ホーリーウッド物語

17.

今日は私のお披露目のパーティーを伯爵邸で開催することになっている。
淡い紫色のドレスは、同色のレースを飾りに使い上品に仕上がっている。銀色の髪はハーフアップにして紫色の髪留めをつけた。瞳でジャルフ伯爵家の人間だと分かるのに、さらに紫色を前面に出すのは伯父さまのアイデアだ。
そして私は対外的には伯爵の異母妹の娘で両親が亡くなったため伯爵家の養女になったリアーナになる。
「似合ってる。」
いつの間にか後ろにクリスが立っていた。
「クリスさん、いつの間に？」
「さっき。それとその呼び方いい加減直そう。さんはいらない。」
「クリス…うーん。なんか慣れない。」
その時ふっと頭をよぎった。
「クー？」
「思い出した？」
「ううん。なんとなく。私はクーって呼んでいたの？」
「ああ。クリスが言えなくて、クーって呼んでくれた。」
それは私だけど私じゃない。なんとなく落ち着かない距離感がもどかしい。
「今日、私をエスコートしていいの？あなたにエスコートされたい令嬢はたくさんいるんでしょ？」
「私の心がいまだにホーリーウッド王女エルフェリアにあることはフェルティ国内では有名だからね。遠巻きに見てるだけだよ。君をエスコートするときっと噂になるから、一緒にホーリーウッドに行くのも私が新しい恋人を離したがらないと思ってくれそうだよ。」
「それじゃ、幻滅されないようにがんばりますね。」
「君も私以外は目に入らないんですって顔してろよ。」
「わかってます。」
「…目に入れんなよ。」
「何か言った？」
「いや、さあ行きますか。」
私は、クリスに手を添えてパーティー会場に向かう。入口に着くと奥にいる伯父さまに合図が行ったらしく、挨拶を始める。
「我がジャルフ伯爵家が娘、リアーナです。今日より皆さまに受け入れていただきますよう。」
ドアが開いて、伯父さまの方へゆっくりと歩く。伯父さまの横に並び優雅にお辞儀をする。
「リアーナでございます。何卒よろしくお願い申し上げます。」
挨拶が終わるとそのままクリスとダンスを踊ることになる。
ゆったりとした曲調に合わせ、そのまま3曲踊った。
普通、未婚の女性は、夫や婚約者、恋人以外は、同じ人と二曲以上踊らない。ダンスの後、クリスと私がどういう関係なのか、やたら聞かれた。事前に決めていた通りにこたえる。
「殿下は初めて会った時にレティシア様に似ている私をエルフェリア様が成長したら、きっとこんなだっただろうとおっしゃって…私では、代わりになるなんて大それたこと…でも大切にしていただけると私もうれしくて…」
そう言ってはにかむように下を向くとみんな納得してくれた。
本人なんだからエルフェリアが成長するとこんななんですけどね。
しばらく何件かのパーティにクリスと参加し、その間に勉強や影たちに護身術などの手ほどきを受けて出発の日に備える毎日を過ごした。