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郁男

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郁男は、女の子に間違われるくらい可愛らしかった。


八人兄弟の末っ子で、両親はもちろん
兄姉たちに甘やかされ、かわいがられた。


駆け落ち同然で結婚した両親であったため、
実家の援助はなく
糸よりという機織り工場の下請け仕事をしていたが、とにかく貧乏だった。

朝早くから夜遅くまで働きどおしの母と兄。
良いとこの坊ちゃんの父は
外に勤めていたが、
夕方に帰ってくると、酒をちびちび一杯飲んで、のんびり過ごしていた。

リウマチで曲がった腕でも
仕事の合間に、長女の孫のおしめを洗う母。
女は買わない、博打も打たない、お酒も少々、だが働かない、ぐうたらな父。
それを見て育った兄弟たちは全員、働き者になった。



郁男がまだ幼かったころ
近所のこどもたちと、よく川で遊んでいた。

とくに台風の後の川は増水し、水流も激しく
勢いよく流れるので、楽しくてしょうがない。

今ではそんなところで遊ぶなんて
考えられないことだ。

しかし、当時はガキ大将がいて、
小さい子が溺れそうになるとすぐ助けてくれた。


俺がいるから安心して遊べと。


小さい子たちは乱暴なガキ大将を畏れていたが、頼りにもしていた。
時がたっても、郁男にはそのガキ大将の勇ましさが、きらきらとした思い出となって残った。

ガキ大将とは、そういうものだ。
つまり
郁男にとっての憧れの男とは、働き者の兄たちやそのガキ大将だった。
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