恋ごよみ

酒田愛子(元・坂田藍子)

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3.学園祭

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 凰高祭は、毎年6月3週目の土日に行われる。

 1年は展示、2年は劇やクラスでお化け屋敷等の企画、3年は食べ物の模擬店と決まっているので、私たち1年は、クラスで決めたテーマでの展示をする事になる。

 みんなと仲良くなるには、実行委員をやるのが、近道と言うのは当たっているのだと思うが、吉田くんという番犬が横にいるからか、なんとなく親しくなりきれないような気がするのは私だけだろうか。
 
「歌音…ちゃん。模造紙を2枚追加したいんだけど。」

「歌音と呼ぶのは、俺だけだ!」と言わんばかりにクラスメイトを睨むので、男子もちろん女子さえ、私を名前にちゃん付けで呼ぶようになった。

 今も田崎君が呼び捨てにしようとした瞬間、睨むから慌ててちゃん付けされたし。

 みんなと仲良くさせたいのか、させたくないのか、今ひとつこの人の心理は理解出来ない。

 それでも学校周辺案内なんて、誰が楽しみに見るのかわからない展示のために、みんなが協力してくれて、ホッとしている。

 吉田くんは、下校時間が一緒になるから駅まで帰るのは分かるけど、なぜか急行に乗らず普通電車に私と乗り、私と一回電車を降りると家まで10分の道のりを送って、また急行に乗って帰っていく。しかも朝は、私の登校時間に家まで迎えに来る。

 一度、
「わざわざ送り迎えしなくていい。」
と言ったが、
「定期だから、問題ない。」
そう言って押し切られた。

「ねぇ、歌音ちゃんは、吉田のことどう思っているの?」

 昼休み、仲良くなった女子4人で屋上ランチしていると小学校から吉田くんと一緒の玖美ちゃんに聞かれた。

「こっちが申し訳なくなるくらいいい人だよね?」

「えー、それだけ?毎日、一緒に登下校しているよね。そこにラヴはないわけ?」

 自慢じゃないが、16年間一度も誰かを好きになった事がない。
いいなぁと思っても中学生じゃ自分より背の高い女子は、好かれないだろうと蓋をして、それ以上の気持ちの盛り上がりまで持っていけなかったのだ。

「別に吉田くんが嫌いとかじゃないんだけど…友だちでいいかな?」

「歌音ちゃんは、恋愛初心者なんだね。」

 なんとなく生暖かい目で3人に見られたような気もするが、そのあとは午後の授業の話になり、気にも留めなかった。

 学園祭当日、実行委員は先輩委員の補助で、結構忙しく休憩時間は交代で30分ほど。
クラスの子たちと見て回りたかったが、結局吉田くんと2人で…

「歌音、何食いたい?先輩に色々
食券もらったから、奢るよ。」

「もらった食券と言いながらおごるって…」

「だよな…」

 クスッと笑うと吉田くんもにっこりと笑う。

 その笑顔にトクリと何か音がしたような気がした。
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