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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑥ ~混血の戦士~】
【第四章】 隠し玉
しおりを挟むそんなこんなで食事を終え、クロンヴァールさん達と別れると僕は真っ直ぐに自分用の部屋へと戻る。
あと一、二時間もすれば城を出なければならないということもあって、その前に少し仮眠でも取っておくかと密かに決めていた僕だったがどうやらそれはお預けということになりそうだ。
部屋には他に二人の姿がある。
大振りの剣を背に負い、両手足と胸部に鉄製の鎧を着けた戦士らしい格好。
背中まで伸びた銀色の髪だけではなく、世界一の美貌と言われているクロンヴァールさんと同じレベルの、僕の生涯でワンツーフィニッシュとなるであろうことを十六歳にして確信してしまう程に綺麗な顔をした正義感や使命感に溢れ『悪を討ち弱きを救う』ことを己の存在意義としている真面目で直向きな性格をしたこの世界の女勇者の一人、セミリア・クルイード。
そして同じく腰にキラキラと宝石が散りばめられた派手な鞘の剣を携え、両側の側頭部だけが編み込まれているコーンロウで真ん中はストレートヘアという奇抜な髪型をしていながらそれよりも上半身の下着と大差ない服により露出度の限界値を追い求めたかの様になっている格好と僕が出会った誰よりも大きな胸が特徴的過ぎる、酒好きで大雑把な性格の持ち主にして腕は一流で培った経験も誰にも勝る百年前のこの世界の女勇者、ジャックことジャクリーヌ・アネットである。
ここ最近は色々あったため二人は僕の部屋で過ごす時間が多くなってはいるのだけど、今日に限っては少し事情が違っていた。
クロンヴァールさんと同じく、というわけでもないのだろうが『少し話しておきたいことがある』とジャックが言ったことがその理由だ。
ちなみに部屋に戻る際にサミュエルさんの部屋に立ち寄って声を掛けたのだけど、部屋着のサミュエルさんに『興味無い』と、バッサリ拒否られたらしい。
一度国に戻ってからというもの、サミュエルさんの馴れ合い拒絶具合に拍車が掛かっていると思うのは気のせいではあるまい。
それは弱さでしかないと頑なに主張するサミュエルさんだ。
恐らく強く在るためには不要なものだという気持ちが一層強くなってしまっているのだろう。
怒られようと文句を言われようと明日にでもまた様子を見に行ってみよう。
そんなことを考えつつ備え付けの椅子に座り、セミリアさんが正面の椅子に、ジャックがベッドの上にそれぞれ腰掛けたところでジャックの話が始まった。
「「リフトスラッシュ?」」
セミリアさんと声を揃え、ほとんど第一声とも言えるジャックの言葉をそのまま繰り返す。
この世界ならではの単語であったなら聞き覚えの無い僕にその意味を理解出来るはずもないと開き直りかけたが、セミリアさんも同じ反応であるあたり僕の無知はあまり関係なさそうだ。
「おうよ、それがアタシの能力ってやつでな。生まれ持った覚醒魔術ってほど大袈裟なもんでもないが、一応はオリジナルの技だ。今後も肩を並べる以上おめえらにだけは教えておこうと思ってな。極力は他言無用で頼むぜ」
こちらのリアクションが期待通りだったのか、ジャックはどこか満足げだ。
「アネット様、それは一体どういった能力なのですか?」
「口で説明するよりやって見せた方が早いだろう」
そう言って傍にあった枕を手に取りそのまま立ち上がったかと思うと、僕にその枕を押し付けてくる。
「相棒、ちょいと手伝ってくれや」
「それはいいけど、何をしたらいいの? ていうかこの枕の意味は?」
「見りゃ分かるさ。取り敢えずそこで立ってくれりゃいい」
いまいち要領を得ないが、ひとまず言う通りにすることに。
ジャックは僕達から離れ、こちらを向いたまま剣を抜いたかと思うとそのまま勢いよく横一線に剣を振り抜いた。
黙って見守る僕達の前で特に何が起きるわけでもなく、それでいてジャックはそのまま剣を鞘に収めてしまう。
「よし、相棒。その枕をこっちに放ってくれ」
「放るの? よく分からないけど、いくよ?」
「ああ」
何が何やらという感じではあるが、言われた通りに持っていた枕をトスしてみる。
それは緩やかに弧を描いた枕がジャックの身体に到達する直前のことだった。
どういうわけか、宙に浮いたままの枕が真っ二つに切り裂かれた。
ジャックが何かをしたようには見えなかった。しかし間違いなく二つに分かれた枕が地面に落下し、中に詰まっていた羽毛が大量に舞っている。
直前に剣を振っていたことを考えるとあれが何かしらの意味を持っているんだろうけど、それにしたって意味不明過ぎる。
「これは凄い」
「そうだろ。これでもそれなりに使える能力だぜ?」
「凄いのは同意だけど、具体的にどういう力なの? 原理というか、物理的にというか」
この世界の魔法的なものに対してそんなものを求めることが間違っているのは重々承知だけど、僕こと常識人からすれば一応言っておかなければ始まらない。
「分かりやすく言えば斬撃の再現、だな」
「再現っていうと、さっき一度剣を振ったことで今みたいなことが出来るようになるってこと?」
「そういうことだな。実際に剣を振った軌道に同じ威力と攻撃範囲を持ったまま繰り出すことが出来る。勿論、その時に剣を持っていなくともだ」
「もしかして、一昨日ジェスタ……じゃなくて天鳳と戦ってる時に光線を弾いたのもその力?」
「そういうこった。攻防どちらにも使えて視覚に映らない分ハッタリも効く。中々便利な能力だろ?」
「目に見えず、剣も必要せずに攻撃が出来るとなれば無敵とも言える能力ではないですか」
セミリアさんも感心している。
その感想には大いに同意出来るところだ。
ジャックは今この瞬間に誰かが目の前に立っていた場合、その誰かを棒立ちのままでも殺傷出来るということになる。
しかも目には見えない斬撃であるとくれば、それはすなわち誰にも気付かれずに攻撃出来るというわけだ。
流石は伝説とまで言われている勇者という感じである。
と、率直な感想として思った僕だったが、それはジャック本人がすぐに否定した。
「残念ながら無敵という程でもねえんだなこれが。直前の一度の分しか再現出来ないことに加え、剣を使わずに攻撃出来るってだけで形状は普通の斬撃と変わらねえ。目には見えないとはいえ、腕の立つ奴がそう簡単に黙って食らってくれるようなもんでもねえさ。逆上してるマヌケ相手じゃなけりゃな」
「なるほど、そういう性質なのですね。ですが気を使いこなす能力の高さといい、アネット様の強さの全貌がようやく分かった気がします」
「ま、そう言ってもらうためにゃもうちっと戦闘で役に立たねえとって感じだがな」
「やってることとしては前に教えてくれた斬撃波ってのとはまた別物なの?」
斬撃波。
セミリアさんやサミュエルさんがよく使っている、武器の先端や刀身から衝撃波の様なものを飛ばす技というが技術というか、そういう攻撃手段だ。
「似た様なもんだな。あれの応用版っつーか改良版っつーか、そんなところだ。相棒の傍にゃ凄腕の戦士ばかりが揃っているから見慣れてるかもしれねえが、実際のところはあれ一つでもそこらの兵士にゃ十年二十年掛けてようやく身に付くかどうかって技術なんだぜ?」
「やっぱりそういうものなんだ」
確かに他の兵士が同じ事をしている姿を見たことはない。
簡単に出来ることではないんだろうなと思ってはいたけど、その度合いまでは知らなかったので今更納得という感じである。
「とにかく、だ。アタシがこういう力を持ってるってことは頭の隅にでも入れておいてくれや」
「了解しました。教えていただきありがとうございます」
「僕も同じく。だけどジャック、一つだけ言いたいことがあるんだけど」
「あん?」
「僕の枕……どうしてくれるのかな」
無惨にも切り裂かれ、中に詰まっていた羽毛が飛び散ったせいでただの床に捨てられた二つの布切れと化した僕の枕の痛ましい姿をちらりと見る。
そんな僕に対し、ジャックは『なんだ、そんなことか』とでも言う様な、もっと言えば『アタシに抜かりはねえ』とでも言いたげな安心感を与えてくれる様な顔をして自分の胸をペチペチと叩いたかと思うと、続けた言葉で見事にその期待を裏切った。
「ここにちゃんとあるじゃねえか。お前さん専用の枕がよ」
「もういいからそれは……」
案の定、最終的には肩を落とす僕が残るという終わり方がお約束なジャックのお話だった。
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