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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている⑤ ~破滅の三大魔獣神~】
【第五十八話】 陰謀の魔術
しおりを挟むすっかり日が落ち始めた森の中。
長い長いジャックの話が終わると、そのあまりにも衝撃的な内容のせいか誰もが咄嗟に感想を漏らすことも疑問をぶつけることも出来ずにシーンとしてしまっていた。
壮絶過ぎる過去。
そう思わざるを得ない、残酷な記憶だった。
ただ天鳳を倒すために勇者だったジャックが百年生きながらえることを選んだのだと、僕は思っていた。
それは決して勘違いや誤った憶測というわけでもないはず。なぜなら当初のジャックの口振りではそれ以外に解釈のしようがないからだ。
しかし、真相を聞いた今になって考えると僕は確かにその片鱗を随所で見聞きしてきていることを自覚させられる。
例えば一番最初にこの世界に来た時、僕達はジャックが生まれ育ったという『名も無き集落』に行ったし、その場所が『勇者が生まれた地』と呼ばれていることも聞いた。
そこで形だけのお墓に手を合わせたりもした。
あれは当時の約束通り、ジャックがネックレスになったことを誰も明かさなかったからこそ作られた物だったのだろう。
それでいて百年が過ぎてもあの場所で暮らす人達にとってジャックが敬意を表するべき人物であり続けているということだ。
そして、本人の口から聞いたこともある。
あれはサミットのためにこの世界に来た日のことだったか。
自分はグランフェルトの王家に嫌われている。そんなことをジャックが言ったのだ。
その時は聞き流してしまった記憶があるけれど、そんな深い事情や意味があるだなんて正直言って思いも寄らなかった。
「一つ聞く」
そこでようやく、クロンヴァールさんによって静寂が破られる。
しばしの無言の間はジャックの過去に驚くあまり言葉を失っていたというよりも、どちらかというと聞いた話が今の自分達にどう影響し、どんな被害をもたらすのか。そういうことを考えていたせいである様に見えた。
「言ってみな」
「その魔術の正体は解明出来ているのか?」
「いんや、残念ながらそこまでには至ってねえ。エルワーズの見解では呪いの類ではなく、暗黒魔術かそれに類似する性質を持った何かだろうってことらしいがな」
「それはつまり……解く方法があるかどうかも定かではない、ということか」
「そういうこった。術者が死ぬ以外に、という意味で言えばな。ついでに言えばどういう方法、どういう魔術でそうなっているのかもアタシ達は知らねえ。表現としては『操られている』というよりも『服従させられている』ってのが正しいんだろう。直接の命令がなけりゃ効力を発揮しないみたいだからな。だが、そこに意志が介入する余地がねえなら大差ないだろうよ。どこまでもクソったれた能力さ」
「大魔王は四つの暗黒魔術を操ると言っていたが、全て把握しているのか? 件の魔術を含め既に三つは今この場で目の当たりにしているとはいえ、どう考えてもまともではない」
「黒魔術や死霊魔術、召還魔法の類を複数習得することは不可能に近い。人間であれば尚更な。だが、野郎が性質上の限界値と言われている四つの黒魔術を扱うことは間違いない。本人の口から直接聞いたってのもあるが、それ以前にこの目で見ている」
「カオスフィールドと言ったか、我々の攻撃を掻き消したあの黒い霧、大地を揺らした魔術、そして兵士達の意志を奪い操る謎の魔術。あと一つはどのような術だ」
「指から閃光を放つ。盾程度では防御出来ないぐらいの馬鹿げた威力だ。仲間はそれで腕一本千切られた」
「大魔王の化け物具合なんざ今更確認するまでもねえだろう。黒魔術をいくら使おうが関係ねえ。さっさと奴を始末しねえとあいつら一生牢の中ってわけだ。死んだ奴等も含め、あまりにも報われねえよ。それも、うちの国のもんばかりだ」
そこで、例によっていつの間にか煙草を咥えているハイクさんが割って入った。
なぜ操られていたのがシルクレアの兵士ばかりだったのか。それは僕も気になっていたところではある。
そんな疑問はどういう方法でそうなっているのかは不明だというジャックの説明によって飲み込んだわけだけど、だからこそハイクさんの言う通り操られていただけなのに命を落とした人が居るという現実が重くのし掛かる。
操られていたから命を落とした人、操られていた人によって命を奪われた人、どちらを取っても理不尽極まりないし、本当に報われない。
そして、更に悪いことに不安要素はそれだけではないのだ。
ジャックの話を聞いたことでそれがあの大魔王という存在の仕業だという情報を得たからといって、では心配の種が無くなったかというと全く以てそんなことはない。
まず第一に、あれだけ大勢に対して同時に効力を発揮出来る魔術でありながら実体は定かではないということ。
それはつまり、自分自身が同じ目に遭う可能性があるということだ。
何らかの魔法を掛けられて、大魔王に服従せざるを得ない状況にあることを自覚しているならば彼等は間違いなくそれをクロンヴァールさんに申告しているはず。ジャックの話に出てきた人達にも同じことが言えるだろう。
そうしていないということは、イコール魔法を掛けられた本人にその自覚が無いということになる。
可能性の有無で言えばそれを禁じる様な命令を予め下しているというパターンも考えられるが、やはり行動に移すことが出来ないのであれば大きな違いはない。
知らない間にそうなっていて、そのせいで仲間を傷つけ、自身も命を落とすことになりかねないという洒落にならない状態。
或いは、それを自覚していながら為す術なくいつか言われるがままに味方に仇をなすことになる恐怖に怯えて過ごさなければならない絶望的な状況。
いずれにしても当事者にとっても、それ以外にとっても精神的なダメージや肉体的な危険が大き過ぎる最悪の能力であることは間違いないと言っていい。
そしてもう一つ。
この場に居た兵士が大魔王の命令に従ったがゆえに起きた惨事だというのならば、この場に居ない兵士がその状態ではないという保証は無いということだ。
港に居る兵士。
後方で待機している兵士。
もっと言えばそこに含まれておらず、かつ味方であるはずのサントゥアリオの兵士が同じ状態であったならこの先もまた同じことが起きる可能性が大いにある。
今この場で経験したことやジャックによって明かされた事実が今後一致団結するべき味方に対しての不信感や疑心暗鬼に繋がっては同盟や連合軍という言葉の意味や前提が崩壊してしまうだろう。
そうなっては魔王軍の侵攻から世界を守るだとか、助けを求めている人達を助けるだとか、そういう話ではいよいよ以てなくなる。
そんな僕の人知れず思い浮かべる最悪の未来予想図は、同じ事を考えていたらしいハイクさんの言葉に対するジャックの答えが明らかにした新たな事実が僅かな希望をもたらすこととなった。
「アタシとて大魔王の去り際の言葉がきっかけだったって確信を得たのは口から吐き出された黒いモヤを見てからだった、知らないままで判断出来るはずもねえよ。だからこそ厄介なわけだ」
「問題はそれだけじゃねえだろう二代目勇者さんよ。この場に居た兵士が服従させられた。それが事実なら、この場に居ない兵士の中にも術に掛かっている奴が居る可能性があるってことだ」
「それについてだが、一応対策はあるぜ」
「対策?」
「術を解くことは出来なくても、術に陥っている奴を見分ける方法ってもんがあってな。分かるか、相棒?」
そう言ってジャックはハイクさんから僕へと視線を移した。
なぜ敢えて僕に問うのだろうか。
クロンヴァールさんみたく僕を試そうとしているのかもしれないけど、それにしたってジャックは満足のいく答えを用意出来るかどうかで僕の器を計ろうとしたりはしないはずだ。
ならば恐らく、僕ならば考えれば行き着くであろう答えであるということ。
僕が知っていること、見たり聞いたりした経験があること、体験したこと。
その中に答えがあるとするならば……。
そう考えて記憶を辿ろうとした時、すぐに答えは見つかった。
今と同じ事情というわけではないが、かつて見知った顔でありながら敵か味方を見極めなければならないという状況を経験したことがある。
「もしかして……聖水?」
少し躊躇いがちになってしまいつつ、僕はその答えを口にする。
サミュエルさんやリュドヴィック王が変身した偽物の可能性があるという中で、そういう名前の謎の液体を口から流し込むという暴挙によって本物であることを確認した。
普通の人間には害はない。ということや、魔族であれば苦しむか、そうでなくても何らかの反応を示す。それによって判別することが出来るのだと教えてくれたのは他ならぬジャックだったのだ。
敵に操られている、という今の問題にどこまで当て嵌まるのかは僕には当然ながら分からなかったが、すぐにジャックが僕の答えを肯定する。
「ご名答だ。人ならざる者による魔力の影響である以上は聖水を口からぶち込めばすぐに分かる。あのエルワーズが研究、解明したことだ。間違いねえ」
人間である以上そうでない者は何も反応を示さず、そうである者は多少の苦しみを伴うが、かといって後遺症が残ったりすることはない。
そういう方法なのだとジャックは言う。
それが事実であれば少なくとも危険を犯すことなく、かつ新たな犠牲を増やすことも避けられるということだ。
今後どういう方針を取るにしても、いつ味方に襲われるか分からない状況は脱したということを証明出来るだけでも精神的な負担が段違いとなるだろう。
今はそうする他ないことも含め同じ考えを抱いたのは僕だけではなかったらしく、この後すぐにクロンヴァールさんによって方針が決まり、僕達は再びサントゥアリオ本城を目指すこととなった。
僕達は後方で待機している部隊と合流して城へ、ハイクさんだけが今聞いた話と今後の方針を伝えるためにアルバートさん達と合流するべく港へと向かう。
出発前に再び城へと手紙を飛ばして集められるだけの聖水を用意するように伝えており、全ての関係者に例の処置を施すということだ。
シルクレアの兵士、グランフェルトの兵士、兵士以外の人も含めたサントゥアリオの城に暮らす全ての人間が対象となり、ハイクさんやアルバートさん、レザンさんは港に聖水が届き、持ち場に関係無くそこにいる兵士全ての状態を確認次第事後処理をし、兵数に大幅な減数が出た場合にはそれを調整してこちらに合流するようにという話だ。
既に半ば過ぎまで来ていたこともあり、二時間程の移動でサントゥアリオ本城へ到着するとすぐにジェルタール王の他キアラさん達幹部を集めてもらい、道中起きた事や分かった事の全てを説明するなり三国がそれぞれ分かれて山の様に積まれた瓶入りの聖水を使って城内に居る者全てへの検査が始まる。
到着した頃には日が暮れていたことや、兵数が多いシルクレアと大臣や使用人も含まれるサントゥアリオの両国が特に時間を要したこともあり、全てが終わったのは随分と遅い時間になってしまっていた。
僕とセミリアさん主導の下、立場的なものもあって一番最初に僕も一口程度の聖水を飲み込んだのだが特に体に異変も感じられず、幸いにして僕達グランフェルト勢には誰一人として大魔王の魔術の影響下にある人は居なかった。
何よりも危惧されていたサントゥアリオ上層部にも、それどころか兵士大臣使用人全てにも同じく幽閉対象は居らず、結果的に被害を受けていたのはシルクレアの兵士だけであることが判明した。
港からの報告も合わせるとシルクレア兵ばかり、約七百人。
大魔王の命令がない限り大きな問題が起きる心配は無いとはいえ、クロンヴァールさんはその全てをこのお城の、或いは船内の牢へと抑留することを決めると同時に近衛兵と呼ばれるクロンヴァールさん直属の部隊を一旦帰国させ、国に残る兵士達にも同じ処置をするように命令し、すぐに実行に移させていた。
どうしてシルクレアの兵士達ばかりだったのか。
そんな議論も少しばかり行われたものの答えが見つかるはずもなく、本来到着次第今後の予定や戦略の組み立てについて話し合う予定だったのだが、その作業に多大な時間を要してしまったため明日の午前に行うことになって一旦解散することとなった。
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