俺とアーサー王

しゅん

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12日目「騎士王と見学」

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「······なにこれ」
俺の手には1枚の紙。そこには『招待状』と書かれていた。
「ふっ、やはり我が王の威厳がここまで轟いていとは···」
新入りのガウェイン卿が完全に厨二なことを言っているが無理する。
 「で、何の招待状なのですか?」
完全にアーサーもガウェイン卿の事を無視してる。
「何だ?チョコレート工場?」
ランスロットちゃんが言う。
···ガウェイン卿に誰か反応してあげろよ。
「よし、この紙を売ろう」
俺は早速スマホを出し、紙の写真を撮って──

「おいアーサー、この手はなんだ」
アーサーが俺の手をがっしり掴んで離さない。
俺は息を吸い直して
「絶対行かないからな!こんなガキっぽい所!まずこれ応募したの誰だよ!後、お前は助けに行ってやった事謝れ」
アーサーが帰ってきてからコイツはまるで何も無かったかのように振舞っているが、アーサー以外はかなり満身創痍である。
「おい、私も行きたいぞ!人間」
「えぇ、僕も興味があります」
この状況、大体の人間なら同調圧力によって、行くという判断になってしまうが、俺は違う。
「···チョコ買ってきてあげるから···ね?」

やっぱり、こうなってしまった。
俺、アーサー、ランスロットちゃん、ガウェイン卿が私服で並びながら前にある、でかい工場を見上げる。
その前にガウェイン卿がすんなり私服を着たことに感動した。

自動ドアを潜り、招待状を店員に渡し、清潔な服に着直そうとした時事件が起きた。
ビリッ
「おい、なんか完全に鳴っちゃいけない音がしたが」
俺じゃない、ランスロットちゃんは論外として、ガウェイン卿は既に着ているし···
「どうしたんだ?アーサー」
圧の籠った声で話しかける。
「いえっ、何でもないです、主」
「そーかそーか、じゃあお前の服が本当に綺麗か見てやるよ」
俺の手をアーサーが体で遮る。
「おいどけ」
「主···服を交換しませんか?」
この筋肉バカ!
工場側にバレないように服を取り替えた。

「こちらが──」
従業員の工房の解説をほぼ聞き流しながら歩いていく。俺たち以外にも見学者はいるようだ。
「おい!凄いなアレ!食ってきてもいいか?」
ランスロットちゃんが年相応の表情でガラスに張り付く。
「食ってきていいが、その後俺は何も保証しないからな」
「えぇ、後で作りたてを食べさせてあげますよ」
優しい従業員がそんな事を言った。
そこでふと俺は気になったことがあった。
「なぁアーサー、この招待状、幾らした?」
客には所々女子高校生だっている。それは多分チョコレート食べ放題!とかそういうのがあるからだろう。
「今はそんな事より、チョコレートですよ、主」
今コイツ本音を吐かなかったか?
「無視すんな、幾らか聞いたんだよ」
アーサーが走って逃げていく。
「あのっ!工場内は走らないでー!」
従業員の悲痛な叫びが響いた。

「では、ここにあるチョコレートはいくらでも食べていいものですので遠慮なさらずに」
何だかスゴく怪しいが皆バクバク食ってるし大丈夫だろう。
「なぁアーサー、何からく──」
「モグモグ···何か言いました?主」
アーサーの口の周りには黒い何かの痕が。
「いや···何でもない」
1人で食おうとホワイトチョコブースに行こうとしたら──
「あのっ、ほかのお客様のことを考えてください!」
「美味いですよ!この白いチョコレート!」
「本当だ!美味いですね!ガウェイン卿!」
従業員の忠告を無視しながらホワイトチョコを食い荒らすランスロットちゃんとガウェイン卿が。
「出禁にならないかな···」
むしろ、その方がいい気がする。

「ただいまー」
まるで死体のうめき声のような声を出しながら玄関に入っていく。
今から夜飯の準備と思うと気が遠くなりそうだ。
「ランスロット卿!アレやりましょう!」
「そうですね!アーサー王もやりましょう!」
コイツらは何なんだ。
俺がダルそうに台所に向かうと、
「主、手伝いましょうか?」
え?
コイツ、今なんて言った?手伝い?しかも自主的に。
「アーサー···」
鼻の奥がジンとする。
コイツはコイツなりに俺に恩返ししようとしてるのかもしれない。
「アーサー王の番ですよ!」
そう言われるとアーサーはドタドタ去っていった。
俺、泣きたくたなってきたよ。

「私さー、お前のこと人間っていうのめんどくさいなー」
コイツ急になんてこと言うんだ。
「呼び名なんて何だっていいさ」
そこでガウェイン卿が口を開く。
「ランスロット卿、我らも"主"と呼べば?」
え?
「それだ!」
えっ!
「「「主」」」
3人の声がハモる。
何だかスゴく恥ずかしいが、まぁいいか。何だか懐かしい感じすらする。
「冷めないうちに食えよ」

「主、僕の布団はどこですか」
あ、布団3つしか無ぇわ。
最終的にランスロットちゃんと添い寝という結果になった。
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