サイネリア・エフェクト

きなこ棒

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第2話 平行世界から来た少女

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 「さえ!また一つステージが上がったよ!!」

 突然の少女の言葉に俺たちは唖然とし、立ちつくすしかなかった。事態を飲み込めず一同困惑の中、さえちゃんが顔を引きつらせながら言った。

 「悠里《ゆうり》ちゃん、私にはその話はよくわからないよ…。いきなりそんな事言われても…」

 「前にも説明しただろう!この世界は絶えず変化し、次元の上昇を起こしていると。私は運よく元のひどい世界線からこの素晴らしい世界へと転生することができた。今はこの地球に絶えず次元を超えエネルギーがなだれ込み、かつてないアセンションを起こそうとしている!今私の体に、そしてやがては君の体にも変化が訪れるだろう。それはとても喜ばしく素敵な事なんだ!」

 「ちょ…ごめん。何言ってるかわからない…」

 「そうだな、まあ大丈夫だよ!さえも自身がアセンションを起こせばすぐにわかるさ!私もこうやって過去の記憶を次々と思い出している。つい今朝方突然だよ!。小さい時の記憶、通ってた小学校の名前、飼っていたハムスターの名前、そして日本に起こり始めていた事件の数々…色々と思い出したところだ。思い出したくない辛い記憶もあったが、これは仕方がない。これからこの世界で生きていくにあたって、よりよい選択肢を導き出せるようにとの啓示なのだろう。とにかく今はまだ仕方ない。これから世界の理を徐々にわかっていってくれればいい」

 「………」

 ___一体この子は何を言っているんだ?…悪いがとてもまともとは思えない。本人は一生懸命なのかもしれんが、はたから見れば怪しい宗教勧誘にしか見えない。…うわ、横で聞いてる莉緒もドン引きしている。そりゃそうだろう。これでドン引きしないとしたら同類だけだ。現にさえちゃんもメッチャ困ってるし。莉緒の方に助けの目線を送っているが、莉緒の方もどうにもできない!って感じの視線を送っている。
 思ってたよりも強烈だな…なんと言うか…関わりたくないというか。顔は可愛いだけにもったいない。俺と莉緒が後ずさりし、足が別方向に向きかけたところで、悠里という少女からの声がこちらに!

 「ああ、さえは君たちと話をしてたんだった。勝手に割り込んで悪いことをしたね。私も今日また少し記憶を取り戻したのが嬉しくて、ついはしゃいでしまったよ!ハハハ…」

 彼女はさわやかに笑いながら、俺たちにそう告げた。

 「…い、いや、いいんだよ!俺たちも別に大したこと話してた訳じゃないし。気にしないでくれ」

 「じゃさえちゃん、私達もう教室戻るね!ごめんね、突然押しかけちゃって」

 莉緒がたどたどしく切り出す。…そりゃそうだ、ここはひとまず退散した方がいい。

 「でも知らなかったな。さえが男子に知り合いがいたなんて。あ、いやいやゴメン!別に変な意味じゃなくて、ただ単純にそう思っただけだ!ハハハ…」

 悠里という少女が何気なく言った言葉に、さえちゃんは困惑している。そりゃ、そんな直球投げたらさえちゃんも困るって。

 「…あの、違うんです。私たちがさえちゃんに尋ねたいことがあって、それで聞きに来たんです。枢君はただの付き添いです」

 莉緒が切り返した。困ってるさえちゃんを助けるためだろう。

 「へえ、一体君たちは何を聞きに来たんだい?」

 悠里が聞き返す。おそらく純粋な好奇心であろうが、なんでそんな事聞くかな…。悪気も全くなく、屈託のない笑顔のまま彼女は莉緒の方に顔を寄せた。

 「…い、いや、私たちは、…その、転生者の事について…」

 バカ!莉緒お前何を話してるんだよ!いくら気圧されたからって、正直に話す奴があるか!横で聞いてた俺は青ざめた。

 その瞬間だった。悠里の目が一気に輝き、満面の笑みでこちらを見つめる。まるで花のつぼみが一気に満開になるかの如くの変わりようで、こちらもただたじろぐしかなかった。…いや、コレ、絶対ヤバいやつだろ…。

 「そうか!君たちも転生者の存在を信じてくれるのか!!今日はなんて日だ!記憶を取り戻しただけじゃなく、私の理解者まで現れるなんて!いやあ、ありがとう!私は今、とても感激しているよ!」

 悠里は笑顔で詰め寄ると、俺たちに抱き着かんばかりに体を寄せた。おいおい、近すぎるって!つーか、いつ俺たちが理解者になったんだよ!?

 「い、いや俺たちは別に理解者というわけじゃ…ただちょっと話を聞きに来ただけだし…」

 「それは興味があるからだろう?だから別のクラスまで来てわざわざ話を聞きに来た。さしあたってはそんな些細な興味で十分さ!こういうのは偶然じゃない、必然だ。君もこの世界の理に引き寄せられているんだよ!ああ、嬉しいなあ!会う人間皆私の言う事を信じようとしない。リアルは勿論、ネットの中でも陰謀論乙なんて書き込みをする連中ばかりでね。さすがの私も困り果てていたんだよ」

 俺たちは呆気にとられて、言葉を失っていた。

 「ああ、自己紹介がまだだったね、私の名前は須磨悠理。二年C組だ。よろしく!」

 立ち尽くす俺たちを前に、勢いよく片手をあげ自己紹介をする彼女。最早逃げられないのか…。

 「…俺の名前は織部枢、よろしく…」

 勢いに気圧され、仕方なく自己紹介をする俺。何でこんなことに…。莉緒の方も諦めたようだった。

 「…私は山科莉緒、よろしくね…」

 「枢に莉緒か!私の事は悠里と気軽に呼んでくれ!これからは相談にのって欲しい事もあるだろうから、その時はよろしく頼むよ!あ、そうだ!SNSの交換もしておこう。私のアドレスは…」

 「い、いや、そこまではいいよ!まだお互いあったばかりだし!」

 さすがにSNSで繋がる事までは俺もしたくない。ここははっきりと拒否る。

 「そうか…、まあ仕方ない。徐々に話していけばお互い打ち解けるさ!SNSはその時にしておこう!ハハハ…」

 彼女は笑ってそう答えた。これ、全く諦めてないだろ…。

 「じゃ私もそろそろ元の教室に戻る。さえ、急に来て悪かったね。君たちもまた会おう!次はもっと深い話をしようじゃないか!」

 笑顔でそう告げると、颯爽と去っていった…。
 あとに残された俺たちは言葉もなく、三人の無言の時間がただ流れる。沈黙を破ったのはさえちゃんだった。

 「莉緒ちゃん、気を使ってもらってありがとね。二人とも見たでしょ。悠里ちゃん、昔はあんなんじゃなかったのに…」

 さえちゃんがどこか寂しそうにつぶやく。変わってしまった友人を心配する気持ちが伝わってくる。

 「元々ちょっと強引なところはあったけど、あんな訳の分からない事は言わなかったもん…やっぱりおかしいよ…」

 「そうなんだ…」

 「あ、じゃ私たちもそろそろ戻るね。ごめんねさえちゃん、なんか変な感じになっちゃって。」

 「ううん、こちらこそごめん。悠里ちゃんには、あまり莉緒ちゃんたちに迷惑かけないよう言っておくから…」

 微妙な空気の中、俺たちはその場を後にし自分たちの教室へ戻った。疲れた…それは莉緒も同じみたいで、お互いぐったりしながら席に着いた。だが、席でうずくまってるうちに別の疑問が頭をよぎった。

 …本当に、彼女の言っている事はただの妄想なのだろうか…!?

 確かに言っている事は荒唐無稽だし、とても信じられる内容ではないが、さっき彼女が言っていた内容はいわゆる「転生者」によるネット上での発言と非常に似通っていた。今までネットでしか確認できなかった存在が、リアルで確認できた___。そう考えると、まんざら無駄ではなかったかもしれない。こういったケースは2つのパターンがある。故意にデマ情報を流し詐欺的行為を働くか、もしくは本当にそれらの設定を信じ込み妄信した上での発言か。現在ネットでは、転生者による詐欺的行為の報告は出ていない。サンプル数が少ないのでまだこれだけでは断定できないが、そう考えると故意にデマを流すパターンの可能性はやや低い。やはり誰かによる洗脳の結果という事だろうか…?誰が、何のために?洗脳というのは、それによって利益がもたらされるからこそやるのであって、転生者の周りに怪しい組織や集団が関与していたという例は、今のところ報告されていない。あくまでネット上だけの推測に過ぎないので、本当のところは誰にもわからないけど。

 …だめだ、一度考えだすと止まらなくなる。妙な好奇心を持ってしまうのは俺の悪い癖だ。…まさか本当に平行世界からやって来たのだろうか!?

 ありえない。それだけはない。
 何にせよもっと調べてみる必要があるな…少なくとも自分が納得できるところまで!
 そんなことを考えていたら、莉緒が申し訳なさそうに声をかける。

 「ごめんね、口を滑らせちゃって…うっかり転生者って言っちゃった…」

 「大丈夫だよ。俺の方こそ変な事頼んだせいでお前まで巻き添えになっちゃってごめんな。後は俺だけでやっとくから…」

 「え、枢君また彼女と会うの?」

 「ああ、疑問に思ってるのは変わらないからな。ひょっとしたら行方不明事件の糸口もつかめるかもしれないし」

 「私はあんまり関わらない方がいいと思うな…なんかあの人怖い」

 「そりゃもっともだ、ありゃ普通じゃないな。でもこのままいつまでも悶々とした空気の中にいるのも嫌だ。手がかりになるのなら、調べて少しでも手がかりをつかんでやる」

 「枢君一度調べだすとトコトンやるよね。私はパス」

 うんざりした表情で莉緒が言う。無理もない、それが普通だろう。
 
 「とりあえず、気を付けてね」

 力なくそう言って彼女は席に戻った。ああ、午後の授業もだるいなあ……。
 いつものように半分寝ながら午後の授業を過ごし、あっというまに放課後になった。

 「帰ったらネットで調査の続きだな、今回はもう少し転生者に重点を置いて…」

 俺がそんな独り言をつぶやき帰り支度をしていると、友達の道也から声をかけられた。

 「帰宅部はいいなあ。俺も帰りてえよ」

 「うるせー。お前が好きで選んだ部活だろ。とっとと行ってこい」

 「わかってるけどよ、最近皆テンション低くて俺もやる気しないんだよなあ」

 道也のラグビー部らしいゴツイ体格で、風貌に似合わない弱気な発言にこちらも戸惑う。

 「やっぱ皆そうなのか…まあ、しょうがないよな」

 「早く事件解決してくんねえかな。秋の試合に向けてこれからが追い込み時だってのによ…」

 俺たちが湿った会話を交わしていると、突然ガラッとドアをけたたましく開く音が聞こえた。何事だよ…?

「枢!会いに来たぞ!さあ、話の続きをしよう!」

 ドアを勢いよく開け皆を唖然とさせている事も全く気にせず、教室に乗り込んできた悠里の姿がそこにはあった。マジかよ…。

 「おい枢!誰だよあの女子!いつの間にあんな可愛い子と…ふざけんなよ枢のくせに!」

 「くせにってなんだよ!そんなんじゃねえよ!ただちょっと話すだけだ。お前が想像してる事は微塵もないから安心しろ」

 「そうか、よかった…お前に卒業を越されたくねえからな。安心したよ」

 「なんだよ卒業って!…俺は行くから、じゃあな」

 「おう、抜け駆けすんじゃねえぞ」

 道也はヘラヘラ笑いながら俺を見送った。…ったく、そんないいもんじゃないっつーの。ブツブツ言いながら彼女のところに向かう。

 「よし枢!とりあえず話したい事が沢山ある!まずは…」

 「ちょっと待った。さすがにここで話すのはやめようぜ。近くにファミレスがあるから、そこで話そう」

 「そうだな、それがいい!大っぴらに話せない事もあるしな」

 何が聞けるのか九割の不安と一割の好奇心を抱きながら、俺たちは学校を出てファミレスへと向かった。外はまだ全然明るく、暑さが容赦なく降り注ぐ。俺は暑さによる汗とは明らかに違う汗をかいている事を自覚しながら、何か運命的な選択肢が決定づけられた感覚で頭の中が満たされた。

___これで、正しかったのだろうか…。そう思わずにはいられなかった。
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