俺とアーサー王

しゅん

文字の大きさ
上 下
21 / 24

15日目「騎士王と旅行 その2」

しおりを挟む
「帰ってこない」
朝になっても、朝ごはんの時間になってもガウェイン卿は部屋に戻ってこない。
「まさか攫われた!?」
「あのガウェイン卿の事です。攫われてもやり返すでしょう」
俺の頭の悪い回答に正論をぶつけてくるアーサー。
だとしてもなぜ帰ってこない?そんなにここに楽しいところでもあったのか?
あるなら、俺も行ってみたい。
「もう船にいるのではないか?私も早く帰りたい」
お前も行きたいって言ってたくせに帰りたいとか言うのか、コイツ
「でも一理あるな、一旦行ってみるか、ほら荷物まとめろ」

「あれー?」
フロントに誰もいない。
従業員も団体の客も誰もいない。
「全員休みでしょうか」
宿に人が泊まってんのに休むとは一体どういうこっちゃ。
「もういいや、船行こうぜ」
俺も早く帰りたいからね!

「あれっ」
船がない、1隻すらない。この時間は船があるはずなんだけど?
「···おかしいですね」
アホのアーサーでもこの状況がおかしいのを気づいたらしい。
「これって···やばくね?」
孤立無援、取り残された俺達。
ガウェイン卿、俺たちを置いてまさか帰ったのか!?

「おい、アーサー、見てくれよ、船···船が1隻ここに···」
「主!気をしっかり!あれは地平線です!」
海の向こうに指を指していた俺にアーサーが叩いてくる。
あれから3時間くらい経った。
「しかし···一向に来ないな船、ガウェイン卿も居ないみたいだし」
旅館の散策に行ってたランスロットちゃんが帰ってそんな報告をしてきた。
「アイツにハメられたんだよ、俺たち」
体操座りになってそう呟く。
「ガウェイン卿が?あの誠実な者がそんな事···」
アイツ誠実なのか、初めて知った。でもなんでこんなことを?
「私、もう1度旅館行ってくる」
「おー、ってお前ただ旅館の漫画コーナー行きたいだけだろ」
ランスロットちゃんが走って行った──!



「主、今何時ですか?」
「えーと、1時だな、旅館の厨房行って飯食うか」
俺はようやく立ち上がって旅館へと歩き出す。
「早く帰りてぇ」
本当そう思う。

「「うほっ」」
巨大冷蔵庫を前にして思わず声が出る。中を開けるとそこには多くの食材が。
「食っていいよな?コレ」
「まぁ、仕方ない···ですよね?」
王が民の物を盗むというとんでもない光景が見れた。

「ランスロットちゃんは食ったのかな?」
「多分食べてないのでは?漁られたようには見えなかったので。ランスロット卿の分も残しておきましょう」
ランスロットちゃんの分の皿にご飯をよそってラップをかけて置いておく。
「俺もう少し食べたいから先岬に行っててくれ」
「わかりました」
そして、別れた。

十分にご飯を堪能した俺は厨房を出て、岬へと向かおうとする時、
「ありゃ?」
旅館の地下倉庫への扉に誰か入っていった気がする。白いワンピースのような···
···ランスロットちゃんか?
「おーい、ランスロットちゃんー」
地下倉庫の扉に向かって大きな声で呼ぶ。
反応は無い。
「ランスロットちゃんじゃなくても、ここの住民かな?船の情報とか聞けないかな」
そう思いながら俺は地下倉庫に入っていった。

「主、遅いですね」
いつまで経っても来ない。まさかアレより美味しいご飯が出来たり?今からでも戻ろうか。
そんな事を考えていると、
「ッ!」
音がした。まるで夜這いをするような隠れた音。
主が私を脅かそうとしているのか?それならいいのだが···
そして木の影から人が出てきた。
深くフードを被った何者かが。
「誰だ」
私は問う。
「流石です、がやはり貴方はダメですね」
グサッと音がした。
背中が熱い、それと同時にドクドクと何かが抜けていくのを感じる。
──もう1人いたのか···
意識が飛んでいく。
「あ···るじ···」
フードを被った者達は旅館に走っていった。





しおりを挟む

処理中です...