あなたに会いたくて…

里中一叶

文字の大きさ
2 / 5

1.

しおりを挟む
初めてその夢を見た時、私は5歳だったと思う。
私はてくてく歩いている。目的地が、特にあったわけではない。ただ、ひとりで歩きながら新しい発見を探すような子だったから。
私は湖のほとりにたどりつき、湖のほとりにある大きな木によりかかっている男性を見つけた。
銀色の長い髪を1つに束ねた黒い服のその人は眠っているようだ。
「おじさん。こんなところで寝ていると風邪をひいちゃうよ。」
そっと揺り動かすと綺麗な空色の瞳が私を見た。
「おじさんじゃない。おにいさんだ。」
どう見ても父様と変わらないように見えるが、本人がそう言うなら、お兄さんなんだろう。
「何をしているの?」
「ある人を待っているんだ。ここで待ち合わせしている。しかしなかなか来なくて、つい寝てしまったようだ。」
その時、私はとても良いことを思いついたと思っていた。
「それなら、来るまで私が付き合ってあげる。何して遊ぶ?」
突然の申し出に若干引いているようだったが、私があまりに真剣な顔をしていたので、付き合ってくれた。
「わたしはねー、ルーって言うの。お兄さんは?」
「なんだったかな?最近名前で呼ばれないから忘れた。」
「えー。お兄さん、おかしいの。じゃあお兄さんでいいや。」
私は彼とおしゃべりしたり、石積みしたりして遊んだ。
気がつくと辺りが暗くなり始めている。
「そろそろおうちに帰らないと。お兄さんの待っている人来ないね。お兄さんも帰ろう。」
「もう少し待ってみるから、ルーはお帰り。」
「うん。じゃあまたね。」
私は家に帰る途中で目が覚め、夢だと初めて気づいたのだった。

それから、何回も夢で彼に会った。毎日見るときもあれば、半年以上間があくこともあった。夢の中の私はその時点の年齢通りなのにお兄さんは、最初に会った時と全く変わらない。
私は10歳になっていた。
「今日は、話を聞いてくれない?学校でね。隣の席の男の子に好きだって言われたの。」
「そうか。それで学校とは何だ?」
「えー⁈お兄さん、学校知らないの?学校って言うのはね。お勉強したり友達作ったりするところ。」
「好きだと言うのが男女間の恋愛を言うのなら、学校ですることに入っていないのではないのか?さっきルーは、恋愛すると言わなかったと思うが。」
「そうね。やっぱり断る!お兄さんみたくかっこよくないし。」
私はお兄さんに淡い恋心を抱き始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

貴方の幸せの為ならば

缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。 いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。 後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

正妻の座を奪い取った公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹のソフィアは姉から婚約者を奪うことに成功した。もう一つのサイドストーリー。

処理中です...