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びっと

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けい

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けいは三才で死んでしまった。



電車の巻き込まれ事故だった。
線路のそばをトコトコ歩いていたのだ。

電車の運転手は、子供がいることに気づいたし、同乗していた上司も「速度を落とせ!」と叫んだが、間に合わなかった。


当時、小さな子供は死んでも
家の仏壇に入れてもらえなかった。

お盆のときも家の中ではなく
外の、縁側の下あたりに小さく祀られた。

時々、家の中や玄関ではなく、
外や塀の上に
茄子(牛)と胡瓜(馬)が置かれているのは
その名残かもしれない。


だが、けいの家族はこの末娘を可哀相に思い、家長の耕蔵が
「これからは子供も仏壇に入れる」
と宣言してから、
ここでは子供も家の中で祀るようになった。


遺体を運ぶときは草鞋(わらじ)をはいたまま座敷に上がり、外に持ち出して墓まで運ぶ。
遺体を手に持っていては草履の脱ぎ着ができないからだ。
そして草鞋は墓で脱ぎすてる。

新しい靴を家の中でおろして(履いて)
そのまま玄関に出ることは
遺体を持ち運ぶことを連想させることから
縁起が悪いとされていた。

しかし、遺体を運んだときに履いた草履は
釘を貫かない(踏んでケガしない)
とも言われ、墓で脱ぎ捨てた草履は
わざわざ取りにもどった。


「縁起がいいの?悪いの?」
昔の人の縁起なんて、都合よくできているものだ。その人次第。


けいの姉である志乃は
かわいい末の妹
美しい叔母、自分が産んだ息子たち
多くの人の辛い死に目にあった。
そのため
死亡の知らせ人が出かけの直前に食べる
冷や飯に味噌汁をかけたものを
生涯口にしなかった。
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