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 あれから理は、私をクビにすることなく、小林さんとして、必要以上にこき使う事にしたらしい。

 もちろんパートは、残業できないからと時間ギリギリまでと言う制約はあるが、他の2人分を含めると毎日終業時間には、燃え尽きていると思うほど。

 いじめとかパワハラではなく、理の仕事のペースが速く、バリバリこなしていて、「ついて来い」と言わんばかりなので、文句も言えない。

 大学卒業後、グループ内各社を回り、仕事を全て学び、こなして、うちの次は本社である宝田産業の部長職だろうと言われているだけのことはある。

 ふと休憩にみせるふわっとした笑顔と目が笑っていない営業スマイル、仕事に対する態度で、すっかり女性社員やパートの心を鷲掴み、男性社員の尊敬を勝ち取った未来の社長サマ。

 ただ、私のこき使われように私と変わりたいとか妬む人は居ず、みんな遠目で鑑賞している事にしたらしい。

「小林さん。午後の会議の資料は?」

「最終確認版を添付で、課長の社内メールに送ってあります。OKなら人数分コピーします。」

「すぐ見るよ。あと新商品の売れ行きについての資料…」

「こちらのファイルにまとめてあります。同じ内容のパワポも作ってあるので、会議で説明するのに使えるか、同じメールの添付を見てください。」

「えっと…」

「まだ何か?なければ風間さんの発注書の方にかかりたいのですが。」

「あ、ああ。ありがとう。」

 理のペースに慣れて、やっと来た週末。
 ゆっくり寝ていたいけれど、お姫様は容赦なく、私を起こしてくれる。

「ママ、ゆうえんちが逃げちゃうよ。」

「遊園地は逃げないから。」

「それに大パパが車で乗せて行ってくれるから、待っていようね。」

「大パパと香代ママも一緒?」

「香代ママは、ご馳走作って大パパのおうちで待っているけど、大パパは、理奈のお誕生日だから、一緒に行くって。」

「やったあ。」

 私の義父、小林大輔さんは、母より5歳年下で、まだ40代。じいじと呼ぶのは、かわいそうだし、私も大輔さんと呼んでいるので、大パパ、ついでに実の祖母なのに母は、理奈に香代ママと呼ばせている。

 大輔さんのセダンは、すっかり理奈仕様でチャイルドシートとぬいぐるみが乗っていて、これで仕事して、周りはどう思うのか?と心配になる。

「おはよう、理奈。大パパだぞー。」

「大パパ、おはよー。」

 抱きつく理奈をそのまま抱き上げる大輔さんは、年齢より若く見えるから父親にしか見えない。

 さすがに今日は、2人が一緒なので、伊達メガネは外し、お気に入りのチュニックにデニムパンツ。髪も高めのポニーテールにした。

 遊園地に着くと大輔さんは、理奈と手を繋いだ。

「あずみちゃんは、仕事で疲れているだろう。ベンチで休んでいなさい。」

「大輔さん、ありがとう。お願いします。理奈、ママはここで見てるから、大パパと行っておいで。」

「うん。大パパ行くよー。」

 走り出す2人を見送り、ボーッとしながら、ベンチに座る。

 本当に、母と大輔さんがいなければ、理奈を育てながら大学を卒業し仕事なんか出来なかったと思う。

 さすがに教師は時間を考えると出来ないと諦めたが、2人の家にお世話になっていたおかげで、今の会社に決まるまで、余裕を持って就活できた。

 2人にしてみれば、パートではなく正社員の会社に就職して欲しかったみたいだが、理奈との時間と給料を考えると2人で生活できるだけ充分だと思う。

 大輔さんの家が会社から1時間以上かからなければ、きっとアパート暮らしも納得しなかったと思うくらい、何かにつけて2人で助けてくれるので、不詳の娘の私は感謝しかない。
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