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第6話 異世界へのゲート
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季節も秋になり、だいぶ涼しくなった。あれから悠里はSNSで知り合った、まほりんさんと直に会ったらしい。なんでも結構打ち解けて、その後も何回か会って話してるらしい。
まほりんさんという人はやはり女の人だったらしく、なんでも機械工学が専門でどこかの企業の研究職についているとか。二人は実際に会って、お互いが異世界から来た人間である、と実感したらしい。俺としても非常に気になるところだ。また近々悠里と直に会って、話を聞かなければいけないな…。
そんな事を考えていると、悠里からメールが来た。今度悠里とまほりんさん、そしてなんと俺の三人で会おうというものだった!
「はあっ!?」
おもわず声が出てしまい、周りが反応する。いや、ゴメン、何でもないんだ…。
しかし、まさか直にもう一人の転生者らしき人間と会えるなんて、これは思ってもない機会だった。俺は深く考える事もなく、OKと返信する。
数日が経ち、俺たちは今都内にある喫茶店でまほりんさんを待っている。喫茶店といってもオープンカフェがあるようなチェーン店ではなく、昔ながらのこじんまりとした喫茶店だ。
「でも、緊張するな…」
「別に緊張する必要はない。まほりんさんはとてもいい人だし、君の質問にも適切に答えてくれるだろう」
「ああ、それもあるけど、やはり俺にとっては二人目の転生者だからな…」
「この先何人でも会う機会はあるさ。あっ、来たね」
悠里が視線を向けた先を見ると、スラっとした若い女性がこちらに向かって歩いてくる。うん、なかなか綺麗な人だ。悠里が立ち上がり続いて俺も立ち上がる。
「あら悠里ちゃんこんにちは。今日はお友達も連れてきたのね」
「こんにちはまほりんさん、お久しぶりです。こちら織部君です。今日は面白い話が聞けるんじゃないかってワクワクしてるんですよ彼」
「いや、別にワクワクというか…あ、どうも、織部です」
「初めまして、今日は私たちの元居た世界に興味があって来たんでしょう?ご期待にそえるかどうかわからないけれど…」
「あ、いや、話が聞ければいいんです。よろしくお願いします」
まほりんさんはボブカットにメガネがよく似合うかわいらしい感じの人で、服装は落ち着いた感じのブラウスとロングスカートでなかなかいい感じだ。研究者と聞いて身構えてたが、この人なら大丈夫な感じがする。
俺たちは挨拶を済ませ着席し、飲み物を注文した。悠里が早速まほりんさんに話しかける。
「あれからまたどんどん増えてますよね!私も今月だけで十人くらい同胞を新たに見つけました!まだまだ増えますよ!」
「そうね、この三か月間の累計だけでもすでに二千人はこの世界に移り住んで来てるわね」
俺は一瞬何を言ってるのか分からなかったが、もしかして転生者の数か!?二千人!?そんなにいるのか…。俺はたまらずまほりんさんに問う。
「あの…、それ転生者の数ですか?二千人も…」
「そうよ。正確な数は私もわからないけど、私がネットで調べた限りではこの三か月間で二千人もの同胞たちが来ているわ」
「同胞?」
「あなた達が『転生者』と呼んでる人達よ。私たちは同胞って呼んでるの」
それは確かに納得だ。俺たちの視点じゃない…この人たちからみればそう呼ぶよな。
「悠里が言うにはなんかそっちの世界って、核戦争中…って聞いたんですけど、そうなんですか?」
まほりんさんは少し神妙な面持ちをしながら、はっきりと答えた。
「ええ、そうよ。大勢の人たちが死んだわ。家族、親類、友人、恋人…皆何らかの形で戦争に巻き込まれて死んでいったわ」
「そうなんですか…」
「枢君には言ってなかったが、実は私の両親も向こうの世界では死んでいる。こっちの世界に転生してきて生きた両親を見たときには…驚いた気持ちと混乱したのと、何よりも嬉しくてたまらなかった。久々に声をあげて大泣きしたよ」
「そんな事があったのか…」
「向こうの世界の核戦争を正しく認識しているか、していないか。これだけでなりすましの人間か同胞かがすぐに判別がつくのよ。私たちには誤魔化しようのできない事だからね」
「そうですよねまほりんさん!だから私たちの世界を騙り、いい加減なことを言う人ってすっごくムカつくんです!もちろんそういった連中はニセ同胞リストに入れて即ブロックしますけど!」
「なるほどな…そうやって転生者を見分けていたのか…」
「今では同胞たちのコミュニティも私が作ったし、先週はオフ会もやったわね」
「コミュニティ?そんなのあるんですか…」
「ええ、そうよ。他者からの攻撃を避けるためにSNSなどのオープンな空間ではやっていないけど、私が同胞認定した人には特別にコミュニティのアカウントのパスワードを教えているの。もちろん悠里ちゃんもコミュニティに参加してるわ」
「先週のオフ会、楽しかったー!もう、みんな信じてもらえない鬱憤があるからすっごくお互いの気持ちがわかってるんだ!他にも向こうの世界は地獄だったね…とか色々同胞同士の話は盛り上がったよ!」
悠里が興奮気味にまくしたてる。なるほど、こいつも色々たまってたんだな…。
「君は織部君っていったわね。君はコミュニティには招待してあげられないけど、こうやって私達同胞の話をこの世界の人間に認識してもらえるのは歓迎だわ」
「ああ、どうも…」
まあ、認識って言うか、単なる好奇心なんだけど…。しかし本当に転生者は存在するのか…実際まほりんさんに会ってみると、ごく普通の女性といった感じで不審な点は見当たらない。なんか俺まで信じざるを得なくなってきたというか…これで本当にいいんだろうか?
「まほりんさん、枢君は良い理解者です!他にももっと理解者が増えるといいですね!」
そう言うと、まほりんさんが少し間をあけながら、少し声のトーンを下げてこう言った。
「そうなの…?まだ半信半疑、いや疑う気持ちの方が強いんじゃないかしら?いきなりこんな話、受け入れる方が無理があるわ」
めっちゃドキッとした!…いや、完全に図星です!!俺は冷や汗をかきながらどう弁明しようか考えていた。
「枢君、そうなのか!?私はてっきりわかってくれてるとばかり…」
悠里が驚きの表情を隠さずに言う。いや、だからそれは…
「いや、悠里、ちょっと待ってくれ。まあ、なんというか…」
「別にいいじゃない二人とも。いきなり証拠もなしに信じろという方が無理があるわ。疑う気持ちがあっても、全否定してたわけじゃないからこそ、こうやって私たちの話を聞きにここまで来てくれた訳だし。人の信頼を得るには時間がかかるものよ。私はこうやってこの世界の人間にも、じっくりこの現実を受け入れていってほしいって思ってる。彼が今日ここに来て話を聞いてもらうだけでも収穫は十分にあるわ。悠里ちゃんもあんまり無理言っちゃダメよ」
まほりんさんの言葉を聞き、少し悠里も落ち着いたようだ。
「確かにまほりんさんの言うとおりだな。私が勝手に早合点してたようだ。でも、まほりんさんの話を聞いて枢君も少しは信じるようになったろう?」
悠里が俺に対して確かめるように言う。まあ正直全肯定するわけじゃないが、全否定もしなくなったというのが正直な感想だ。超常現象ってのも、本当にあるのかもしれない。
「ああ、少なくともまほりんさんは信頼できそうな人だってわかったよ。頭から否定する気がなくなったのは確かだ」
「それでいいのよ、これからどんどん私達の事を知ってもらえればいいんだから」
そうまほりんさんは笑いながら言ってくれた。おかげで少し落ち着いたよ。
そしてしばらく俺は、注文したピザトーストを食べながら、向こうの世界の話をまほりんさんと悠里から聞かされた。戦争の話や生き残った人の話、こちらの世界と向こうの世界の差についてなど。聞いた限りでは、核戦争以外はこちらの世界線とあまり大差ないようだった。
「なるほど、戦争以外はこっちと変わんないんですね」
俺がそう言うと、まほりんさんは少し考えながら、
「まあ、科学技術は向こうが少し上だったけどね。私も向こうでは兵器開発なんてやってたわけだし。こちらの世界では自動車メーカーの技術者だけど。転生して、ああ、私ここの世界では車作ってるんだ、って思ったわ」
笑いながらまほりんさんはコーヒーに口をつけた。なんか少しなじんできたように感じる。そういえばあの話題を振ってなかった。
「そういえば最近ネットで、転生者の存在というのはデマで、実は洗脳実験をやっているだけ…ってのを見ました。成功すれば転生者として記憶が植え付けられる。失敗すれば秘密裏に処分される。最近多い行方不明者はそれが原因だ…みたいな。でも今の話を聞いたら、やっぱその説の方がデマなんだ、って感じですね」
俺が何気なくそう言うと、まほりんさんは一瞬固まったように見えたが、すぐに笑顔を取り戻し、
「勿論デマよ。でもなかなか面白いデマよね。最近多い行方不明者がでる理由にもなるし。こういう発想自体は嫌いじゃないわ」
「ちょ、ちょっとまほりんさん!何言ってんですか!あれが面白いなんて…」
あわてて悠里がツッコむも、まほりんさんは笑みを絶やす事なく静止し、
「いいじゃない、あんなデマにいちいち怒ってたらきりがないわ。正しいのは私達なんだから、悠里ちゃんももっと大らかに構えないとダメよ」
「そ、そうですね…」
確かに完全なデマであるなら気にすることはない。むしろまほりんさんのように笑って流すのが正解だろう。だが、世界線移動なんて言う超常現象を否定できないのと同様に、この洗脳説も否定できないだろう。二つとも、悪魔の証明ってやつだ。どっちが正解でもおかしくない。俺がそんなことを考えていたら、悠里が突然スマホをこちらに見せてきた。
「まほりんさん、これまほりんさんのお部屋ですよね!」
まほりんさんが新しくSNSに更新した画像だろう。なるほど、女性らしくかわいいインテリアが色々置いてある。
「まためっちゃかわいくなりましたね!あれ、鉢植えの花も増えました?」
「ええ、同じサイネリアだけどいろんな色のタイプを揃えたかったの。やっぱりお気に入りの花が近くにあると元気になるしね」
サイネリア…確か向こうの世界で人気のある花だっけ。俺は花はよくわからないから気にしてなかったが、よくみれば沢山鉢植えで置いてある。まほりんさんはその画像を見ながら、どこか遠い目をしていた。
「私ね、転生してきた時このサイネリアの鉢を抱えていたのよ。お部屋の中で場所を変えようと持ち上げたときに、なんか世界が一瞬反転したような感じがして、気づいたらこの世界にいたわ。あの時はただビックリしたけど、今考えてみれば、ひょっとしたらこのサイネリアの花が私をこの安全な世界に運んできてくれたのかも、なーんて考えちゃったりするのよね」
その冗談に俺も悠里も笑った。もし本当ならそれは素敵な事だろう。その後も色々話して気づけば結構時間がたっていた。ああ、なんか楽しかったな…。
「じゃあそろそろお開きにしましょうか?今日は楽しかったわ」
「こちらこそありがとうございました!また会いに来ますよ!」
悠里が元気よく言う。こいつも楽しそうで何よりだ。
「俺も今日は色々聞けて楽しかったです」
「織部君も、機会があったらまた会いましょう。悠里ちゃんには次は約束してたサイネリアの鉢を持ってくるから、楽しみにしててね」
「いいですね!可愛いやつをお願いします!」
「何だ悠里、鉢植えなんかもらうのか」
「ああ、まほりんさんはサイネリアの鉢植えを沢山栽培しててね、みんなに配ってるらしいんだ。私もそのおすそ分けに預かろうという訳だよ」
「へえ。そうなんだ」
「織部君ももしよかったら一鉢どう?次の機会にあげるわよ」
まほりんさんが笑いながら言うので、さすがに俺は、
「あ、いや、俺は別に大丈夫です。でもよっぽど好きなんですね、サイネリアが」
「ええ、大好きよ。地球上を埋め尽くしたいくらいに」
なんか、一瞬まほりんさんのメガネの奥が光ったような気がした。気のせいか…。
俺たちは喫茶店を後にし、そのまま帰路についた。途中の駅で悠里と別れ、俺は一人物思いにふける。…なんか、心の奥にひっかかるというか、別に大したことじゃないはずなのに…。
「サイネリアかあ…」
特に何かを意識する事なく、つぶやいていた。電車の窓から見た夕焼けが、少し切なく感じた。
まほりんさんという人はやはり女の人だったらしく、なんでも機械工学が専門でどこかの企業の研究職についているとか。二人は実際に会って、お互いが異世界から来た人間である、と実感したらしい。俺としても非常に気になるところだ。また近々悠里と直に会って、話を聞かなければいけないな…。
そんな事を考えていると、悠里からメールが来た。今度悠里とまほりんさん、そしてなんと俺の三人で会おうというものだった!
「はあっ!?」
おもわず声が出てしまい、周りが反応する。いや、ゴメン、何でもないんだ…。
しかし、まさか直にもう一人の転生者らしき人間と会えるなんて、これは思ってもない機会だった。俺は深く考える事もなく、OKと返信する。
数日が経ち、俺たちは今都内にある喫茶店でまほりんさんを待っている。喫茶店といってもオープンカフェがあるようなチェーン店ではなく、昔ながらのこじんまりとした喫茶店だ。
「でも、緊張するな…」
「別に緊張する必要はない。まほりんさんはとてもいい人だし、君の質問にも適切に答えてくれるだろう」
「ああ、それもあるけど、やはり俺にとっては二人目の転生者だからな…」
「この先何人でも会う機会はあるさ。あっ、来たね」
悠里が視線を向けた先を見ると、スラっとした若い女性がこちらに向かって歩いてくる。うん、なかなか綺麗な人だ。悠里が立ち上がり続いて俺も立ち上がる。
「あら悠里ちゃんこんにちは。今日はお友達も連れてきたのね」
「こんにちはまほりんさん、お久しぶりです。こちら織部君です。今日は面白い話が聞けるんじゃないかってワクワクしてるんですよ彼」
「いや、別にワクワクというか…あ、どうも、織部です」
「初めまして、今日は私たちの元居た世界に興味があって来たんでしょう?ご期待にそえるかどうかわからないけれど…」
「あ、いや、話が聞ければいいんです。よろしくお願いします」
まほりんさんはボブカットにメガネがよく似合うかわいらしい感じの人で、服装は落ち着いた感じのブラウスとロングスカートでなかなかいい感じだ。研究者と聞いて身構えてたが、この人なら大丈夫な感じがする。
俺たちは挨拶を済ませ着席し、飲み物を注文した。悠里が早速まほりんさんに話しかける。
「あれからまたどんどん増えてますよね!私も今月だけで十人くらい同胞を新たに見つけました!まだまだ増えますよ!」
「そうね、この三か月間の累計だけでもすでに二千人はこの世界に移り住んで来てるわね」
俺は一瞬何を言ってるのか分からなかったが、もしかして転生者の数か!?二千人!?そんなにいるのか…。俺はたまらずまほりんさんに問う。
「あの…、それ転生者の数ですか?二千人も…」
「そうよ。正確な数は私もわからないけど、私がネットで調べた限りではこの三か月間で二千人もの同胞たちが来ているわ」
「同胞?」
「あなた達が『転生者』と呼んでる人達よ。私たちは同胞って呼んでるの」
それは確かに納得だ。俺たちの視点じゃない…この人たちからみればそう呼ぶよな。
「悠里が言うにはなんかそっちの世界って、核戦争中…って聞いたんですけど、そうなんですか?」
まほりんさんは少し神妙な面持ちをしながら、はっきりと答えた。
「ええ、そうよ。大勢の人たちが死んだわ。家族、親類、友人、恋人…皆何らかの形で戦争に巻き込まれて死んでいったわ」
「そうなんですか…」
「枢君には言ってなかったが、実は私の両親も向こうの世界では死んでいる。こっちの世界に転生してきて生きた両親を見たときには…驚いた気持ちと混乱したのと、何よりも嬉しくてたまらなかった。久々に声をあげて大泣きしたよ」
「そんな事があったのか…」
「向こうの世界の核戦争を正しく認識しているか、していないか。これだけでなりすましの人間か同胞かがすぐに判別がつくのよ。私たちには誤魔化しようのできない事だからね」
「そうですよねまほりんさん!だから私たちの世界を騙り、いい加減なことを言う人ってすっごくムカつくんです!もちろんそういった連中はニセ同胞リストに入れて即ブロックしますけど!」
「なるほどな…そうやって転生者を見分けていたのか…」
「今では同胞たちのコミュニティも私が作ったし、先週はオフ会もやったわね」
「コミュニティ?そんなのあるんですか…」
「ええ、そうよ。他者からの攻撃を避けるためにSNSなどのオープンな空間ではやっていないけど、私が同胞認定した人には特別にコミュニティのアカウントのパスワードを教えているの。もちろん悠里ちゃんもコミュニティに参加してるわ」
「先週のオフ会、楽しかったー!もう、みんな信じてもらえない鬱憤があるからすっごくお互いの気持ちがわかってるんだ!他にも向こうの世界は地獄だったね…とか色々同胞同士の話は盛り上がったよ!」
悠里が興奮気味にまくしたてる。なるほど、こいつも色々たまってたんだな…。
「君は織部君っていったわね。君はコミュニティには招待してあげられないけど、こうやって私達同胞の話をこの世界の人間に認識してもらえるのは歓迎だわ」
「ああ、どうも…」
まあ、認識って言うか、単なる好奇心なんだけど…。しかし本当に転生者は存在するのか…実際まほりんさんに会ってみると、ごく普通の女性といった感じで不審な点は見当たらない。なんか俺まで信じざるを得なくなってきたというか…これで本当にいいんだろうか?
「まほりんさん、枢君は良い理解者です!他にももっと理解者が増えるといいですね!」
そう言うと、まほりんさんが少し間をあけながら、少し声のトーンを下げてこう言った。
「そうなの…?まだ半信半疑、いや疑う気持ちの方が強いんじゃないかしら?いきなりこんな話、受け入れる方が無理があるわ」
めっちゃドキッとした!…いや、完全に図星です!!俺は冷や汗をかきながらどう弁明しようか考えていた。
「枢君、そうなのか!?私はてっきりわかってくれてるとばかり…」
悠里が驚きの表情を隠さずに言う。いや、だからそれは…
「いや、悠里、ちょっと待ってくれ。まあ、なんというか…」
「別にいいじゃない二人とも。いきなり証拠もなしに信じろという方が無理があるわ。疑う気持ちがあっても、全否定してたわけじゃないからこそ、こうやって私たちの話を聞きにここまで来てくれた訳だし。人の信頼を得るには時間がかかるものよ。私はこうやってこの世界の人間にも、じっくりこの現実を受け入れていってほしいって思ってる。彼が今日ここに来て話を聞いてもらうだけでも収穫は十分にあるわ。悠里ちゃんもあんまり無理言っちゃダメよ」
まほりんさんの言葉を聞き、少し悠里も落ち着いたようだ。
「確かにまほりんさんの言うとおりだな。私が勝手に早合点してたようだ。でも、まほりんさんの話を聞いて枢君も少しは信じるようになったろう?」
悠里が俺に対して確かめるように言う。まあ正直全肯定するわけじゃないが、全否定もしなくなったというのが正直な感想だ。超常現象ってのも、本当にあるのかもしれない。
「ああ、少なくともまほりんさんは信頼できそうな人だってわかったよ。頭から否定する気がなくなったのは確かだ」
「それでいいのよ、これからどんどん私達の事を知ってもらえればいいんだから」
そうまほりんさんは笑いながら言ってくれた。おかげで少し落ち着いたよ。
そしてしばらく俺は、注文したピザトーストを食べながら、向こうの世界の話をまほりんさんと悠里から聞かされた。戦争の話や生き残った人の話、こちらの世界と向こうの世界の差についてなど。聞いた限りでは、核戦争以外はこちらの世界線とあまり大差ないようだった。
「なるほど、戦争以外はこっちと変わんないんですね」
俺がそう言うと、まほりんさんは少し考えながら、
「まあ、科学技術は向こうが少し上だったけどね。私も向こうでは兵器開発なんてやってたわけだし。こちらの世界では自動車メーカーの技術者だけど。転生して、ああ、私ここの世界では車作ってるんだ、って思ったわ」
笑いながらまほりんさんはコーヒーに口をつけた。なんか少しなじんできたように感じる。そういえばあの話題を振ってなかった。
「そういえば最近ネットで、転生者の存在というのはデマで、実は洗脳実験をやっているだけ…ってのを見ました。成功すれば転生者として記憶が植え付けられる。失敗すれば秘密裏に処分される。最近多い行方不明者はそれが原因だ…みたいな。でも今の話を聞いたら、やっぱその説の方がデマなんだ、って感じですね」
俺が何気なくそう言うと、まほりんさんは一瞬固まったように見えたが、すぐに笑顔を取り戻し、
「勿論デマよ。でもなかなか面白いデマよね。最近多い行方不明者がでる理由にもなるし。こういう発想自体は嫌いじゃないわ」
「ちょ、ちょっとまほりんさん!何言ってんですか!あれが面白いなんて…」
あわてて悠里がツッコむも、まほりんさんは笑みを絶やす事なく静止し、
「いいじゃない、あんなデマにいちいち怒ってたらきりがないわ。正しいのは私達なんだから、悠里ちゃんももっと大らかに構えないとダメよ」
「そ、そうですね…」
確かに完全なデマであるなら気にすることはない。むしろまほりんさんのように笑って流すのが正解だろう。だが、世界線移動なんて言う超常現象を否定できないのと同様に、この洗脳説も否定できないだろう。二つとも、悪魔の証明ってやつだ。どっちが正解でもおかしくない。俺がそんなことを考えていたら、悠里が突然スマホをこちらに見せてきた。
「まほりんさん、これまほりんさんのお部屋ですよね!」
まほりんさんが新しくSNSに更新した画像だろう。なるほど、女性らしくかわいいインテリアが色々置いてある。
「まためっちゃかわいくなりましたね!あれ、鉢植えの花も増えました?」
「ええ、同じサイネリアだけどいろんな色のタイプを揃えたかったの。やっぱりお気に入りの花が近くにあると元気になるしね」
サイネリア…確か向こうの世界で人気のある花だっけ。俺は花はよくわからないから気にしてなかったが、よくみれば沢山鉢植えで置いてある。まほりんさんはその画像を見ながら、どこか遠い目をしていた。
「私ね、転生してきた時このサイネリアの鉢を抱えていたのよ。お部屋の中で場所を変えようと持ち上げたときに、なんか世界が一瞬反転したような感じがして、気づいたらこの世界にいたわ。あの時はただビックリしたけど、今考えてみれば、ひょっとしたらこのサイネリアの花が私をこの安全な世界に運んできてくれたのかも、なーんて考えちゃったりするのよね」
その冗談に俺も悠里も笑った。もし本当ならそれは素敵な事だろう。その後も色々話して気づけば結構時間がたっていた。ああ、なんか楽しかったな…。
「じゃあそろそろお開きにしましょうか?今日は楽しかったわ」
「こちらこそありがとうございました!また会いに来ますよ!」
悠里が元気よく言う。こいつも楽しそうで何よりだ。
「俺も今日は色々聞けて楽しかったです」
「織部君も、機会があったらまた会いましょう。悠里ちゃんには次は約束してたサイネリアの鉢を持ってくるから、楽しみにしててね」
「いいですね!可愛いやつをお願いします!」
「何だ悠里、鉢植えなんかもらうのか」
「ああ、まほりんさんはサイネリアの鉢植えを沢山栽培しててね、みんなに配ってるらしいんだ。私もそのおすそ分けに預かろうという訳だよ」
「へえ。そうなんだ」
「織部君ももしよかったら一鉢どう?次の機会にあげるわよ」
まほりんさんが笑いながら言うので、さすがに俺は、
「あ、いや、俺は別に大丈夫です。でもよっぽど好きなんですね、サイネリアが」
「ええ、大好きよ。地球上を埋め尽くしたいくらいに」
なんか、一瞬まほりんさんのメガネの奥が光ったような気がした。気のせいか…。
俺たちは喫茶店を後にし、そのまま帰路についた。途中の駅で悠里と別れ、俺は一人物思いにふける。…なんか、心の奥にひっかかるというか、別に大したことじゃないはずなのに…。
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