俺とアーサー王

しゅん

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5日目「騎士王のはじめてのおつかい」

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休みの朝の事だった。
「お···お前···」
俺の前には鎧を脱ぎ、俺の私服をパツパツにして着替えている、アーサーがいる。

「で、一体どういう風の吹き回しだ?」
コイツが鎧を脱ぐなんて風呂の時以外無いはずなのに。
「主、見てくださいセールです、しかも肉が」
ちゃぶ台の上にあった近くのスーパーのチラシを見せてきた。
「えっと、A5ランク和牛最大50パーセントオフ?舐めてんのか、絶対買わねぇよ、しかも前食っただろ」
呆れるように言う。
「いえ主、これは私のご褒美です」
ご褒美?
「ご褒美って、お前何かしたの?」
「ほら、このように朝早くから起きている私のご褒美で──」
「おやすみ、そんなのでご褒美あったら、皆苦労しないよ」

「──じ、主よ」
何だ、これは。
身体が軽く、ほんのり甘い匂いがする。そして声が聞こえてたような···
「勇者が···求めている···」
勇者?俺に何を求めるのだろう。
「俺に···一体何を──」
「A5ランク和牛」
俺は一瞬にして目が覚めた。

「うおっ!」
息をハァハァしながら、体を起こす。
夢にまで見るってどういうこった。
「アーサー!絶対買わないから──な?」
部屋にアーサーがいない。

いない!いない!いない!
トイレにも、押し入れにも、冷蔵庫の中にもいない!まさか!
急いで家の扉に向かうと、
「何だこれ」
そこには1枚の置き手紙が。
『主へ、戦争へ行ってきます、安全な家で待っていてください、生きて帰ります』
「何言ってんのコイツ」
イコール、スーパーでセールしてるA5ランク和牛を買いに行ったってことか。
戦争ってのはアレか、ママ達が戦う様に肉を取り合うから戦争ってか?
俺は思った。
「しょーもな」
でも俺は少し嬉しかった。
アイツが自分の為に、俺に頼らず行動している。これは列記とした成長ではないか?
「ま、無駄な買い物さえしなけりゃいいか」
一応、嫌がらせというか、エクスカリバーで素振りした。

「ただいま帰りましたッ」
ようやく帰ってきた。時すでに夕飯の時間。張り切った声を聞くにお目当てのものは買えたのだろう。
「おかえりー、でどうだった?」
アーサーの腕には何かのパッケージが入っているビニール袋。
アーサーがそれをゴソゴソと取り出す。
そしてちゃぶ台の上に置かれたのは、
「牛細切れ肉?」
千円にも満たない安い肉。アーサーのお目当てはこんな肉では──
「行った時既にA5和牛は売り切れており、でもその隣に──」

アーサーの話はこうだ。
既に売り切れて無くなっていたA5和牛、でもその隣には割引のされていない定価のA5和牛があったそうな。それにアーサーは手を出そうとした。
でも、なんやかんや悩んで俺の為に、という理由で安価な肉を買ってきてくれたみたいだ。
その話に俺はホッコリした。それと同時に感動した。
「アーサー、お前っ、成長したんだなっ!」
朝、俺より早く起きて、鎧というプライドを脱ぎ捨て、1人で買い物するという目で見ても分かるこの成長っぷり。
思わずアーサーを抱きしめてしまう。
そうだ、今日はアーサーの買ってきてくれたこの肉で最高に美味しく味付けした肉料理を作ろう。
早速俺がキッチンに入ると···
「あ、主、言い忘れてましたが、主のクレジットカードにまずA5和牛を買える金が無かったです」
やっぱさっきのやつ取り消しで。

あれから、美味しくご飯を食べて、風呂へ入って、布団を敷いて、寝ようとした時、ある事が起きた。
「主、私が買い物に行っている間エクスカリバーに触りましたか?」
ギクッ!と体が跳ねる。
やっべ、そういや素振りしたんだった。仕方ないココは正直に話してやるか。
「あぁ、でも大丈夫だよ、素振りしただけだから」
山を吹き飛ばした衝撃はアーサーがやるからこそ起きるのだ。俺なんかが降った所で何も起きないだろう。
「まずいです···」
え?まずいって何が──
「バレてしまいました···」
「バレた?何に?誰に?」
何かまずいことになっているのかいつになく深刻そうな表情で言ってくる。
俺がゴクリと固唾を飲んでからその答えは出た。
「キャメロットに···」
「あそ、おやすみ」
これからちょっとだけ面倒なことになるなんてこの時の俺は思いもしなかった。







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