死に損ないの春吹荘 

ちあ

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五章 夏休みっ!

開催しましょっ

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 さてさて、やってまいりました!
 七月十六日!
 そう、宵衣先輩のお誕生日当日でございます!




 今、私たちは空き部屋にて宵衣先輩とゲームに勤しんでます。
 その間にセンセーや雪芽さんたちが用意してるんだよねー。
「くぅ……」
「まっけたぁー!」
 宵衣先輩はもちろん、何故だかソラも熱が入っていて、本気で勝ち負け気にしてるよ。
 いや、これの目的カモフラージュですけど?!
 まぁ下手に隠すとバレるから本気になってくれてもいーんだけどね。
 っていうかさ、関係ないけど神坂先輩、強すぎません?
 今のところ、神坂先輩が四連勝中なのですが!
「次は勝つなっ⭐︎」
 宵衣先輩、自信満々に宣言します。
 そーいえば、三回に一回は勝てるらしいから、回数的に次手加減してもらえるのか。
 ……とはいえ、ソラくん(私もだけど)一回も勝ててない!
 え、この人たち強すぎん?!
「……ん、時間だぞ」
 おぉ、読書に一人勤しんでいたユウが声かけてくれました。
「なんのー?」
「お昼~」
「あ、そっか⭐︎」
 宵衣先輩、ちょっとは疑うことを知りましょ。
 まぁ、私たち的には疑われちゃ困るけども。
「今回は、勝ってる宵衣先輩が片付けてねっ」
 そういってソラはコントローラーを押し付ける。
 不服そうに頬を膨らませるけど、うんと受け入れてくれた。
 まぁ、そのためにわざわざ交代制で片付ける人決めて、わざわざ宵衣先輩の順番工夫しましたからね。
「じゃ、私たちはご飯の用意手伝ってきますねー」
「お~」
 宵衣先輩がそう答えてくれたのを見届けて、私たちは部屋から出る。
 階段を降りて、二階に行ったところで大きくため息をついた。
「はぁ~」
「怖かったぁ」
「お前ら、純粋に楽しんでなかった?」
 一番まともに演じきったのは、ユウだもんね!
 でも、楽しんで、バレなかったんだから別にいーじゃん!大事なのはそこでしょ?
「「バレなきゃいーの!」」
「お前ら、揃いも揃ってそれやめろ」
 ツッコまれつつ、私たちは、ぞろぞろリビングに向かった。


「ゆーきめさんっ」
 顔を扉から覗かせると、テーブルの上には豪勢な料理と、真ん中には、ショートケーキ(ホール)。
 なぁ……っ!
 もう、豪華すぎん?!
 途中からしかゲームのところにユウが参加してなかったのは、このためか!
「ユウっ!」
「ユーくん!」
「「何作ったの?!」」
 私とソラは目を輝かせて、ユウを見る。
 彼はお前らさぁ、と言いたげに呆れ顔を見せる。
 いや、呆れられてもさ……。
 だって、私とソラだよ?何するかなんてさ、決まってんじゃん?ね?
「……ケーキと、ピザ、スパゲッティ」
 うん、ほぼやん。
 あるのは、サラダ、スープ、ピザ、スパゲッティ、あと骨つき唐揚げ、そしてケーキ。
 いや、半分!
 半分作っちゃってんじゃん!
「いーんだよ、それは」
「さっさと入れ」
 後ろから本気でうざそうな声が聞こえてくる。
 ……あ、瞬先輩、すいません。
 私たちは扉から離れて、あたりの装飾をチャチャっとやる。
 できるまで、神坂先輩が宵衣先輩のことを引き止めてくれるらしい。ゲームの話とかして。
(状況を教えているのは瞬先輩。先の件で少々このメンツの中では打ち解けたらしい。まだ会えてないけど)
 いや、ほんっとありがたいな!
「用意できたのか?」
 瞬先輩がそう聞いてくる。
「うん、できたわよ」
「わかった」
 ソファに座って、さっさとスマホを弄り、立ち上がる。
 お、神坂先輩に連絡したのかな?
「みんなっ、隠れてっ!」
 一番電気の近くにいたユウが電気を消して、みんなしゃがむ。
 雪芽さんから順に、クラッカーが回される。
トントン
 小さな足音が二つ聞こえる。
 これは、宵衣先輩とシキくんだな。
「あれ~、暗いな?」
 扉の前で立ち止まったらしい。まぁ、明かりがついてないの一目瞭然でふもんね。
「お~いーーーー」
パンッ
 パンッ!
 一斉にクラッカーが鳴り響き、
「「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」」
 私たちは一斉にそういった。
 宵衣先輩は、ポカーンと少しの間フリーズしてるけど、みんな気にしない。
 雪芽さんは固まった宵衣先輩の手を引いて、さっさと席に着かせて、コーンみたいな帽子をかぶらせる。
 灰咲先生が蝋燭に火をつけていく。
 数字の形をした蝋燭は、17歳に宵衣先輩がなることをはっきり示していた。
「ミカちゃん、フー!」
「え……?」
 まだ困惑してるんですか、宵衣先輩……。
 いつもと違いすぎない?
「お誕生日なんだから♪」
 そう言われてやっと気がついたらしい。目をまん丸にして、え、と言いたげに周りを見る。
「ボク、今日誕生日だっけ……?」
 えっ?
 え、え?! み、みなさん間違えてたんですか?!
 怖いんだけど本人がそういっちゃうと!
「七月十六日。お前の誕生日だわ、ボケ」
「ほーら、早く」
 二人に急かされ、宵衣先輩はふーっと、蝋燭を吹き消す。
「17歳、おめでとう♪」
「おっめでとー!」
「おめでとうございます」
「宵衣先輩、おめでとうございますっ」
「……おめでとう」
「おめでと~」
「ワンッ」
 みんなが口々にお祝いを言い、シキくんは宵衣先輩にどこから持ってきたのか、カードを渡す。
「ん?」
「あけてみればー?」
「これは、私たちじゃないからね、ミカちゃん」
 はい、そんなの用意してませんから。
 宵衣先輩は、破らないようにして、カード……こと、手紙を開けた。

『 宵衣ちゃんへ
 お誕生日おめでとう、宵衣ちゃん。
 さすがに、失礼かもしれないけど僕、やっぱり参加できない。
 ごめんね。
 だから、お手紙を書きました。
 宵衣ちゃんが、そばにいて、遊んでくれていたから、僕はここで、引きこもっているけど楽しく過ごせています。
 シーとも仲良くなれたし、瞬くんとは、連絡先を交換できるくらいにはなれました。
 それもこれも、宵衣ちゃんのおかげです。
 17歳、おめでとう。
 今年も、僕の優しいお姉さん分でいてほしいな。
       神坂 隆』

「リューくん……」
 にこっと、宵衣先輩は、笑う。
「中にあるのは~、ゲームのカセット?」
「……なぁるほど。これで対戦しろというのだなっ!」
 にゃはは!と、宵衣先輩はいつもの調子で笑う。
「じゃ、お誕生日会、はじめよーぜ! お腹すいたしにゃ♪」
 そうしてお誕生日会は始まった。



「宵衣先輩、これ私から」
 私はそういって、黄色のリボンがついた白い小箱を渡す。
「なんだい?」
「開けてみてください♪」
「ん?」
 言われるままに、宵衣先輩は、それを開ける。
「これは……」
 中に入っていたのは、綺麗な薄紫色の液体の入った、桃色のリボンがついた小さな瓶。
 それに、
『 宵衣先輩
 お誕生日おめでとうございます。
      by陽崎紅羽』
 とかいたメッセージカード。
 これが私からのプレゼント。
「香水です。 ラベンダーで、精神を落ち着ける効果があるんだとか。なんかの作用があって欲しかったのでそれにしました」
「ありがとにゃ! つけかたわかんないけどつける!」
 うん、私もわかんないから安心してくださいっ。女子力疑ったりしませんから!
「俺からは」
 そういってユウが差し出したのは、紙の袋。
 開けてみると、そこには、茶色の背景に黄色と緑で少量のクローバーが描かれた、可愛いけれど大人びた日記帳だった。
「日記?」
「はい。 始まったばかりではありますが、今年は結構いろんなことがありましたよね。そういうことを記せるものがあればな、と思ったので」
 そう言ってユウは、微笑む。
 わぁお。しっかりしてるねー、相変わらず。
 利用価値あるよねー、私のよりも。それに何と言ってもさ、日記本体にも、リボンが丁寧にかけられて、その間に『おめでとうございます』カードが挟まっててさ、それには、日記と同じクローバーが書かれてて、字も綺麗で……女子力高いってば!
 こっちの身になれ、ユウくん!!
「ボクからは~、はいっ」
 ソラは、ビニールの小さな袋を差し出した。
 宵衣先輩がその中から取り出したのは、オレンジのタオルと、小さなハンドバック。
「いやぁ、何あげればいーかわかんないし、無難だったらみんな変わったもの?出しそうだからかぶんないじゃん?」
 ね?と笑うソラと、確かに!と微笑む宵衣先輩。
 おいおいおい、私の理由もそこそこだがな、ソラ。お前の理由不純すぎない?!
「俺からは」
 そう言って、瞬先輩がサッと差し出したのは、細長い箱。
 開けてみるとそこには、ブラシが入っていた。しかも、二本。
 片方は、いわゆるブラシで、もう片方は櫛。
「ブラシは、髪に使っても、シキに使っても構わないものを選んだ。 櫛は、髪が長くて大変だろうから」
 そう言って、さっさと席に戻ってしまうけれど、ちゃんと瞬先輩が宵衣先輩のことを考えてプレゼントをくれたのが嬉しかったのか、宵衣先輩は満面の笑みで、ありがとな!と言った。
「じゃ俺は今のうちに~」
 と、宵衣先輩の手元にサッと袋をスライディングさせる。
「はっ」  
 そう言って、宵衣先輩はキャッチ。
 いや何このやりとり。
「ん~、これは」
 中にあったのは、ネクタイ。
「お前さ、いつもだる~っとしてつけてねーじゃん?」
「理由がひどいなっ!」
 宵衣先輩はツッコミつつ、「一応……ありがと?」と言う。
 ……あれ、このネクタイーーー。
「あの、このネクタイって、ちょっと古くありません?」
「え?」
「ん?」
「……本当だな」
 宵衣先輩は驚き、それに続いてソラ、ユウも声を上げる。
 灰咲先生は、「陽崎が気付くとは~」とか言ってる。
「それなぁ、俺の家にあったやつ。なんで買ったのかわかんねーけどちょーどいいだろ? ハルらしくってさ」
 そう言ってピースサインをする。
 ……春らしいの意味が全くわかんないんだけど。
 そのネクタイは、淡い青色で綺麗。でも、少し古い感じが布から伝わってきた。
 そして春が意味わからん!
「……ありがとにゃ?」
 そう言って微笑む宵衣の顔が、ほんの一瞬曇ったのに気がついたのは、雪芽と理人だけ。
「私からはこれよ♪」 
 そう言って最後にプレゼントを渡した雪芽さん。その袋の中にはヘッドフォンが入っていた。
 うわ、高そう!
「マジで?」
 宵衣先輩ですら、驚いてますよ!ねぇ!
「うん、マジ♪」
 笑顔で言うことやない!
「ありがたくもらうにゃ」
「ワンっ」
 それと同時にシキくんが鳴き、宵衣先輩の服の裾を引っ張る。
「なんだい?」
 シキくんの首元を撫でようと宵衣先輩が伸ばしてに、シキくんは加えていたものを落とした。
「!」
 それはとても綺麗な、藍色と深緑色の石だった。
「これ、くれるのかい?」
「ワンっ」
「ふふっ、そーかい。 ありがとね、シー」
 そう言って宵衣先輩はシキくんのことを撫でた。


 それからは、ワイワイ騒ぎながら、ケーキを食べ、ゲームをし、楽しく過ごして。
 宵衣先輩が、いつも以上に笑っていた気がした。
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