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第5章:作戦準備
第53話:奇妙な宴
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※ ※ ※ アリアンナ邸 門 ※ ※ ※
晴天で、空気が澄んで、実に爽やかな陽気だ。
絶好の昼寝日和だろう。だからアリアンナ邸の門に台無しにするような下品ないびきが響くのは当然なのである。
「がー…、ぐあー…。」
門の前でいびきをあげてブレゴは寝ていた。
朝からずっと待っていたせいで、待ちくたびれてしまったようだ。
「…レゴ様。ブレゴ様。」
「へっ?」
ブレゴの体が揺すられ、その目が開いた。
寝起きでぼやける視界には馬を引き連れたフィリップがいた。
「爺さん?」
「何故、門にもたれかかって寝ておられたのですか?」
フィリップには聞きたいことがいっぱいだ。
夜明けに都を発って、屋敷に帰ってきたらお出迎えが寝ているブレゴなのだから。
「えぇっと、なんでだったっけ…?」
起きたばかりでぐちゃぐちゃの頭、混乱する記憶。
何故ここで寝ていたのか、ブレゴはそれを思い出すのに数十秒ほどを要した。
「そうだった!」
ブレゴはそう叫ぶと、フィリップへと腕を伸ばした。
掌を開いて、差し出された腕。握手を求めているのは間違いない。
拒否する理由などなく、フィリップは握手に応じた。
「ありがとう。」
ブレゴの口から出たのはただの感謝の言葉だった。
何の飾り気もないただの『ありがとう』だ。
「どういたしまして。このためだけにわざわざここで寝ておられたのですか?」
「ああ。」
偉人の名言、伝説に使われた台詞、もっと色んな言葉を使って感謝の意を示したかったが、もうこれ以上の言葉はブレゴには思いつかなかった。
だからこそこの言葉にただならぬ重みをフィリップは感じ取った。
「他の皆さんはどうしておられるのですか?」
「それは屋敷に入ってからのお楽しみだ。」
ブレゴと共に屋敷に近づいていくと、音楽が聞こえてくる。
それも完成された美しい音楽が。
※※ ※ アリアンナ邸 大広間 ※ ※ ※
「これは…。」
屋敷の大広間に入ったフィリップを待っていたのは宴だった。
アリアンナ邸に美しい音楽を響かせる音楽団、大玉に乗りながらジャグリングをする曲芸師、火吹き芸をこなす道化師、踊りを披露するダンサー。
先日のお祭りに参加して盛り上げていた者たちが今度はアリアンナ邸で芸を披露していた。
「爺さん、おかえりー!」
困惑するフィリップの元に一斉にバズラや飲んだくれ野郎といったチンピラ達が駆け寄って来た。
「一体、何が…?」
「見りゃ分かるだろ!宴だよ、宴!」
バズラ達は大声を張り上げて実に楽しそうだ。
だが声がデカいだけでやけくそな気がしないでもない。
「めでたいことが無くても宴をすれば楽しいんだよ!さあ、爺さんも楽しんでくれ!」
半ば強引に酒の入った杯を渡される。
ここまでされて飲まないのは失礼だろう。フィリップは杯の酒を一口だけ飲むのであった。
「おおおおおおおお!」
たった一口飲んだだけでこの盛り上がるバズラ達。
やはりどこかわざとらしい。
「執事よ、ようやく帰って来たか!」
こちらに来たのはティモシー・アリアンナ伯爵を乗っ取っている魔王だ。
随分と出来上がっている。間違いなくこの場で最も盛り上がっているのは彼だろう。
「これほどの宴を用意するとは気が利くではないか!昨晩から宴は続いているというのに、お前は都におるとは勿体ない真似をしたな!不在だった分、楽しめ!」
「この宴の用意を…、私が?昨晩からずっと?」
先ほどから初耳なことばかりだ。
昨日は都で手続きやらをやっていたのであって、こんな宴の話など聞いてもいないというのに。
「そんなはずは…。」
「爺さんも帰ってきたことだし、乾杯しようぜ!野郎ども、杯を持て!」
フィリップの発言を断ち切るかのようにバズラは大声を上げて、乾杯を促した。
それに倣うかのようにブレゴ、飲んだくれ野郎、チンピラ達も掲げるのであった。
とりあえずフィリップも。
「アリアンナ家のさらなる繁栄、そして爺さんのこれまでの貢献にカンパーイ!」
「カンパーイ!」
屋敷の者、呼ばれた曲芸師なども含めた盛大な乾杯が大広間に轟くのであった。
「何が何やら…。」
フィリップは喧噪の大広間で頭を抱えた。
曲芸や音楽は楽しくはあるのだが、訳が分からない。
ブレゴやバズラの様子もおかしいし、まるで異界に放り込まれたかのような気分だ。
「フィリップさん!」
自分を呼ぶ声が聞こえてフィリップは振り返った。
そこにいたのは鎧を着た人がいた。正確には鎧の小道具か。
「劇団長、あなたも呼ばれていたのですか?」
彼は劇団“春の陽だまり”の団長だ。
血気盛んでチャレンジ精神に溢れた青年だ。
「ええ。フィリップさんから先日渡された台本をもう伯爵様に披露する時がくるとは!時間がなくて突貫作業でしたが最高の芝居をお見せします!」
「あ…、あの台本ですね。実は直したい台詞がありまして。旦那様に披露する前に一旦、皆さんの芝居を私が確認してもよろしいでしょうか?」
「もちろんです!劇場で団員たちが稽古中なので来てください!」
フィリップは大広間を後にして、アリアンナ邸自慢の劇場へと向かった。
待っていたのは若き役者たちの芝居の指導だ。
彼はかつて夢を追っていた自分の姿を彼らに重ね、充実した時間を過ごすのであった。
晴天で、空気が澄んで、実に爽やかな陽気だ。
絶好の昼寝日和だろう。だからアリアンナ邸の門に台無しにするような下品ないびきが響くのは当然なのである。
「がー…、ぐあー…。」
門の前でいびきをあげてブレゴは寝ていた。
朝からずっと待っていたせいで、待ちくたびれてしまったようだ。
「…レゴ様。ブレゴ様。」
「へっ?」
ブレゴの体が揺すられ、その目が開いた。
寝起きでぼやける視界には馬を引き連れたフィリップがいた。
「爺さん?」
「何故、門にもたれかかって寝ておられたのですか?」
フィリップには聞きたいことがいっぱいだ。
夜明けに都を発って、屋敷に帰ってきたらお出迎えが寝ているブレゴなのだから。
「えぇっと、なんでだったっけ…?」
起きたばかりでぐちゃぐちゃの頭、混乱する記憶。
何故ここで寝ていたのか、ブレゴはそれを思い出すのに数十秒ほどを要した。
「そうだった!」
ブレゴはそう叫ぶと、フィリップへと腕を伸ばした。
掌を開いて、差し出された腕。握手を求めているのは間違いない。
拒否する理由などなく、フィリップは握手に応じた。
「ありがとう。」
ブレゴの口から出たのはただの感謝の言葉だった。
何の飾り気もないただの『ありがとう』だ。
「どういたしまして。このためだけにわざわざここで寝ておられたのですか?」
「ああ。」
偉人の名言、伝説に使われた台詞、もっと色んな言葉を使って感謝の意を示したかったが、もうこれ以上の言葉はブレゴには思いつかなかった。
だからこそこの言葉にただならぬ重みをフィリップは感じ取った。
「他の皆さんはどうしておられるのですか?」
「それは屋敷に入ってからのお楽しみだ。」
ブレゴと共に屋敷に近づいていくと、音楽が聞こえてくる。
それも完成された美しい音楽が。
※※ ※ アリアンナ邸 大広間 ※ ※ ※
「これは…。」
屋敷の大広間に入ったフィリップを待っていたのは宴だった。
アリアンナ邸に美しい音楽を響かせる音楽団、大玉に乗りながらジャグリングをする曲芸師、火吹き芸をこなす道化師、踊りを披露するダンサー。
先日のお祭りに参加して盛り上げていた者たちが今度はアリアンナ邸で芸を披露していた。
「爺さん、おかえりー!」
困惑するフィリップの元に一斉にバズラや飲んだくれ野郎といったチンピラ達が駆け寄って来た。
「一体、何が…?」
「見りゃ分かるだろ!宴だよ、宴!」
バズラ達は大声を張り上げて実に楽しそうだ。
だが声がデカいだけでやけくそな気がしないでもない。
「めでたいことが無くても宴をすれば楽しいんだよ!さあ、爺さんも楽しんでくれ!」
半ば強引に酒の入った杯を渡される。
ここまでされて飲まないのは失礼だろう。フィリップは杯の酒を一口だけ飲むのであった。
「おおおおおおおお!」
たった一口飲んだだけでこの盛り上がるバズラ達。
やはりどこかわざとらしい。
「執事よ、ようやく帰って来たか!」
こちらに来たのはティモシー・アリアンナ伯爵を乗っ取っている魔王だ。
随分と出来上がっている。間違いなくこの場で最も盛り上がっているのは彼だろう。
「これほどの宴を用意するとは気が利くではないか!昨晩から宴は続いているというのに、お前は都におるとは勿体ない真似をしたな!不在だった分、楽しめ!」
「この宴の用意を…、私が?昨晩からずっと?」
先ほどから初耳なことばかりだ。
昨日は都で手続きやらをやっていたのであって、こんな宴の話など聞いてもいないというのに。
「そんなはずは…。」
「爺さんも帰ってきたことだし、乾杯しようぜ!野郎ども、杯を持て!」
フィリップの発言を断ち切るかのようにバズラは大声を上げて、乾杯を促した。
それに倣うかのようにブレゴ、飲んだくれ野郎、チンピラ達も掲げるのであった。
とりあえずフィリップも。
「アリアンナ家のさらなる繁栄、そして爺さんのこれまでの貢献にカンパーイ!」
「カンパーイ!」
屋敷の者、呼ばれた曲芸師なども含めた盛大な乾杯が大広間に轟くのであった。
「何が何やら…。」
フィリップは喧噪の大広間で頭を抱えた。
曲芸や音楽は楽しくはあるのだが、訳が分からない。
ブレゴやバズラの様子もおかしいし、まるで異界に放り込まれたかのような気分だ。
「フィリップさん!」
自分を呼ぶ声が聞こえてフィリップは振り返った。
そこにいたのは鎧を着た人がいた。正確には鎧の小道具か。
「劇団長、あなたも呼ばれていたのですか?」
彼は劇団“春の陽だまり”の団長だ。
血気盛んでチャレンジ精神に溢れた青年だ。
「ええ。フィリップさんから先日渡された台本をもう伯爵様に披露する時がくるとは!時間がなくて突貫作業でしたが最高の芝居をお見せします!」
「あ…、あの台本ですね。実は直したい台詞がありまして。旦那様に披露する前に一旦、皆さんの芝居を私が確認してもよろしいでしょうか?」
「もちろんです!劇場で団員たちが稽古中なので来てください!」
フィリップは大広間を後にして、アリアンナ邸自慢の劇場へと向かった。
待っていたのは若き役者たちの芝居の指導だ。
彼はかつて夢を追っていた自分の姿を彼らに重ね、充実した時間を過ごすのであった。
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