2 / 16
第一章 デスストーリーは突然に……
第1話
しおりを挟む
——なんでこんなことになっちまったんだ?
俺は全身血まみれになりながら、硬く冷たい地面に身体を預け、鉛色の空を見上げて漠然と死を悟っていた。
記憶をたどってみる——
今日未明、俺たちパーティーは魔王城に向けて出立した。
道すがら、うじゃうじゃと湧いて出る魔物を倒しながら、いよいよ魔王城のそびえ立つ【死の山】のふもとまでたどり着いた。
このとき俺の年齢は二十二。一番イケてる頃だ。
酒場に行けば女たちが放っておかないほどのイケメンだったし、ちっとばかし金があったから王都に持家もあった。
強い仲間もいて、まさに英雄譚に謳われる英雄街道まっしぐら。
あとは目の前に連なる険しい山々を越えて魔王城に突入するのみ。
いよいよだ。いよいよここまでたどり着いたんだ。
「待っていろ魔王! 俺たち【暁の団】がお前を滅ぼしてやるぜっ!」
俺は魔王城に向かって叫んだ。
「えーと、ケイン? ちょっとうるさい。あとパーティーのリーダー俺だから」
と、勇者のアルフレッドが眉間に皺を寄せた。
「ケインがうるさいのはいつものことだけど、今は敵地の中心だから集中してね?」
僧侶クルルにまでたしなめられた。
「気合が空回りして真っ先に死ぬのはあなたかもね?」
うっ……魔法使いのルイーゼはいつもキツいな……。
「ガハハハッ! その気合は大事だぞ! ま、俺たちの邪魔にならん程度に頑張ってくれ!」
それフォローになってねぇよな、盾職のグラッツさんよ……。
「あーもうわかったって! 頑張るからさー! もうちっと俺に優しくしておくれよー!」
「優しくされたかったらもう少し役に立ちなさいよね、荷物持ち」
「ルイーゼ、そういう言い方はケインが可哀想です。思っていても口に出してはダメですよ?」
「まあ、確かに荷物持ちは言い過ぎかな? じゃなかったら——道具職人?」
「いや、雑用係だろ?」
そう。
これがこの【暁の団】での俺の扱い。
勇者、僧侶、魔法使い、盾職——そして荷物持ち兼雑用係の俺。
本当は戦士がほしかったらしいが、そこいらの戦士以上に剣術ができちゃう俺が魔王討伐のための勇者パーティーに選ばれちまったというわけ。ふふん!
……なんて嘘。少し見栄を張っちまった。
剣術が冴えてるっていうのは本当。
俺は二十歳で三大流派と呼ばれる剣術を全て会得した。
言ってしまえば剣術って特技が履歴書に書けちゃうレベルだ。
ただ残念なことに、この世界のクソッタレな常識というか——それだけでは到達できない強さってやつがこの世には存在する。
「これでなにか英雄クラスのスキルがあればなー? 【道具精製】だっけ?」
「それは言わないであげて。【道具精製】だって天から授けられた立派なスキルよ?」
と馬鹿にして笑うアルフレッドとクルル。
——つまるところ、そういうことだ。
この世界じゃ強いスキルを授けられたもんがち。
しかもスキルは一人一つだけ。たまーに『二つ持ち』がいたりもするが【暁の団】にはいない。
ちなみにアルフレッドは戦闘中に未来が見える『天眼通』って何気に最強のスキル保持者。
未来が見えるんだから敵の攻撃はまるで当たらない。当たる前に避けちまうからな。
クルルは『熾天使降臨』ってこれまたえらくチートなスキル持ち。
だって上位天使を使役しちゃうんだぜ? どんな状態異常も瞬時に治っちゃうし、制限時間内なら魔法使いたい放題とかおかしいだろ?
で、どーでもいいことだけどこの最強同士が最強のカップルになっちゃったわけ。
パーティー内は恋愛禁止ってルールないからマジウザいよな?
「べつに珍しくないし、道具作成。王都でも十人に一人は持ってるじゃん」
「まあ、歩く道具屋って感じだな。金は払わんが。ガハハハハッ!」
お前らはどうなんだよ——と言いたいところだけど、ルイーゼは『森羅万象』ってどんな高位魔法も使えちゃう魔法使いにとっての最強スキル。グラッツは地味だが『鉄壁』っていうこれまた盾職向きの素晴らしいスキルがある——チッ……。
にしても【道具精製】って……。
スキルなくても道具作ることくらいできんじゃね?
神様は人間を平等につくっちゃいないらしいって証拠だよな?
——つーことで、こいつらが欲しいのは俺の剣術の腕じゃなくて、この【道具精製】ってスキル。戦場に道具屋を連れていくことなんてできないからな。いざってときに現地調達できる素材で補給ができたらたくさん荷物を背負い込む必要がなくなる。
せめて自分の身は自分で守れる程度の便利なやつが欲しかったらしい——それが俺。
まあ、なんだっていい。
魔王を倒せるならな。
ややもあって、アルフレッドの掛け声とともに俺たちは気合を入れ直し、岩がむき出しになった険しい山道に多少の不安と足を踏み入れた。
——でも、そこで魔王軍幹部のエリゴスと名乗る暗黒剣士が立ちはだかったんだ。
「愚かな人間どもよ。自らの卑小さを嘆きながら死ぬがいい——」
え? なんで? なんでいきなり幹部クラス? 暇なの? まだ序盤じゃん⁉︎ ——といろいろツッコミを入れたいのも我慢して、俺たちは武器を構えた。
このあとの展開はなんとなく予想がつくよね?
結果はあっけなく全滅。まさに瞬殺。
さっすが魔王軍幹部、マジ強えぇー……。
俺は両腕を失って地面に倒れていたが、首だけを動かして仲間たちを見た。
魔法剣士のアルフレッド、僧侶のクルル、魔法使いのルイーゼ、盾職のグラッツ……。
最強のスキル保持者たちがピクリとも動かない。
——ああ、みんな先に逝っちまったか……。
スキル以上の理不尽がこの世に存在することを俺はこのとき初めて知った。
絶対的強者には敵わない——ま、どの世界でも共通で、これって真理だよな?
幹部に負けるレベルの俺たちが、幹部の上にいる魔王なんかに敵いっこねぇ……。
しかも【道具精製】なんかじゃ勝てるわけねぇだろ。
「貴様、まだ息があったか。大人しく滅するがいい——」
エリゴスはそう言うと手にしたハルバードを空高く持ち上げ、一気に振り落とした。
あ、ヤベ、これ死んだなって思って、俺は目を瞑った——
俺は全身血まみれになりながら、硬く冷たい地面に身体を預け、鉛色の空を見上げて漠然と死を悟っていた。
記憶をたどってみる——
今日未明、俺たちパーティーは魔王城に向けて出立した。
道すがら、うじゃうじゃと湧いて出る魔物を倒しながら、いよいよ魔王城のそびえ立つ【死の山】のふもとまでたどり着いた。
このとき俺の年齢は二十二。一番イケてる頃だ。
酒場に行けば女たちが放っておかないほどのイケメンだったし、ちっとばかし金があったから王都に持家もあった。
強い仲間もいて、まさに英雄譚に謳われる英雄街道まっしぐら。
あとは目の前に連なる険しい山々を越えて魔王城に突入するのみ。
いよいよだ。いよいよここまでたどり着いたんだ。
「待っていろ魔王! 俺たち【暁の団】がお前を滅ぼしてやるぜっ!」
俺は魔王城に向かって叫んだ。
「えーと、ケイン? ちょっとうるさい。あとパーティーのリーダー俺だから」
と、勇者のアルフレッドが眉間に皺を寄せた。
「ケインがうるさいのはいつものことだけど、今は敵地の中心だから集中してね?」
僧侶クルルにまでたしなめられた。
「気合が空回りして真っ先に死ぬのはあなたかもね?」
うっ……魔法使いのルイーゼはいつもキツいな……。
「ガハハハッ! その気合は大事だぞ! ま、俺たちの邪魔にならん程度に頑張ってくれ!」
それフォローになってねぇよな、盾職のグラッツさんよ……。
「あーもうわかったって! 頑張るからさー! もうちっと俺に優しくしておくれよー!」
「優しくされたかったらもう少し役に立ちなさいよね、荷物持ち」
「ルイーゼ、そういう言い方はケインが可哀想です。思っていても口に出してはダメですよ?」
「まあ、確かに荷物持ちは言い過ぎかな? じゃなかったら——道具職人?」
「いや、雑用係だろ?」
そう。
これがこの【暁の団】での俺の扱い。
勇者、僧侶、魔法使い、盾職——そして荷物持ち兼雑用係の俺。
本当は戦士がほしかったらしいが、そこいらの戦士以上に剣術ができちゃう俺が魔王討伐のための勇者パーティーに選ばれちまったというわけ。ふふん!
……なんて嘘。少し見栄を張っちまった。
剣術が冴えてるっていうのは本当。
俺は二十歳で三大流派と呼ばれる剣術を全て会得した。
言ってしまえば剣術って特技が履歴書に書けちゃうレベルだ。
ただ残念なことに、この世界のクソッタレな常識というか——それだけでは到達できない強さってやつがこの世には存在する。
「これでなにか英雄クラスのスキルがあればなー? 【道具精製】だっけ?」
「それは言わないであげて。【道具精製】だって天から授けられた立派なスキルよ?」
と馬鹿にして笑うアルフレッドとクルル。
——つまるところ、そういうことだ。
この世界じゃ強いスキルを授けられたもんがち。
しかもスキルは一人一つだけ。たまーに『二つ持ち』がいたりもするが【暁の団】にはいない。
ちなみにアルフレッドは戦闘中に未来が見える『天眼通』って何気に最強のスキル保持者。
未来が見えるんだから敵の攻撃はまるで当たらない。当たる前に避けちまうからな。
クルルは『熾天使降臨』ってこれまたえらくチートなスキル持ち。
だって上位天使を使役しちゃうんだぜ? どんな状態異常も瞬時に治っちゃうし、制限時間内なら魔法使いたい放題とかおかしいだろ?
で、どーでもいいことだけどこの最強同士が最強のカップルになっちゃったわけ。
パーティー内は恋愛禁止ってルールないからマジウザいよな?
「べつに珍しくないし、道具作成。王都でも十人に一人は持ってるじゃん」
「まあ、歩く道具屋って感じだな。金は払わんが。ガハハハハッ!」
お前らはどうなんだよ——と言いたいところだけど、ルイーゼは『森羅万象』ってどんな高位魔法も使えちゃう魔法使いにとっての最強スキル。グラッツは地味だが『鉄壁』っていうこれまた盾職向きの素晴らしいスキルがある——チッ……。
にしても【道具精製】って……。
スキルなくても道具作ることくらいできんじゃね?
神様は人間を平等につくっちゃいないらしいって証拠だよな?
——つーことで、こいつらが欲しいのは俺の剣術の腕じゃなくて、この【道具精製】ってスキル。戦場に道具屋を連れていくことなんてできないからな。いざってときに現地調達できる素材で補給ができたらたくさん荷物を背負い込む必要がなくなる。
せめて自分の身は自分で守れる程度の便利なやつが欲しかったらしい——それが俺。
まあ、なんだっていい。
魔王を倒せるならな。
ややもあって、アルフレッドの掛け声とともに俺たちは気合を入れ直し、岩がむき出しになった険しい山道に多少の不安と足を踏み入れた。
——でも、そこで魔王軍幹部のエリゴスと名乗る暗黒剣士が立ちはだかったんだ。
「愚かな人間どもよ。自らの卑小さを嘆きながら死ぬがいい——」
え? なんで? なんでいきなり幹部クラス? 暇なの? まだ序盤じゃん⁉︎ ——といろいろツッコミを入れたいのも我慢して、俺たちは武器を構えた。
このあとの展開はなんとなく予想がつくよね?
結果はあっけなく全滅。まさに瞬殺。
さっすが魔王軍幹部、マジ強えぇー……。
俺は両腕を失って地面に倒れていたが、首だけを動かして仲間たちを見た。
魔法剣士のアルフレッド、僧侶のクルル、魔法使いのルイーゼ、盾職のグラッツ……。
最強のスキル保持者たちがピクリとも動かない。
——ああ、みんな先に逝っちまったか……。
スキル以上の理不尽がこの世に存在することを俺はこのとき初めて知った。
絶対的強者には敵わない——ま、どの世界でも共通で、これって真理だよな?
幹部に負けるレベルの俺たちが、幹部の上にいる魔王なんかに敵いっこねぇ……。
しかも【道具精製】なんかじゃ勝てるわけねぇだろ。
「貴様、まだ息があったか。大人しく滅するがいい——」
エリゴスはそう言うと手にしたハルバードを空高く持ち上げ、一気に振り落とした。
あ、ヤベ、これ死んだなって思って、俺は目を瞑った——
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
39
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる