勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている

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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑥ ~混血の戦士~】

【序章】 仕切り直し

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 一夜が明けた。
 サントゥアリオ共和国に到着してからというもの、色々と悪いことだらけだったけど城内の様子は以前来た時と大きく変化は無いみたいだ。
 戦の最中なのだから本来それは当然のことなのかもしれない。
 一日ごとに何が起きた、何があったということで城の雰囲気が目に見えて浮き沈みするなんてことがあるはずもないだろう。例え内心どう感じていようとも、だ。
 だけどやっぱり僕には簡単に慣れることは出来なくて、日が変わった今になっても森の中での光景が頭を過ぎっては気分がずっしりと重くなっていく。
 昨日一日でどれだけの兵士が命を落としたことか。
 自分の目の前で。敵の手によって、或いは味方の手によって。
 それらを間近で目にすることも、人と人や人とそれ以外が戦争をしている中に加わっていることも、もっと言えば解析不可能な異世界という場所に居ることさえも、普通では考えられない体験であることに間違いはない。
 日本で一介の高校生であったはずの僕が、この世界では一国の軍隊を預けられている身となっている。
 勇者の仲間として。
 グランフェルト王国の元帥として。
 多くの人間の上に立ち、一国の代表として異国の面々と向かい合わなければならない僕の立場上あからさまに落胆している様を見せるわけにもいかず、どうにか冷静さ平静さを維持しようと強く言い聞かせながら指定された部屋へ向かって別棟から本棟へ繋がる廊下を歩いていく。
 時刻は昼を少し過ぎたあたりだろうか。
 隣には三人の女性が居る。
 僕がこの世界に来るきっかけとも言える出会いを果たした正義感の塊の様な人である銀髪の美少女セミリア・クルイード。
 協調性の欠片も無く、どこまでも我が道を行く人でありながら子分扱いの僕に対しては有無を言わさぬ態度の中に面倒見が良い部分も見せてくれる童顔の割に親分肌、姉御肌な少女サミュエル・セリムス。
 そんな僕と歳の変わらない女性二人に加え、豪放磊落でお酒が大好きで大雑把な性格の持ち主であり、それでいて強い意志や仲間意識の持ち主でもある僕の相棒ことジャクリーヌ・アネット。
 それぞれがこの世界では女勇者という肩書きを持ち、恐ろしく強いだけではなく理由は違えどいつだって誰かの代わりに、何かを守るために、戦うことを自らの使命とする凄い人達だ。
 誰をとってもこの世界では有名人であり、そんな女性達と肩を並べる僕のなんと平凡なことか。
 という至極冷静な客観的見解を述べる行為など飽きる程にしてきたし、三人と同列に語られることに対する周囲の評価を訂正しようとする行為も諦めてやめることにしたので今更それについて深く言及するつもりはないが、何百人だったり何千人だったりの軍隊の中にあって個としての強さで最上位に位置するのが若い女性ばかりなのだから末恐ろしい世界である。

「どうぞ」

 そんなことを考えている間に目的地に到着。
 部屋の前で待機している二人の兵士が大きく派手な扉を開き、僕達を中へと促してくれる。
 謁見の間。と、この国この城で表現されているのかどうかは定かではないが、用途としては同じ意味になるであろう国王が国王として他者と話をするための部屋である。
 到着に予定を大幅に超える時間を要したことや、例の聖水による城内に居る全ての人間を対象とした魔術に犯されている者を判別するための検査を行ったこともあって本来昨日のうちにするべき会合を行うことが出来ていない状態だ。
 そして今日の午前中は三国それぞれがそれによって後回しになっている作業、或いは新たに生まれた後回しにしてはいけない職分を全うするために奔走していたこともあってようやくこの連合軍の幹部が集まっての話し合いの場が設けられた次第である。
 僕達グランフェルト勢は運び込まれたまま放置されていた物資の点検や運搬を担当した。
 サントゥアリオの兵士達は大幅な増員となったシルクレア、グランフェルト両国合わせて二千人弱の兵士の装備の用意や乗ってきた馬だったり荷馬車だったりの処理を。
 そしてシルクレアの上層部は先述の検査の結果によってこの城の牢獄に幽閉されることとなった数百人の兵士への聴取に加え、そうでない兵士にも話を聞いて回ることにしたようだ。
 強制的に服従させられ、再び味方に牙を剥く可能性があるからこその処置とはいえ、大魔王と呼ばれる存在の命令が無ければその危険性は無いため監禁や拘束というわけではなく単なる隔離という意味合いが強いものではあったが、かといって予め何らかの命令を受けている可能性を否定出来る材料もないということもあって最低限の自由しか無い様な状態を強いられているのだから不憫で仕方がない。
 聴取によって何か少しでも状況が良くなる情報が明かされればいいんだけど。と思う気持ちはあれど、そう簡単な問題でもあるまい。
 何よりも、それら各国がやるべき仕事が全て終わったから招集されたというわけではないのでそれに関しての報告はまだ少し先になるだろう。
 ではなぜこの昼食前のタイミングになったのかというと、一旦港に行って諸々の処置を指揮していたハイクさん、アルバートさん、レザンさんがこの本城に到着したからである。
 森の中で暴走した兵士の移送、そして隔離。
 港に残って船を守る兵士だったり遊軍に位置される僕達の移動の間のみ港で待機していた兵士の検査と事後処理。
 それらを終え、残った遊軍と共に三人が城に合流したタイミングを選んだというわけだ。
 広く奥行きのある豪華な部屋を、赤い絨毯の上を歩いて玉座の方へと歩いていく。
 既に僕達以外の幹部は全員揃っているようだ。
 総勢は二十三人。
 二十七歳にしてこの国の王を務め、世間では【異例の王】と呼ばれているらしい人物でもあり、その外見的特徴を述べるのならば超絶イケメンと言う他無い端正な顔立ちをしたブロンドの男性パトリオット・ジェルタール王。
 この国の軍隊である【王国護衛団レイノ・グアルディア】の総隊長を務め、【雷鳴一閃ボルテガ】の異名で天武七闘士に名を連ねる短い金髪に大きな槍を背負った若い女性エレナール・キアラさん。
 その護衛団の副隊長で、どこか冷たく無機質に感じられる表情や声に首筋に見える大きな傷跡が怖い人という印象を抱かせる大柄な男ヘロルド・ノーマン。
【上級大臣】というこの国の複数居る大臣の中で一番上の地位に立つ頭髪の薄い小柄な老人マッド・エレッドさん。
 十五歳と若くして王国護衛団の魔法部隊隊長を務める幼い顔立ちをした気弱な少年コルト・ワンダー君。
 この世界で一番の大国シルクレア王国の王であり、【姫騎士】という二つ名を持っている強さも美しさも世界一と名高い真っ赤な髪の若き女王ラブロック・クロンヴァール王。
 そのクロンヴァールさんの腹心であり、世界一の魔法使いと言われていて【千術道師ミルマージ】という異名を持っているガタイの良い渋い外見をした中年の男ロスキー・セラムさん。
 クロンヴァール王の側近の一人であり、背丈程のブーメランを武器として扱う煙草好きな青年【六つの翼セラフィム】ことダニエル・ハイクさん。
 同じくクロンヴァール王の側近の一人であり【天元美麗蜘蛛アルケニー】と呼ばれているらしい王への愛と子供っぽい言動が留まることを知らない派手な頭髪をした糸使いの女戦士クリスティア・ユメールさん。
 シルクレア王国の兵士を纏める兵士長という肩書きを持つ、見た目だけは唯一普通の人に見える一見長髪の優しいおじさんという雰囲気でありながら実は凄い人であるアルバートさん。
 僕と変わらない歳でありながらシルクレア王国の諜報員という役職であり、いつだって微笑を崩さず心の内が読めない底知れない雰囲気を持った少年AJことアッシュ・ジェイン。
 というこの世界におけるツートップと言える二国を支える人達に加え、王国護衛団の各部隊を纏めるポジションにある士官という立場の兵士が六人とこの城での鳥を使った手紙のやりとりを担当している通信係の男を加えた十八人に僕達四人とレザンさんを加えた合計二十三人だ。
 それぞれが玉座の周りに集まっている中、一番最後になったことへの謝罪を僕が代表してジェルタール王に伝え、特に咎められることもなく優しい言葉を貰ったところですぐに本題に入ることとなった。
 ちなみに、という話になるが、ジャックは当初の予定などお構いなしに『二代目勇者のジャクリーヌ・アネット』だとサントゥアリオの人達に自己紹介してしまっている。
 忘れているだけなのか、そうするべきだと判断したのかはまだ聞いていないけど、持っている情報や経験も含め向こうの人達にとっても驚きの後に力強い味方だと思っているような反応があったので特に悪いことというわけでもないのだろう。
 それはさておき、進行役を務めるのはやはりこの三国連合の大将であるクロンヴァールさんだ。
 クロンヴァールさんはまず初めに僕やジェルタール王に対して一連の騒動に関しての詫びの言葉を口にし、次いで帰国中のこの国の状況報告を求めた。
 原因や方法が不明の状態で誰かを責めることなど出来ないと思う僕の考えは甘いということなのか、当然のこと立場や外聞の問題もあるのだろうが、それを『醜態』と表現するクロンヴァールさんの徹底した厳格な態度には王としての矜持や使命感が垣間見えると同時に同じ王や戦士であっても他の誰とも一線を画す遙か高みからの見地に立っていることが窺える。
 どうしたって凡人の僕にはシビア過ぎるように思えてしまうこともあって同意したり賛同したりが難しい部分も多いのだが……それは一般論で正否を語れるものではないので中々口にすることも出来ず。
 どこか『それが正しいことなのだろうか』と引っ掛かりが残る心の内を晒したことは無かった。
 それは間違いなく僕の中での常識とこの世界のそれが全く違うからこそ感じることなのだろうが、いずれにしても今この場であれこれと一人で脳内論争を繰り広げている場合ではないと切り替え、話に集中することに。
 ジェルタール王の指名によって代わりに求められた報告をしたのはキアラさんだった。
 その話の中身はというと、前に聞いた襲撃事件の話がメインといったところか。
 攻撃を受けたのはスラスという名前の町で、今現在帝国騎士団に占拠されている主要都市、その複数の中心に位置することから軍事的拠点としての側面も持つ主要都市と並ぶ程に重要度が高い町なのだそうだ。
 そのスラスにはスコルタという城塞があり、本城に次ぐ兵力を備えていたものの、その城塞は半壊させられた上に兵士の半数以上が死傷するという壊滅的被害を受けた。
 そんな話だ。
 その辺りは国を出る前に多少なりクロンヴァールさんから聞いてはいたけど、それまで滅多になかった首魁であるエリオット・クリストフなる人物が自ら指揮していたということや、キアラさんが兵を率いて援軍に向かったものの、到着すると同時に撤退していったという話は少なくとも僕達にとっては今初めて聞いた情報だった。
 主要都市の占拠も然り、そういった痛手の度合いが大きい場所ばかりを狙いながらもあっさりと撤退したり人質の様な扱いをするだけで非道な殺戮に及ばないのは以前から推察されていた通り時間稼ぎが目的だからこそなのだろう。
 では何のための時間稼ぎなのか。
 僕達は既にその情報を持っている。それが以前との大きな違いだ。

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