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1 絶対絶命ゴーカート

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「みんな、まだかしらね」
 窓の外を見ながら、乙葉が言った。
「多分、もうすぐきますよ」
 具合がよくなってきたのか、久遠が快活に言った。
「そうね」
 乙葉はそう言うと、人さし指を、テーブルに、トントン、と落ち着きなく、小刻みに動かした。
「鍵、本物だったらいいわね……」
「はい——あの、乙葉さん」
 久遠はなぜだか、いきなり改まって言った。
「なに?」
 指の動きを止めて、乙葉は久遠を、まっすぐに見た。
「最初に謝っておきます。ごめんなさい。僕、いまから縁起でもないことを言います」
 久遠はなぜか、突然、まじめな顔つきになっていた。
「縁起でもないこと?」
 けげんな顔をしながら、乙葉が聞き返した。
「はい。このままだと僕たちは、もしかしたら、もしかしたらですよ?」
 念を押すように、久遠が言った。
「え、ええ」
 急に、話の意図がよくわからないことを久遠が言い出し、乙葉は戸惑いながら言った。
「鍵が見つからなくて、いずれ食料も尽きて、飢え死にするかもしれない。それだけじゃなくて、ひょっとしたら、バーサークに殺されるかもしれない。そんなことが起こるかもしれないと、僕は思うんです」
 深刻な顔をして、久遠が言った。
「だから、そういうことが起こる前に、僕は、後悔をしないようにしたいと思っています」
 真剣にいう久遠を前にして、乙葉も同じように、真剣に話を聞かなければならない気がして、思わずかしこまって、姿勢をただした。
「それで、あの、こんな時だからこそ、乙葉さんに伝えたいことがあって」
 視線をそらしながら、久遠が言った。
「伝えたいこと?」
 乙葉は首をかしげた。
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