恋ごよみ

酒田愛子(元・坂田藍子)

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8.合格発表とバレンタイン

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 受験生の時間はあるようで、あっという間に過ぎていく。

 クリスマスもお正月も受験一色で、初詣さえも合格祈願のために予備校の帰りに立ち寄った。
 内部進学のみんなが、遊んでいたり免許を取りに行く家庭学習期間に2月1日から入り、毎日顔を見ていたしょーたとは会えない。

 彼氏でもないし、用事もない。ましてや受験勉強の邪魔もしたくないけれど、あの大きな背中やちょっと不貞腐れたような顔、少し低めの声が聞けないせいで、余計にしょーたの事が気になり、勉強に身が入らない。

 私が落ちたらしょーたのせいだ!なんて、勝手に思っているなんて、彼は知らないのだ。

 それに城南大の合格発表は2月14日。私にとっては、もうひとつバレンタインというイベント当日でもある。 

絶対、合格してその場でチョコを渡したい。
しょーたが、本命チョコだと気付いてくれるかは分からないけれど、3年間の感謝も込めて渡したい。
少なくても、周りに知り合いがいない場所で、渡すチャンスがあるのだから…



 2月14日朝、いつものように迎えに来てくれたしょーたと大学へと向かった。
合格発表より、そのあとのチョコを渡すことの方が心臓を痛くさせる。

「歌音、緊張してる?大丈夫だよ。あれだけ頑張ってきたんだから、合格しているから。」

「うん…しょーた、心臓痛い…」

 大学の入口で、緊張のしすぎでふらついた私をベンチに座らせて、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるしょーたに、合格発表よりチョコを渡す事を考えて具合が悪くなったなんて言えずにもたれかかっていた。

「歌音、帰ろう。」

「え、でも…」

「ネットで見ればいいし、具合悪いのに寒い外にいる事ない。
あ、でも移動に時間かかるよな。」

 急にしょーたがどこかに電話をかけている。
ボーっとしながら、それを眺めているとそれから20分ほど経った頃、1台の軽自動車がすぐ近くで止まった。

「翔太、来たわよ。」

「姉貴、悪い。歌音が具合悪くなって、電車で帰れそうにないから、うちに連れ行きたいんだ。」

「ご、めんね…」

「歌音は喋んなくていいから。」

 しょーたに抱き抱えられて、恥ずかしくて顔が見れずに胸に顔を埋めると熱い胸板にさらに顔が赤くなってしまう。
合格発表見に来て、醜態晒しまくりって恥ずかし過ぎる。

 結局、しょーたのお姉さんの車で一旦しょーたの家に行き、夜、父に迎えに来てもらったので、チョコを渡すタイミングを逸してしまったのだった。

 ちなみに2人とも無事合格していたので、良かったが、卒業式になっても距離が変わらず、大学生になって学科が違うようになるといままでほど顔を見れないのが、寂しいなぁと思っていた。

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