ダルマさんが消えた

猫町氷柱

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始動

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私は背後から聞こえる声に合わせ身体をじっと止め、次の合図を待った。明らかに人外の存在を感じ、心臓が握り潰されそうな感覚が伝わってくる。生きた心地がしないとはまさにこの状況を言うのだろう。
 空間が徐々に変化をしていく。フローリングから不気味な花が開花をした。その毒々しい花は地に根を張り瞬く間に成長していく。長く強靭な蔦が絡み合い一本の抜け道を蹂躙していく。
 そんな……
 私はあまりの光景に唖然とした。掛け声が聞こえている際にしか動けない私は絶望感に苛まれた。
 私が動けない間にも通路は徐々に狭くなっていく。早く通りたいのに……
「ダルマさんが転んだ」
そういう時に限って掛け声のスピードが速まる。これじゃ数歩進めるかどうか、全く玄関に近づかない。もういっそのこと仕掛けて一気にゴールまでの距離を詰めないと……それに精神もそう長くは保ちそうにない。
 そう思い止まりながらあれこれと考えていた時、背後からとてつもない異臭が漂ってきた。まるで生ごみを何日も捨てず腐らせたような腐敗臭が鼻を襲う。そして臭いは頭上に上がり目を刺激する。何もしてないのに涙が溢れてきた。臭いは激しさを増し、背中に突き刺さる視線が痛くなってきた。
 その嫌な気配がまさに今すぐ後ろにいることが実感できた。そうこちらが止まっている間に唯は近づいて来ていたのだ。背後から激しい破裂音が響いたと思ったら後ろから手が……青白い手が私を羽交い締めに。
 その手は明らかに生者の者とは思えないほど血の気がなかった。背後を振り返れば確実に黄泉の国へと連れて逝かれそうな気がした。私は絡みついた腕を振りほどこうと思いっきり暴れた。

「ダールマ……さん……」

 唯の声をした異形者はまるでロボットのようにお決まりのセリフを唱えている。腕はがっしりと私を捕らえ中々外れない。女性のものとは思えない力が私を捉えている。そうこうしているうちにも玄関への出口は閉ざされようとしていた。
 私は火事場のバカ力で腕を振り切り、全力で閉ざされかけた隙間を抜けようと駆け出した。道を閉ざそうとせん植物がまるで駆除対象を見つけたかのように私に牙を向いた。刺々しい植物が地面から姿を現し、行く手を阻んだ。

 「……がコロ……………」

 言霊が終わる。これは本当に時間がない。毒花は蕾が閉じたかと思うと一斉に私に向かってきた。私は成す術なく植物に射抜かれた。いや、そうする以外に私の生き残る道は残されていなかった。

 しばらく呆然としていたが痛みが現実に戻した。異形の植物が肩を貫き赤黒い液体がドクドクと溢れ出ていた。これは現実なのかそれとも夢なのか……だが痛みははっきりしているし視界が徐々に薄らいできているから多分現実なのだろう。

 私は疲れと疲弊からか気づいたら背後を振り返ってしまっていた。そこで見たのは笑顔で私を見下ろす唯の姿だった。

 「ンダ……鬼さん交代」

 視界は閉ざされ漆黒の闇が広がった。
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