箱入りの魔法使い

しゅん

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陥落

走れ

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砂漠のど真ん中。

時間は夜遅く、人が出歩く時間帯じゃない。

そもそも夜の砂漠は冷える。

火でも焚いて朝を待つのが専決だ。

火があれば猛獣も寄ってこない。

その夜、私カチナは奇妙な夢を見たのだ。

私はクレイモア様に仕える一人。
その以前の記憶などいらない、クレイモア様さえいればいい。
だけど後ろから誰かが呼んでる。

「カチナ」と。

男の声だ、私と同じ服を着ている。

「カチナ、戻ってこい」

あれは私を惑わす悪魔だ。
クレイモア様に言われた通りに私は命令をこなす。

「俺の名はネス、忘れてしまったのか」

振り返ると男は消えており、いつの間にか朝が来ているのだ。

───

「朝か」

砂漠は昼になるととんでもない気温を誇る。

早めに王都に向かいたいところだ。

王を殺す、それがクレイモア様に与えられた私の使命だ。

「また利用されてるの?いい加減にしなよ」

「誰だ!」

確かに声が聞こえた、そうあれはまるで私の声だ。

なぜ私の声が聞こえる?

「悪魔だ...私の邪魔をしているんだ...!」

頭が痛い。

「クレイモア様...」

それでも私は王都へ向かう。

───

「ナツさん...行ってしまいましたね」

多分、瞬間移動系の固有魔法だろう。

「クロの容態はあまり良くない、傷は塞がらないし血も止まらない。危ない」

ここから病院のある所へ向かうと一日はかかりそうだ。

「どうすれば...!」

「お困りですかな」

聞き覚えのある声だ。

そうだ、よく子供の頃に...。

「──カイブ」

見知った顔がそこにはいた。

「怪我人をこちらで預かりましょう、我々はここに住んでいるのです」

「信用ならないな、突然現れて診せろだと?」

「違いますミスノルフさん、この人は」

「お久しぶりですねリッカ殿、話は後です。まずはそのお方を」

「リッカ、こいつ信用できるのか」

カイブは確かに昔、僕の面倒を見てくれていた。
しかしタイタリクの件で信用出来ない部分も強い。

というか僕は今回その事について聞きに来たのだ。

しかし屋敷ならすぐ治療に専念できるだろう。

「行きましょう、僕らが監視につきながら治療を」

これが最善だ。

ミスノルフさんは少し不満そうだったが、仕方なく屋敷に向かうことした。
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