
静かな廊下には、暗い顔をした大人二人だけが残っていたーーー。
『七月十六日か、三月七日!』
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