箱入りの魔法使い

しゅん

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陥落

心の臓

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屋敷に着いた。

あの時のままだ、よく見ていた部屋の風景だ。

「クロさんは治るか?カイブ」

「なんとも言えません、ですが私目線から言わせてもらえばもう戦わないようが良いかと。両腕は断面が複雑で代わりのものを作るのも難しい」

クロさんは少し笑って、腹を抑えて気を失っている。

「よかった...」

同時に涙が出てきた。

「リッカ君、君も休んだ方がいい。顔に疲労が滲み出ているぞ」

そういえば特訓から全く休まずに今までやってきた。

「部屋は前のままですよ、好きなだけお使いください」

───

部屋に向かう途中、母さんの部屋の前を通った。

母さんを助けるために大学へ行ったのに、僕は一体何をしているんだろう。

今はまだ、母さんに合わせる顔がない。

僕はそのまま部屋を素通りしようとした。

その時ちょうどよくドアが開いたのだ。

「...母さん」

それは母さんだ、自分の力で部屋から出てきたのか。

しかし母さんの顔は前と同じで蒼白で、生気を感じない。

母さんは少し笑って僕を抱きしめてくれたのだ。

「えっ...母さん...?」

こんなこと初めてだ。

産まれてから愛情というものを知らない、僕から言わせてみればなんというか...

ナツさんとハルさんに似ている。

厳密には全然似てないんだけど、僕はそう感じた。

僕は抱き返したが、母さんの背中の触り心地は骨のゴツゴツとした不快な触り心地だった。

そして母さんは下の階へと降りていった。

「...まさか...な」

───

この世界にも夜は来る。

外は黒い雪が降っているが、長年住んでいるといつが夜で、いつが朝なのか勘で分かる。

使用人も、料理人も休みに着く時間。

その事を大広間のベンチで思っていた。

僕は寝られないでいた。

「寝れませんか」

カイブが来た。

「カイブに、聞きたいこと、いっぱいあったんだ」

「なんでしょう」

「何で昔、僕を知らない間に外に出したの。別れの挨拶くらい...」

言葉が詰まった。

本当に言いたいことはこんなことじゃない。

これは僕の思いだ。

「やっぱいいよ、タイタリクの事、僕に聞かせてよ」

「知ってしまったのですね、リッカ殿」

それからカイブは昔のことを話し始めた。


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