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塔の姫
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クレア王国の王城東塔の上階にある部屋が、アナスタシアにとって、世界の全てだった。
第一王女のアナスタシアは、幼い頃に母妃が亡くなり、側妃だったエリザベータが正妃になった日に病弱で王位継承にふさわしくない子としてたった5歳で東塔に幽閉されたのだ。
本当のところは、自分の子グレゴリーを王にしたいエリザベータの策略で、アナスタシア自身は健康だったのだが、たまに塔を訪ねて来て
「お前のような病弱で、不細工で白っぽい髪の女は、政略にも使えないから一生ここにいればいいわ。」
と優しく言ってくれるエリザベータをアナスタシアは信じていた。
塔には世話をする侍女が二人と警護という監視役の兵士が来るくらいだが、塔から見える遠くの山々や湖がアナスタシアを楽しませてくれたし、侍女たちが運んでくれる本を読んで学ぶことも出来た。
アナスタシアが12歳の時、父王が病気で亡くなり異母弟のグレゴリーが10歳で王に即位しエリザベータのやりたい放題になっても、父の葬儀にさえ出させてもらえないアナスタシアの生活は、全く変わらないものだった。
17歳になったアナスタシアは、とても賢く美しい娘に成長した。腰まで伸びたツヤのある銀色の髪は、キラキラ光り、陽に当たらない肌は白く透き通る。濃い青の瞳を持つアナスタシアを警護兵たちは、こっそり『月光の乙女』と呼んでいたし、侍女たちは「姫様は、綺麗だ。」と言ってくれるがエリザベータのせいでアナスタシアはお世辞と思っていた。
このままの生活が続くと思っていた日々は、ある日突然終わりを告げた。
「マリナ、あの煙は何かしら?」
いつものように外を眺めていたアナスタシアは、西側の山のふもとに煙が上がっているのを見つけた。
「何ですかね。森で火災になっているんでしょうか。」
「民に被害がなければいいのだけれど。」
そこへもうひとりの侍女ニーナが駆け込んで来た。
「大変です。カリアス帝国が王都近くまで攻めて来たみたいです。」
「グレゴリーは?」
「それが…すでにエリザベータ様と姿が見えず、重臣たちも我先に逃げ出したようです。」
国を民を守るはずの王や重臣たちが一番に逃げ出すなんて…
そう考えているといつも警護を担当している兵のひとりが部屋を訪れた。
「こちらを陛下からアナスタシア様にとお預かりしました。」
出された書類と箱を受け取り、確認すると
『グレゴリー・クレアキンは第12代クレア王国の国王を退位し、アナスタシア・クレアキンに王位を継承する。』
とサイン入りで書かれており、箱には国王印章が入っていた。
「姫様、逃げましょう。」
ニーナが震えながら、マリナとアナスタシアの近くに来た。
「あなたたちは逃げなさい。私は残ります。」
「姫様…」
「グレゴリーがいない今、王位を継いだ私が、クレア王国最期を閉めないといけないのですから。」
「では、私はお伴します。姫様のお世話をするものが必要ですから。」
「マリナ、ありがとう。ニーナは、そこの兵士さんと逃げなさい。」
「マリナさんが残るなら、私も残ります。カリアス帝国の兵士がびっくりするくらい姫様の支度をしましょう。」
「では、私は最後まで姫様をお守りさせてください。もし、生き残れたら『月光の乙女』を守った兵士と自慢できます。」
「みんな、ありがとう。あなたたちを死なさないように努力するわ。」
急造とは言え、女王にふさわしいドレスに着替え、王の間に移動する。
途中の廊下では、我先に逃げる使用人たちが、火事場泥棒のように色々な荷物を持っていたが、咎める気にならず放っておいた。
第一王女のアナスタシアは、幼い頃に母妃が亡くなり、側妃だったエリザベータが正妃になった日に病弱で王位継承にふさわしくない子としてたった5歳で東塔に幽閉されたのだ。
本当のところは、自分の子グレゴリーを王にしたいエリザベータの策略で、アナスタシア自身は健康だったのだが、たまに塔を訪ねて来て
「お前のような病弱で、不細工で白っぽい髪の女は、政略にも使えないから一生ここにいればいいわ。」
と優しく言ってくれるエリザベータをアナスタシアは信じていた。
塔には世話をする侍女が二人と警護という監視役の兵士が来るくらいだが、塔から見える遠くの山々や湖がアナスタシアを楽しませてくれたし、侍女たちが運んでくれる本を読んで学ぶことも出来た。
アナスタシアが12歳の時、父王が病気で亡くなり異母弟のグレゴリーが10歳で王に即位しエリザベータのやりたい放題になっても、父の葬儀にさえ出させてもらえないアナスタシアの生活は、全く変わらないものだった。
17歳になったアナスタシアは、とても賢く美しい娘に成長した。腰まで伸びたツヤのある銀色の髪は、キラキラ光り、陽に当たらない肌は白く透き通る。濃い青の瞳を持つアナスタシアを警護兵たちは、こっそり『月光の乙女』と呼んでいたし、侍女たちは「姫様は、綺麗だ。」と言ってくれるがエリザベータのせいでアナスタシアはお世辞と思っていた。
このままの生活が続くと思っていた日々は、ある日突然終わりを告げた。
「マリナ、あの煙は何かしら?」
いつものように外を眺めていたアナスタシアは、西側の山のふもとに煙が上がっているのを見つけた。
「何ですかね。森で火災になっているんでしょうか。」
「民に被害がなければいいのだけれど。」
そこへもうひとりの侍女ニーナが駆け込んで来た。
「大変です。カリアス帝国が王都近くまで攻めて来たみたいです。」
「グレゴリーは?」
「それが…すでにエリザベータ様と姿が見えず、重臣たちも我先に逃げ出したようです。」
国を民を守るはずの王や重臣たちが一番に逃げ出すなんて…
そう考えているといつも警護を担当している兵のひとりが部屋を訪れた。
「こちらを陛下からアナスタシア様にとお預かりしました。」
出された書類と箱を受け取り、確認すると
『グレゴリー・クレアキンは第12代クレア王国の国王を退位し、アナスタシア・クレアキンに王位を継承する。』
とサイン入りで書かれており、箱には国王印章が入っていた。
「姫様、逃げましょう。」
ニーナが震えながら、マリナとアナスタシアの近くに来た。
「あなたたちは逃げなさい。私は残ります。」
「姫様…」
「グレゴリーがいない今、王位を継いだ私が、クレア王国最期を閉めないといけないのですから。」
「では、私はお伴します。姫様のお世話をするものが必要ですから。」
「マリナ、ありがとう。ニーナは、そこの兵士さんと逃げなさい。」
「マリナさんが残るなら、私も残ります。カリアス帝国の兵士がびっくりするくらい姫様の支度をしましょう。」
「では、私は最後まで姫様をお守りさせてください。もし、生き残れたら『月光の乙女』を守った兵士と自慢できます。」
「みんな、ありがとう。あなたたちを死なさないように努力するわ。」
急造とは言え、女王にふさわしいドレスに着替え、王の間に移動する。
途中の廊下では、我先に逃げる使用人たちが、火事場泥棒のように色々な荷物を持っていたが、咎める気にならず放っておいた。
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