CLOVER

掌中の珠

襖荘202号室。何の変哲もない住宅街に立ち並ぶ賃貸マンション。
ここが俺の住む家である。ドアを開け、ただいまと声を掛ける。

当然返事はない。生きた人間は俺だけなのだから………
誰もいない1kフロア。玄関からすぐ左手にキッチンがあり、昨日
食べたカップ麺が無造作に置かれていた。

俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと扉を隔て、
自室へ入った。暗い部屋の中を隙間風がすうっと吹き抜け足元を
通り過ぎた。
時刻は9時を回っている。まずいな………遅くなってしまった。

そう思った矢先、急に背後から視線を感じた。
振り返るとベッドの下の暗闇の中から二つの目が覗いていた。
月明りに輝くその瞳は俺を突き刺すように睨んでいる。
途端に身体は硬直し、 その場から動けなくなった。