王妃候補は、留守番中

里中一叶

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「嬉しいのはわかるけど、一応直轄領の事業アドバイザーとしてセリーナ嬢は王宮に滞在しているんだから、公私の区別はつけて欲しいんだよね。」

ジョシュア様からお説教をされて王太子殿下はやっと私を解放してくれた。

「明後日の視察が終わったら、設計担当や業務担当に引き継ぎして、完了次第、伯爵領に戻るつもりなんですけれど、私は帰ってもいいですよね?」

王太子殿下に今後の予定を確認しようとすると

「帰さない。逃げられると?」
「こらこら、殿下、セリーナ嬢がひいていますよ。嫌われたら元も子もないでしょ⁈それにまずモルトン伯爵の許可とって、高位貴族に根回ししないとねぇ。」

さすが王太子殿下の扱いをよく分かっていらっしゃるようでジョシュア様が書類を色々と持って来ている。

「まずモルトン伯爵のところはセリーナ嬢を送りがてら、ご自分で行ってきてください。その為の移動申請と警備計画書、馬車の使用申請、宿泊予定地の領主への依頼書、全て作成済みですから、さっさとサインして陛下へ回しがてら、説明してきてください。」

私たちを2人きりにした間に諸々書類の準備をしておくジョシュア様の有能さに驚いた。
王太子殿下は書類の束を抱えて陛下の元へと走っていく。

「セリーナ。待っていてくれ。すぐ戻る。」

私はうなづくだけだがジョシュア様は

「戻れるといいですね。いってらっしゃい。」

と手を振って送り出していた。

「セリーナ嬢。今までと今後のことについて、話しましょうか。」
「はい。」
「今、王太子妃は空席なのは、殿下が王太子妃候補で一番気に入っていたアイリス嬢がとある事件に巻き込まれて辞退したせいなのは、ご存知ですよね?」
「はい…」
「そのせいで、あのバカ荒れまして…」

さりげなく王太子殿下をバカ言った⁈ジョシュア様は、敵に回してはいけない人のようです。

「まず犯人は全員、あいつがボコボコにしたので、しばらく牢ではなく治療院送り。背後で人身売買していた商人は国外追放。アイリス嬢に辞退されるや他の妃候補には、全員帰れ!の一言で妃選びは途中消滅。」

殿下は我慢強いって言っていたけど、我慢してない?

「それで、好きな女性に去られたかわいそうな王太子殿下は、その後、縁談話を持って来ると不機嫌になるので、みんな腫れ物扱いになりました。」
「はぁ…」

私、とんでもない人を好きになって、その人を事情があるとは言え振ったと言うことなんだろうか…

「そのくせアイリス嬢が、他の人と結婚すると聞いて、お祝い贈っちゃうんだ。そして私は延々と愚痴を聞かされていました。」

いたたまれなくなってきたけれど、ジョシュア様は話を続ける。

「だいぶ落ち着いてきたから、そろそろ新しい妃候補を探そうかという話が出始めたのが今から3ヶ月くらい前。クラビア公爵が自領に領民のための学校を作るという話を御前会議の休憩時間にたまたま話したんだ。すると殿下は、直轄領でもやりたいと思っていたって食いついたんだよね。珍しいと思って聞いたら、どこかの令嬢と話したことあるって言うんだ。そうしたら、クラビア公爵が自分が援助している親戚の伯爵領で試しに作って開校式に行く話になったんだ。しかもそこの伯爵令嬢が主になってやっていて、誰かによく似たいい娘だって話になって…」
「それで開校式にくっついて来たんですね。」
「途中でかの人に会いに行って、なんか雰囲気が違うって思って。伯爵領でやっていることには、もちろん興味あるけれど、その伯爵令嬢が自分の好きだった彼女に顔も考え方もそっくりで、妃候補にあげられないか?調査を始めたら、こっちが本物じゃないかと考えて、仕事半分で呼び出して現在に至ります。」
「ジョシュア様、なんかクラビア公爵様に私がいることをバラされたような気がするのは…」
「多分、当たりだね。クラビア公爵もセリーナ嬢のことを心配していたんじゃないのか?それでここからが、本題。セリーナ嬢をクラビア公爵家の養女にできないか打診する予定。伯爵令嬢だとタヌキどもを黙らせるには、ちょっと弱いんだよね。クラビア公爵家がダメなら、うちが相談乗るけど、公爵が可愛がっているなら、大丈夫だろうし。」
「そうですね。公爵様には、私から報告します。」
「とりあえず今回の滞在中は一緒に仕事して気に入られた令嬢くらいの対応でよろしく。まぁ、殿下が抑えられるかが問題だけどね。」
「ジョシュア。セリーナに余計なこと言ってないな?」

話が一区切りついたタイミングで殿下が戻ってきた。

「大丈夫。ちゃんと昔話しておいたから。じゃあ、セリーナ嬢またね。」

そう言ってジョシュア様は部屋から出て行った。
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