死に損ないの春吹荘 

ちあ

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四章 ……学校ってこんなんだっけ?

不安と、虚勢

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 電話からしばらく経った頃。ようやく、クラスの扉が開く。
「わりぃ」
 謝る気など一ミリも無い様子で、言葉だけで彼は謝る。
 クラスにはもう、自分と理人以外誰もいない。
「で?なんだい、センセー?僕、自慢じゃないけど補習を受けるよーな点数はとってないぞ?」
 宵衣は、わからないと言いたげに首を傾げて見せる。
 理人は、「いーや違う」と言って、笑いかける。
 ……嫌な予感がするなぁ?
「今週の、カウンセリングだ」
「いらないって言わなかったかにゃ?」
 カウンセリングなんていらないし、どーでもいい。
 なんなら、テストの方が断然マシだにゃ!
「問答無用なんだよ、こーゆーのは。やらなきゃ、俺がお局にぐちぐちと文句を言われるんだよ……」
「あははっ、大変だにゃ~♪」
 ボクは揶揄うように、センセーに笑みを見せる。センセーは呆れたようにため息をついて、先ほど入ってきたばかりの扉にまた手をかける。
「あははじゃねぇの……。とりま(とりあえず、まぁ)、残っとけよ」
「別に構わないが、どこへゆくのだね?」
 素直に謎だな。
 センセーに待ってろよ~と言われて、はや十五分は多分すぎてるぞ?
「ん?あぁ、職員室。ちょっと、荷物置いてくる。ついでに、プリントとか持ってくっから、そこらへんでグータラしてていいぞ」
「グータラって、キョーシが言っていいのかわからないけど、なぁ、飴食べていーか?」
 ボクはポケットから食べようか迷っていたキャンディーをボトボトっと落とす。
 チュッパチャップスとか言う飴が三本と、小包装された飴が二つ、ボクの机の上に散らばった。
「もう出してんじゃねぇか。まぁ、見つかんねーよーにしろよ~」
「いいってことだにゃ?」
「まぁ、そーゆーことだ。言ったら語弊あるから、遠回しにしてんだ、気が付けや、ボケ」
「生徒にボケとはいいのかにゃ~?」
「へぇへぇ、内申点やるから黙ってろ」
 めんどくさそうに、ボクの相手をセンセーはする。ほんと、露骨だにゃぁ……。
「やったにゃっ!あ、でも、屋上の鍵の方がいい~。 内申点は生活面以外は完璧なのだし~」
 屋上は申請しないと立ち入り禁止だし、申請は生徒会の方が通りやすいからにゃー。
 フツーにいつでも入れるようにしたい! 無論、アイツらは締め出す。
「ちぇっ、うぜぇ……。屋上の鍵な?わーったから、大人しくしてろよ」
「はぁい♪あ、あと、タバコは、匂いがつかない程度にしたほうがいいと思うぞ」
ギクっ
「! わかってるわ!」




 センセーが持ってきた、回答用紙と睨めっこをする。
 ……心理学はわからない。数学なんかの無機質なものを極めすぎたから。
 間の過程なんてどうでもいい。答えさえあれば。正しい答えを延々求められたから。
 差し出された用紙を見て、ぼんやりと考える。
 答えのない問題なんか、解けないよ。
 ……きっと、もう少し前のボクは解けたかもしれないけど~。
「問4の回答……森出会った動物は、アリ?」
「あぁ、蟻だよ。ちっこいのがちょこちょこってね」
「……嘘つくな?こーゆーのは、本心書いてくんなきゃ困るから」
「……本心を出すなんて無理だよ」
「ミョーな言い方すんじゃねぇ。いつも見たく、ウゼェくらいに堂々としてやがれ。 で、本当はなんだ?」
「犬」
「犬?小型犬か、中型犬か、大型犬か、どれだ?」
「シベリアンハスキー」
「はぁっ?」
「狼みたいな、犬ってことだよ。というかシキは、シベリアンハスキーだぞ!大きくて、もこもこしててな。 でも、妙に懐っこいんだ。一緒に歩いてくれて、ずーっと隣にいてくれるんだ」
 そう、ずっと、ずーっと。なにがあっても、決して離れはせずに隣にいてくれるんだ!
 そうだ。想像の中に出てきたのは、紛れもなく、シキ。彼だった。
 空想の中の森でさえ、隣で寄り添ってくれる。いつも、いつまでも。寂しい時も、悲しい時も、孤独な時も、いつだって、きっとそうなんだ。
 これから、先も、今だって、ずっと。隣にいてくれる……はずなんだ。
 シキは、ボクを置いて何処かに行かないって信じてるもの。
「いっつも、隣にいてくれるシベリアンハスキーが出てきたんだ。寂しい時も、どんな時も、ずーっとな♪」
「……、お前、まだ……」
「ん、なんだい?」
 窓際の席から、廊下側の席に座る理人を宵衣は見つめる。
 夕日が、後ろからそんな宵衣を照らす。
 いまの宵衣の表情は、あの時の、**で見た寂しげな、切なげな、大切なものを取られてしまった子供のような姿によく似ていた。
(俺は、俺は……「お前は、まだ、忘れられてないのか?」そんなこと、もう、言えるわけない。だって、答えは、決まってるんだから。
 答えは、きっとーーー)
「いや、なんでもねー。これは、心配度を表すやつだな。シベリアンハスキーってことは、かなりストレスや、悩み、心配事があるってことだ」
「ちぇ、嘘つくべきだったか……」
 宵衣が小さく舌打ちをする。
「嘘つくなぁ~? じゃあ、次だ。問五。もう、口述な。おまえ嘘つくもん」
「あーい」
「お前は、森の中を歩いている。隣にいるのは、誰だ?直感でいい」
「シベリアンハスキー!」
「人間だよ……」
「んんー?シベリアンハスキーしか思い浮かばないなぁ」
「はぁ……。アイツだな、りょーかい」
「違うぞ、シベリアンハスキーだ! 一応、シキとは言ってない!そして勝手に擬人化するなっ?!」
 宵衣は、自分からシベリアンハスキーと言っておきながら、理人の書こうとすることを否定する。
 一見すると、とても楽しげな、明るく聞こえるこの会話。
 でも、シベリアンハスキーと明るく、元気そうに連呼する声とは裏腹に、彼女の目は、昏く沈んでいて。彼女の心の闇が垣間見えるようで。
 今にも泣き出しそうな、あの時の顔を嫌でも思い出してしまった。
 そして、昏く沈んだ瞳は、今にも泣き出してしまいそうな、脆くて壊れてしまいそうな、そんな危うさをちらつかせていた。
「へぇへぇ」
「おい、唯一友達でいてくれた人とか書くんじゃない。ひどいじゃ無いか、ボクにだって友達はいるぞ!」
「へぇ、だれだよ?」
「シベリーーー」
「そのネタはもういいわ」
「ちぇっー。 クーちゃんは、もう友達だぞ?れっきとした、な」
 むすっとしつつも、宵衣は答える。
「あー、はいはい。そーゆー事にしときますよ」
 そんな回答を適当に受け流した。
「絶対テキトーにゃっ」
 宵衣が少し怒って、腕を軽くポカポカ叩く中、理人が悲しげな瞳を見せたのは、誰も気がつかなかった。
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