ダルマさんが消えた

猫町氷柱

文字の大きさ
4 / 5

始動

しおりを挟む
私は背後から聞こえる声に合わせ身体をじっと止め、次の合図を待った。明らかに人外の存在を感じ、心臓が握り潰されそうな感覚が伝わってくる。生きた心地がしないとはまさにこの状況を言うのだろう。
 空間が徐々に変化をしていく。フローリングから不気味な花が開花をした。その毒々しい花は地に根を張り瞬く間に成長していく。長く強靭な蔦が絡み合い一本の抜け道を蹂躙していく。
 そんな……
 私はあまりの光景に唖然とした。掛け声が聞こえている際にしか動けない私は絶望感に苛まれた。
 私が動けない間にも通路は徐々に狭くなっていく。早く通りたいのに……
「ダルマさんが転んだ」
そういう時に限って掛け声のスピードが速まる。これじゃ数歩進めるかどうか、全く玄関に近づかない。もういっそのこと仕掛けて一気にゴールまでの距離を詰めないと……それに精神もそう長くは保ちそうにない。
 そう思い止まりながらあれこれと考えていた時、背後からとてつもない異臭が漂ってきた。まるで生ごみを何日も捨てず腐らせたような腐敗臭が鼻を襲う。そして臭いは頭上に上がり目を刺激する。何もしてないのに涙が溢れてきた。臭いは激しさを増し、背中に突き刺さる視線が痛くなってきた。
 その嫌な気配がまさに今すぐ後ろにいることが実感できた。そうこちらが止まっている間に唯は近づいて来ていたのだ。背後から激しい破裂音が響いたと思ったら後ろから手が……青白い手が私を羽交い締めに。
 その手は明らかに生者の者とは思えないほど血の気がなかった。背後を振り返れば確実に黄泉の国へと連れて逝かれそうな気がした。私は絡みついた腕を振りほどこうと思いっきり暴れた。

「ダールマ……さん……」

 唯の声をした異形者はまるでロボットのようにお決まりのセリフを唱えている。腕はがっしりと私を捕らえ中々外れない。女性のものとは思えない力が私を捉えている。そうこうしているうちにも玄関への出口は閉ざされようとしていた。
 私は火事場のバカ力で腕を振り切り、全力で閉ざされかけた隙間を抜けようと駆け出した。道を閉ざそうとせん植物がまるで駆除対象を見つけたかのように私に牙を向いた。刺々しい植物が地面から姿を現し、行く手を阻んだ。

 「……がコロ……………」

 言霊が終わる。これは本当に時間がない。毒花は蕾が閉じたかと思うと一斉に私に向かってきた。私は成す術なく植物に射抜かれた。いや、そうする以外に私の生き残る道は残されていなかった。

 しばらく呆然としていたが痛みが現実に戻した。異形の植物が肩を貫き赤黒い液体がドクドクと溢れ出ていた。これは現実なのかそれとも夢なのか……だが痛みははっきりしているし視界が徐々に薄らいできているから多分現実なのだろう。

 私は疲れと疲弊からか気づいたら背後を振り返ってしまっていた。そこで見たのは笑顔で私を見下ろす唯の姿だった。

 「ンダ……鬼さん交代」

 視界は閉ざされ漆黒の闇が広がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

処理中です...